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16話 マチルダの読心

「何かあったの?」


次の日も俺達は冒険者として依頼を受けていた。ダンジョンの中層の探索の成功により、パーティーはたった一度の依頼だけでD級へと上がり、順調な滑り出しと言っても過言ではないと思う。そんな俺達が今日受けた依頼はダックラックの大量発生の駆除。ダックラックはD級の片足のアヒルの魔物だ。D級でも複数の魔法を使う個体もいて、かなり危険な魔物だ。

まぁ…今日も今日とて素晴らしすぎる速さで依頼は進みもう半分も残っていないが。

そうやって順調に【剣技】でダックラックを切っていると、突然話しかけて来たのがマチルダちゃんだ。


「い、いきなりそんなこと聞いてどうしたの?」


今話すのはやばい、いつもはパーフェストが今マチルダちゃんが読心のギフトを使っているかどうかを教えてくれるのだが、昨日からネックレスは棚の中にしまいっぱなしで、今使っているかどうかを聞けない。とりあえず適当に心の中でも誤魔化すしかない。


「朝から変だったじゃない、エリアスと顔を合わせようとしないし…昨日二人で宿に帰ったあと何かあったの?」


「いや、特になにもないよ」


(本当に特になにもなかったけどなー)


ダックラックを大剣で払い除けながら汗一つかかずにマチルダちゃんは俺の図星を突いてくる。俺はどうにか心も外見も誤魔化すが内心冷や汗ダラダラだ。

仕方がないだろう…朝起きた時は変な夢を見たと思っていた。しかし、好感度メーターを確認すれば夢と変わらずに200とデカデカと表示されていたのだから。

昨日のことが全て本当だと知るとエリアスの顔を見れるはずがない。昨日のことは悲しいことに全て覚えている、最後自分からキスしたことさえ。自分でも何故あんな事したかわからない、酔っていたからだろうか?この身体はお酒にめっぽう弱いと頭痛とエリアスの好感度を目にして朝に痛いほど思い知らされた。

朝からそんな酷い目にあったが俺の不運はまだ続いた。俺は息をついて今も暴れ回っているエリック、そして怪我をした側から治していくグレイデンに目をやる。


「此奴らって食えるのかな…」


『現在の好感度120』


緊張感なくよだれを垂らすエリックの頭上にはそう表示され、そして


「魔物は死んだら消えるから、食べれないでしょ」


『現在の好感度124』


そうツッコミをするグレイデンの頭にはエリックの好感度ですら手に負えないというのに、それを上回る数字が表示されている。

元々パーティーを組む前から100はそれぞれ超えていたが、まさかここまで一日で上がるとは仰天だ。

別に特別なことはしていないと思うのだが…

心当たりがあるとすれば、酔っ払って褒めまわっていたことくらいだ。マチルダちゃんも少し好感度が上がっているし、まさかそれが本当に理由なのだろうか。

真相は神のみぞ知る。まぁその女神は今俺の棚にネックレスごと封印されているわけなのだが。


(とりあえずアルコールは暫くは抑えたほうがいいのは確かだな…)


「…貴方心の声が漏れてるわよ」


「あっ」


忘れてた…。


「初めて会った時以外簡単に漏らさなかったのに、本当にどうしたの?」


全ては聞かれていないだろうが、少し心の声を出しすぎていたようだ。ここ数年で身につけたマチルダちゃんのギフトへの対策がこうも簡単に崩れ去るとは… 

本当に昨日のエリアスのせいで思考や演技力が乱れている。普通に考えているように見えるかもしれないが、俺は心の表向きはマチルダちゃん可愛い天使、しか言っていない。ちなみにこれをするとマチルダちゃんが凄い嫌そうな顔をする。そんな顔をされて悲しくなり、すべてを遠くで上級魔法を駆使しダックラックを討伐するエリアスのせいにして睨む。


「いやぁ…今日体調悪いかも」


「アルコールをやめるってことはやっぱ昨日エリアスと帰ったあと何かあったようね」


誤魔化そうとする言葉を無視して次々にくるダックラックを切り捨てながらマチルダちゃんは考察し始める。これは非常にまずい、エリアスとキスしてから顔が見れません!とかバレたら恥ずか死ぬ。ダックラックに八つ当たりするように俺も剣技で魔法をいなし、討伐しながら思考を巡らせた、どうすればバレずに済むんだ―――



「まさかっキスしたの!?」


はい、バレました。


「マチルダちゃんっ、しーー!!」


マチルダちゃんの小さなお口に手を当てる。さらに、周囲にパーティーメンバーがいないか首を振って確認した。

一番バレたくないマチルダちゃんにバレた時点で顔から火が出そうだが、これ以上の人に知られたら年甲斐もなく泣き叫ぶ自信が俺にはある。


「マチルダちゃんお願いだから誰にも言わないでっ!!」


ずっと口を塞ぐわけにもいかずに沸騰しそうな脳みそで言葉を紡ぐ。すると、マチルダちゃんはコクリと頷いた。それを確認して手を下ろすと彼女は小さく喉を震わせた。

迂闊だった。依頼を完了し、それぞれ好きなことをしようとなった時、俺は雛鳥のように後ろをついてくるエリアスしか目に入っていなかったのだ。さらに、エリアスの近くにいると昨日のことを鮮明に思い出してしまった。そして、あまりの恥ずかしさから目頭が熱くなり路地裏まで逃げると、マチルダちゃんが追ってきていて今に至る。早く宿に帰らないとマチルダちゃんに色々バレてしまいそうだ。


「まさか手を出してるとは思わなかったわ」


マチルダちゃんは目を細めて、しなやかな指に自分の顎を乗せた。行動一つ一つが綺麗でドキッとしてしまう。話している内容は俺とエリアスのキスについてなのだが。


「いや…エリアスも酔ってたんだと思うんだけどな……?」


こんな話を真剣に話すこの空気が気まずくて笑って茶化す。すると、マチルダちゃんが「え?」と声をあげた。


「冗談よね?」


「…なにが?」


そのまま困惑の顔を向けられるが、困惑しているのはこっちだ。


「まさか…無理矢理押し倒されたの?」


マチルダちゃんはいつものクールな顔を驚愕に変えて俺の背中を慰めるように擦る。なにも理解できないが、俺の尊厳が踏み荒らされそうになっている気がした。


「いやっ!!押し倒されてねーよ………うん!」


…押し倒されたか?いや、一応俺はあの時座ってたし押し倒されたには入らないと思う。

汗を飛ばしながらマチルダちゃんを落ち着かせるが落ち着く気配がない、友達が友達とキスしたと知ったら誰でもこんな反応するのだろうか、そんな経験ないから俺にはわからない。


「いや…違くて、告白されたのよね?合意だったのよね?貴方の言い方だと無理矢理されたように聞こえるんだけど」

 

綺麗な髪をかきあげ頭を抱えながらマチルダちゃんは俺に聞いた。だけど、その問に答えるのは少し難しい。

好き…て言われたが、俺は男だし、友人への好きだと思う。昨日の夜は酔った故の間違いだったのだ。

それに合意かどうかも聞かれたら困る、してもいいとは言っていないがその後俺からもキスしたし。


「ええと…好きとは言われたけど多分友達としてだと思うぞ?昨日のはマチルダちゃんが思ってるようなことじゃないから!!事故だよ事故」


そうだ、俺がただ変に思い出しちゃっているだけなのだ。エリアスの様子からして昨日のことは覚えていないようだし、俺が忘れればきっと綺麗さっぱり無かったことになることだ。そう答えるたマチルダちゃんは息をいっぱい吸って吐いた。さらに、その後「エリアスが可哀想だわ…」と小さく呟いた。


「本当に事故だと思っているの?」


「えっ?」


マチルダちゃんの瞳に俺が反射する。反射した顔は恐怖しているような、期待しているような顔。それを見ると心臓が一気に飛び跳ねる。

いや、何を俺は期待しているんだ?

なんで心臓が早いんだ、なんでエリアスのことばかり考えてるんだ、なんでっ…キス嫌じゃなかったんだ?

エリアスのあの告白が…友達じゃなければいいとでも思ってるのか…?


(…なんで)


「好きだからじゃないの」


その言葉が胸の奥の突っかかりをゆっくり外す。まるでパズルの最後のピースはまっていくような感覚。でも、はめてしまうと後には戻れないきがする。


「好きだから心臓がドクドクするの、好きだから相手のことばかり考えてしまうの、好きだから期待してるの…」


気づかないように蓋をしようとする俺の手をマチルダちゃんは払い除けるように矢継ぎ早に口を動かした。マチルダちゃんの声が震えている、震える言葉はまるでマチルダちゃんが経験したことがあるかのように、切実で、重みがある。


「っ…」


もう、自分の気づいてしまった気持ちは抑えきれない。おかしい、エリアスは友達で、親友で、幼馴染で、そして…、可愛い弟のような存在だったはずだったなのに、今は考えるだけで体温が上がる、キスの感触が忘れられない。

いつから?俺は男を好きになるのか?疑問が浮かび上がるが脳が砂糖に溶けて仕事を放棄する。


「俺…エリアスのこと好き…かも」


言葉で言うと整理されるどころか頭がキャパを超えてボーとする。


「っ…じゃあ言ってあげないとね」


「…うん」


まだマチルダちゃんにも告白してないのに、なんで…こんなことになったんだ……?

考えても考えても言葉が出ない、気づけばマチルダちゃんに手を引かれ、日光が降り注ぐ場所に連れ出された。


「ねぇ…最後にデートしましょう」


「ふえ…?」


マチルダちゃんが何を言ったのか理解ができない、さっきから分からないことだらけだ。そうやってまたフリーズしていると、返事をする前にマチルダちゃんに腕を引かれてどこかへ連れられる。すれ違う人々の笑い声や話し声がガヤガヤと耳に残った。


「やっぱりアルシア王国と言えばこの広場よね」


無言で走るマチルダちゃんが足を止めた場所は俺にとっても見覚えがある場所、マチルダちゃんと初めて会った広場だった。


「マ、マチルダちゃん、デートって…その」


マチルダちゃんの目を細めた綺麗な横顔にもじもじと問いかける。俺の知識が間違いでなければデートとは恋人がするものではないだろうか。


「デートなんて言った?」


「ふぇ…??」


くるりと振り向き服を揺らすと、彼女はキョトンと言った。

聞き間違えていたのか?いやデートと言っていたはず…幻聴?

もうパンクしている頭でどれだけ思考を巡らせても答えが出るはずがない。ただ珍しく積極的に動くマチルダちゃんに腕を引かれるしかなかった。


「サンドイッチでも食べましょ」


「あ、と、うん…」


10歳の頃から変わらない旗を掲げたパン屋に足を運ぶ。あの頃はマチルダちゃんに見つからないようにしていたが、今ではぴったり横を歩いている。


「これください」


マチルダちゃんが指差したのは野菜がたっぷり挟まっているサラダのサンドイッチ、俺も落ち着くためにも何か食べようとメニューに目を通す。

そこで目にとまったのはエリアスに買ったハムとチーズのサンドイッチだ。

反射でそのサンドイッチに指をさすと、食べやすいように紙に包まれ店主に渡された。買ったはいいが、エリアスがどうしても頭にちらつく。

俺はエリアスに好きって伝えるのか??

マチルダちゃんに背中を叩かれ、そんな流れになっていたが、冷静になると現実味がない。


「食べないの?」


サンドイッチとにらめっこしていた俺にマチルダちゃんは笑った。クシャッと笑うマチルダちゃんは可愛い。


「た、食べるよ」


サンドイッチを口に含む、俺は食べたことがなかったがとても美味しい。サンドイッチを食べながら同じくサンドイッチを食べる、マチルダちゃんの横顔を見つめる。

やっぱり好きだなぁ。

風になびく白髪、凛とした佇まい、外見は当然。前世では知らなかった、笑うときに幼い顔をする所、好きな物を食べる時は口の中いっぱいに頬張ってしまう所、でもやっぱり大人みたいに支えてくれる所。知れば知るほど俺はマチルダちゃんが好きになっていった。

エリアスとは違う種類の好き。分からなくなってくる。俺はエリアスが好きだけどやっぱり恋愛的な好きではないんじゃないだろうか、マチルダちゃんへの好きこそ恋愛的な好きなんじゃないだろうか。普通に考えたらそれが正解だ。でもやっぱり、友達に心臓が苦しくなるほど鼓動するのはおかしい。


「…ねぇ、新しいブローチが欲しいの。ついてきてくれない?」


「ブローチ…前も欲しがってたよね」


マチルダちゃんと初めて会ったとき、まさに彼女はブローチを買っていたのを覚えている、どんな色、形を選んでいたかは覚えていないけれど。


「ブローチを付けてると気持ちが前向きになるの。新しい物を付ければ心も入れ替えられる気もして」


「そっか…」


それ以上マチルダちゃんが話すことはなかった、俺も何を話せばいいか分からなくて、黙ってしまう。

…俺もブローチ買おうかな

心を切り替えられる、というマチルダちゃんの言葉が胸に残って、俺はそんな事を考えていた。もしかしたら、この気持ちにも整理がつくかもしれない。

最後まで読んでくれてありがとうございますー!!

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