17話 オリエンの気持ち
「オリエン…にマチルダ…?」
「えっ…」
マチルダちゃんとブローチを買うのに選んだのは、前にエリアスに指輪を買ったアクセサリーショップ。気持ちを切り替えようと思い足を運んだのだが、そこで俺は今一番会いたくない人と出会ってしまった。
「二人で何してるの…?」
少し怒っているような雰囲気を醸し出すエリアスは、俺の腕を引くために握っていたマチルダちゃんの華奢な手をじっと見つめた。すると、マチルダちゃんはパッと手を離し
「ブローチを買いに来ただけよ、オリエンはその付き添いで来てくれたの」
そう、つらつらと話す。それでもエリアスは何かを疑っているのか俺の顔を確かめるように見つめた。
エリアスの顔を見ることが出来なくて目を逸らすと胸に手をやった、やはりエリアスといると心臓がキュッと縮むのだ。
「ね?」
「おうっ!」
そんな俺の様子をみかねてマチルダちゃんは次に話す言葉を用意してくれた、言葉が出なくて焦っていた俺は助け舟に乗っかる。
「そっか、マチルダはブローチ好きだしね」
答えるとエリアスはニコッと笑みを顔に戻した、何故不機嫌になっていたのかわからないが治ったようで良かった。
「エリアスは何してたの?」
綺麗に並ぶアクセサリーを見ながらマチルダちゃんはエリアスに質問した。しかし、エリアスからすぐに答えは返ってこない。
「…僕も何かアクセサリーでも買おうかなって」
やっと帰ってきたのはそんなありきたりな答えだった。まさか、誰かへのプレゼントでも買ったのだろうか。そう思うと胸にチクッとした痛みが刺さる。しかし、何故痛くなったのかはわからない。俺はどうかしてしまったのだろうか。
「僕はまだ用事があるからまた後でね」
「お、おう…」
それだけ話すとエリアスは俺達に背中を向けて歩き出した。いつもなら面倒くさいほど俺と一緒にいたがるのに、どうしたのだろうか。
嫌われた?そんな考えが頭に過ぎる。いつもなら喜ぶことなのに胸がまた痛くなった。すかさず確認するために【好感度メーター】を発動する。しかし後ろ姿から見える数値に変動は全く無かった。
俺はほっと胸を撫で下ろす。しかし、行動してから気づいたが、必死すぎる。それに好感度を下げるのが目的だったはずなのに今はそれが酷く怖いと思ってしまっていた。
「…ねぇ、オリエンこの色とこっちの色どっちがいいと思う?」
マチルダちゃんに問われてやっと現実に意識が戻る。そしてそれを見ればブローチの色は一つは藍色でもう一つは水色だった。
「えーとこっち?」
直感で俺が何となくマチルダちゃんに似合にそうだと思った水色を指さす。するとマチルダちゃんは悲しそうに笑った。
「じゃあ、藍色にしようかな」
「えぇ…?」
これは、あれだろうか。本当はどっちが欲しいか決まっていたみたいな、好きな方を選ばれなくて悲しいみたいな、そういえば前世でも妹にそんな答えが決まっている質問をされたことがあった。
「ごめんね?」
マチルダちゃんは戸惑う俺にそう微笑むと買ったブローチを胸に辺りに付けた。
「いや…」
その儚げな顔を見てしまうと文句を言えるはずがない。俺も何かブローチを選ぼう、そう思ってすぐに目線を様々なブローチへと移した。どれも綺麗だがいまいちピンとこない。
「俺も買おうと思ってたんだけどなぁ…」
ブローチを付けたらエリアスは気づくだろうか、いつもみたいに褒めてくれるだろうか、そんな考えが浮かんできてしまう時点で買うのはよしたほうがいいかもしれない。軽くため息をつくと俺はサンドイッチを包んでいた紙をクシャクシャにまとめた。
◇◇◇◇
「悪いわね、本当にただ付き合わせるだけになって」
日が暮れ始め、今は宿へ向かっている。そんな時にマチルダちゃんが呟いた。
「全然!また誘ってよ!」
確かにサンドイッチ以外俺は何も買っていなかったが、心の整理にもなったし、何より楽しかった。だから笑顔でそう答えると、マチルダちゃんは小さく笑った。お日様のように眩しい。
「私エリアスとの関係応援してるからね」
「えっ、いや!エリアスへの好きは…そういう…じゃ……ない!!!はずだから…!!」
いきなりの爆弾発言に焦る。第三者から言われると一気に恥ずかしくなって手で顔を扇いだ。
「私に嘘は効かないわよ?」
ついにそう言われると顔に熱が集まるのを感じる。嘘をついているつもりはないし心の声も漏らしてはいない。つまり、きっと女の勘と言うやつだろう。
「敵わないなぁ…」
俺も何となくわかってはいる、気づかないようにしているだけだ。
多分俺は―――エリアスが恋愛的な意味で好きだ。
でもだからって告白をするつもりはない。俺はエリアスの好感度を50にしないといけないのだ。そんなことできるはずがない。宿の目の前にまで来ると俺は誰にも気づかれない程度にため息をついた。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
マチルダちゃんへそう言うと俺は宿の階段を登った。木が軋む音がする、一般的な古宿。しかし部屋は小綺麗でかなり気に入っている場所だ。
今日あったこと、そしてエリアスへの気持ちを考えると、もう疲れてきて俺は服も変えずにベッドにダイブした。
「もう…寝る!!!」
寝て起きたら全部落ち着いているはずだ。この心のもやもやも、エリアスを思うと鼓動が早くなるのも、全部、全部…
トントン
その時、扉がノックされて心臓が口から飛び出る。
こんな時間に誰だ、文句言ってやる。
「今何時だと思って………」
そう息巻いて扉を開けるが、俺は文句を言うことができなかった。それどころか、動きも思考も完全にフリーズする。
「オリエン…ごめんね」
「いや……いいけど………」
扉の前に立っていたのはさっき会ったばかりのエリアスだったのだ。今まさにエリアスについて一人悶々としていたのにご本人に登場されたら爆発するに決まっている。
「どうしたんだ…?」
エリアスを部屋に案内すると、さっそく用件を聞く。早く帰ってもらえないとエリアスを好きだと自覚した俺の、心臓が持たないのだ。
「話したいことがあってさ。…昨日のこと覚えてる?」
「っえっと、あれな!うん!あれは事故だから、気にするなよ?」
エリアスは少し考えたあと言い放つ。俺は完全に取り乱して適当に目線をそらすことしか出来なかった。まさかエリアスが覚えていたんなんて想定外だった。
「…事故」
「おう!そうだろ?」
そう言ってくれないと困る。俺に期待させないでくれ、俺に希望を見せないでくれっ…
「…僕は本気だったよ。言ったこともやった事も全部、僕オリエンが好きなんだ。子供の頃からずっと」
「な、何いって…」
エリアスからの告白まがいな言葉に、素直な嬉しさと、照れと、少しの恐怖で震える。好感度を下げなければならない、この恋は叶ってはいけないのだ。だから、これ以上は話さないでほしいという思うが、それよりも大きいその先の言葉への期待で、俺は押し黙ってしまう。
「オリエン、僕と付き合ってください。本当はキスよりも先にしたかったんだけど、遅くなってごめん」
エリアスはポケットから手のひらに収まる箱を取り出すと、ゆっくりと開けて俺に差し出した。
それは―――指輪だ。
赤の宝石が煌びやかに装飾されていて、昔俺がエリアスにあげた物と少し似ている。エリアスがさっきアクセサリーショップにいた理由がやっと分かった。俺はあまりの嬉しくて胸がいっぱいになり、涙腺が緩んだ。
「お、俺もっーーー」
幸せに頭を侵されてせっかく冷静にしようとしていた頭が回らなくなる、そして返事をしそうになったその時、時が止まった。
◇◇◇◇
温かい水の中に沈んでいるようだ。意識はあるけど身体が動かない、今日のことは全部夢だったのだろうか。いや、昨日からきっと全部夢だったんだ、エリアスにキスされたのも、自分からキスし返したのも。今日もきっと夢、エリアスと会うと心臓が跳ねたのも、好きだと自覚したのも、告白されたのも、そう全部夢だったんだ。夢から覚めれば普通の日々が戻ってくる、きっとそうだ。
このまま深い眠りについてしまいたい…
『寝るな夢ではない、現実だ』
その時、聞き覚えのある声が聞こえた。声のする方に目線を飛ばす、そこにはこの世界の女神パーフェストの姿があった。雰囲気でわかる、かなり怒っているし、呆れている。
「そうか、夢じゃなかったのか。じゃあ……やばいな…」
『やばい、で済むわけがないであろう』
パーフェストは深いため息を吐くと、そう言った。俺も動揺して、焦らなければいけないのに、この温かい空間のせいか何故か気持ちは凪いている。
『ここは本来、我以外は入れない場所だ。人間を呼べば精神を麻痺させてしまうが…今回は緊急事態だ仕方がないだろう…。』
「なるほど、どおりで」
世界が一瞬揺れて、止まった感覚は気の所為じゃなかったらしい、大方俺が返事をするのを止める為にここに連れてきたのだろう。
「…やっぱりOKしたらやばい?」
『あぁ、お主もわかっていると思うがこのままでは死ぬぞ』
俺達のパーティーはかなり強い、もしかしたら好感度を下げなくてもどうにかなるかとも思ったが、やはりエリアスがチート覚醒しないと駄目らしい。
『…エリアスは将来お主のパーティーに追放され、その恨み辛みからギフトを覚醒させる。しかし、今告白を受ければ、エリアスがお主に恨みを持つことは本当に無くなるだろう』
そういい切るパーフェストの顔にふざけている様子は全くない。本当に俺は好感度50でないと死んでしまうのだと、事実が改めて俺にのしかかる。やはりこの恋は一生叶わないものらしい。わかってはいたが頭が考えることを拒否し始める。
(一応今までも下げようと頑張ってたんだけどな…本当に告白受けなければ下がるのか?)
『…お主今まで本気でエリアスの好感度を下げる気がなかったであろう』
「…っ」
俺は何も言うことができなかった。酷い虐めなどはエリアスが可哀想だからと理由をつけて、後回しにしてきた。勿論、エリアスへの申し訳なさや、可哀想だからっていうのも本当だ。でも、一番はエリアスに嫌われたくなかった、嫌われる準備ができていなかったのだ。なんで漫画のオリエンがエリアスを虐めていたのか、謎なほどに、前世の記憶が戻る前から俺はエリアスが好きだ。それが恋愛的な意味に変わったのはごく最近のことだが。
『エリアスに嫌われることが怖いか…だが、好感度が50を超えているということはエリアス…さらにはこの世界の人間全てが死ぬ可能性があるのだぞ』
「なっ」
その言葉に俺は目を見開く。そして、頭の中には母さん、マチルダちゃん、グレイデン、エリック、そしてエリアスの顔が浮かんだ。
『エリアスの覚醒がなければこの世界は魔王によって支配され、人間はその時みな死ぬ。簡単なことだ、まさか本当に自分だけが死ぬと思っていたわけではないだろう?』
俺は前を向くことが出来ずに下を向いて骨が軋むほど拳を握った。女神には本当に全てお見通しらしい。確かに俺は気づかないふりをしていた。好感度調整に失敗して死ぬのは高かろうと低かろうと俺だけだと。そうすることで俺は仲間の死とエリアスに嫌われることへの恐怖から逃げていたんだ。でも…もう逃げることは許されない。あと最高でも二年で好感度を50にしないと俺は死ぬし、好感度が50を上回れば世界中の全ての人ごと死ぬのだ。
「どうすればいいんだ…」
「ん?」
俺の声が小さく震えていたせいか聞き返されてしまう。だから、俺は前を向き拳をまた強く握りしめ
「どうすればエリアスの好感度が下がるんだ!!」
そう声を張り詰めた。
「覚悟はできたようだな」
黙ってパーフェストの問に頷く。
…俺だけが死ぬならまだ、まだ良かったんだ。でも、世界中の人々を、エリアスを俺の嫌われたくないというわがままで道連れにするなんて一番あってはならないことだ。
好感度50が難しいならそれ以下でも、もういい。それなら俺だけが本来の物語通り死ぬだけなのだから。
俺は生きていてほしい、優しいマチルダちゃんに、元気なエリアスに、実はいい奴なグレイデンに、俺が好きなエリアスに―――
『エリアスは本来よりも強くなりすぎている、元のストーリー通りに弱いから虐めるのは無理だ』
「じゃあっどうすれば…」
確かにエリアスは本来漫画でこの時期は初級魔法しか使えたなかったはずだ。今の上級魔法を操るエリアスを弱いから虐めるのは不自然でしかない。
『簡単だ、エリアスが一番傷つきお主への好感度が下がることかつ、不自然ではな下げ方。それは、お主がエリアスを嫌いになることだ』
「俺がエリアスを嫌いに…?」
『あぁ、バレないのであればフリでもいい、徹底的にエリアスを嫌い、暴言を吐き、遠ざけろ。それだけで今のエリアスは簡単に壊れ、自己防衛の為にお主への好感度が下がるはずだ』
パーフェストは女神とは思えない言葉を並べる。しかし、死ぬよりはマシだ、今どんなに傷ついても、壊れても、エリアスには仲間がいる。マチルダちゃんだって、エリックだってグレイデンだって、これから漫画のストーリーで仲良くなる人たちだって沢山いる、ただ俺がその輪から消えるだけなのだ。
きっと大丈夫。
「わかった…やるよ」
俺は最後に息を吐くとパーフェストに言い放った。
最後まで読んでくれてありがとう御座います!




