11話 花火
いい子ちゃんぶって、馬鹿みたい。でも、彼のオリエンへの気持ちを見たら誰だって身を引きたくもなるわ。
「いいよ…来な。オリエンもきっと喜ぶ」
そう言ったエリアスに私は涙腺が熱くなる。
おかしな話でしょうけど、私はあの変な人に好意を抱いてしまった、しょうがないでしょ?自分のコンプレックスを心から好きだと、綺麗だと言ってくれたんだもの。
それこそ…引いちゃうくらいにね。
本当おかしな話、オリエンが何者でなんで私を知っているかも分からない、エリアスから話を聞いてもやっぱり分からない、でも好きになってしまった。それほど私は愛に飢えていたのかしら。
毎日、毎日、魔女と呼ばれてきた。【読心】のギフトを持ってから口からも心からも私を馬鹿にする言葉が飛んでくる。
私の髪を綺麗と言ってくれていた兄でさえ、心の中では私を哀れんでいた。
「…ありがと、エリアス」
唯一見つけた暖かさを離したくなくて、私はエリアスに嘘をついた。私はオリエンに会いたいだけだった、ごめんなさい。
彼の心の中はオリエンが私を思っているかもしれないという恐怖と悲しみ、そして読んでいるだけで潰れそうな程のオリエンへの気持ちで溢れるほど満たされていた。私の実る前の気持ちとは比べ物にならない、熟れて滴る花のよう。
オリエンは人がいいんでしょうね、一時間も喋っていない私でもわかるわ。
噴水で髪を引っ張られた時、初めて「このまま抜けてしまえばいいのに」って思わなかったの。初めて涙が出なかったの。あの一瞬でオリエンがくれた引いてしまうほどの気持ちは私を守ってくれた。
でも…
「…オリエンは教会の鐘楼にいるわ」
「っ…ありがとう」
駆け出すエリアスの後ろ姿を私は一歩も動かないで見つめた。
…きっと私はエリアス程大きくて、暖かくて、優しくて、重い、そんな想いを持つことは無いだろうから、張り合う気にもならない、戦う気も起きない。でも、私はオリエンの優しさにまた、最後に一度だけでいいから包んで欲しいそう思ってしまう。
うるさい祭り、買い忘れていたパンを買いに歩いたらオリエンの心の声がした「教会の鐘楼に早く行かないと…」って。もし虐めっ子に見つからなかったら、私が今頃オリエンに会ってたのかな、なんて
「ほんと、馬鹿みたい」
◇◇◇◇
バーン
低く響く音で俺達はその一点に釘付けになった。
「すげぇ!!綺麗だ!!!」
花火を目に収めたエリックは飛び跳ね、はしゃぐ。
「そうだね」
グレイデンも目を細めてそれに答えた。俺たちは今鐘楼で花火を見つめている。
好感度が上がってからエリックの元気が少しないようだったが、教会に着く頃には少し良くなり、そしてその後グレイデンに連れられ鐘をバックに花火を見ればこの様子。良かったとそう心底思う。
ここはグレイデンが言っていた通りとても綺麗に花火が見える。さらに、鐘に花火の音が反響し後でも鈍く音がする、まるでとても近くに花火が打ち上がっているような感覚になる。
「懐かしいなぁ…」
誰に言うでもなくボソッと言葉を零す、花火は空に飛ぶとすぐに咲いて、そして散る。それはこの世界でも前世でも変わらない。日本人の精神が抜けない俺はそんな儚い光を静かに見つめた。
「…エリアスが来なくて残念?」
花火の光が何個か消えた後、グレイデンが首を傾げた。何故そう思ったのだろうか、グレイデン目線での俺は随分子供らしい。
「いや別に」
そう答えると花火が名残惜しいがグレイデンに目を向ける。するとフェンスに肘をつくグレイデンの顔が、後少しでくっついてしまうほど近くにあった。それにギョッとして後に下がる。
普段から思ってたけど此奴距離感近すぎだろ。
「そっか」
グレイデンは驚く俺を気にしないで柔らかい笑みを浮かべた。本当此奴は読めそうにないと俺は顔を歪める。そして、考えるのも無駄だと思って俺は綺麗な花火へとまた目線を戻した。
この花火をエリアスとマチルダちゃんも見ているのだろうか。いやもしかしたら、まだエリアスとマチルダちゃんがお互いの共通のコンプレックスを通して心を通じ合わせている途中かもしれない。
何方にせよ上手くやれていればいいが。
漫画ではエリアスはマチルダちゃんを妹のように思って面倒を見る場面があった。しかし、エリアスは漫画で見るよりも弟感が強い気がする、逆に世話を焼かれていそうだ。
この10歳のパーフェスト祭ストーリーでエリアスは泣いているマチルダちゃんを強く抱きしめて慰めるシーンがあるが、今のエリアスがそれをする姿を想像できない。
まぁ…一応主人公だし決めるところはビシッと決めるだろう。
「オリエン!!」
少なくともザマァキャラの俺が心配することではない、エリックに呼ばれ考えることをそこでやめた。
「何だ?」
「来年も来ような!!」
「…あぁ、そうだな」
エリックが太陽のような笑顔で歯を見せる、俺もそれに笑みを返した。来年は母さんにもお土産買っていこう、今回は硬貨をあまり持ってこなかったせいで買えてもせいぜい食べ物だけだ。
あれ、なんか忘れてる気がする…なんだ?お土産…お土産…お土産?
「あ、」
間抜けな声が飛び出す。しかしそれは花火によってかき消された。思い出した俺はバッグの中を漁った。そして、くしゃくしゃになってしまった紙袋を見つける。
その中に手を入れて中身を取り出してみる。中身は花火の光で鈍く輝く指輪だ。
1日目にお留守番しているエリアスにあげようと思って買った物なのだが、買ってすぐにマチルダちゃんに会って焦ってバッグの底にしまい込んでそのまま忘れていた。エリアスの好感度が下がってなかったら、多分100から上がることもないし、エリアスに渡そう。しかし、下がっていたならせっかく下がった好感度を上げるわけにはいかないし、母さんにプレゼントするか。
フェンスに寄りかかって腕を伸ばし、花火に重ねて、指輪を眺めた。
好感度…下がってればいいなぁ。
出来れば虐めはしたくない、大人になって冒険者パーティーを組んだ後の追放イベントも出来れば原作のようなゴミを捨てるように追放ではなくてもっと…優しい追放の仕方をしたい。
だって俺…普通にエリアスのこと好きだし。
バーーーーーーーーーン!!!!
その時、特大サイズの花火が弾けた。よそ見していた俺はそれに驚いて指を滑らせた。
「っあ」
指輪は俺の手を抜け地面に落ちていく。俺はそれをスローモーションで見つめることしか出来なかった。指輪は小さくて軽いから落ちた音もしない、探して見つかるだろうか……。
「どうかした?」
下を見つめる俺にグレイデンが声をかけた。
「あぁ…ちょっと落とし物」
「大丈夫か!?」
そう言うとエリックは目を見開いた。
「大丈夫、大丈夫、ちょっと取ってくるな?」
流石に二人に探すのを手伝って欲しいと言えるほど神経は図太くない。しかし、そう言っても二人は付いて行くと譲らなかった。
「大丈夫だって、見つかんなかったら新しいの買えばいいだけだし」
そう言って振り切ると俺は教会の中まで降りた。買えばいいといったが金はもうほとんど残っていないし、あったとしても同じ指輪は売っていないだろう。
…とても大事な物というわけではない、見つからなかったら諦めよう。
(ちなみにパーフェストは女神パワーでわかったりしない?)
女神像に話しかけてみるが返事はない、なんて優しくない女神なんだ。俺はため息をつくと外まで歩いた。
風景は真っ暗で花火と月明かりだけが外を輝かせている。そんな外に出ると俺は地面を一歩一歩見ながら探し回った
「指輪…指輪…」
数分探しても全く見つからない。まぁ当たり前だ、あんな小さい物少しの明かりしかない暗闇で見つけられるわけがないのだ。明日の朝に探すか、いや朝から馬車を頼んでいるからそんな時間ない。深くため息をつく。そしてまたレンガ敷きの地面にしゃがんだ。
「ねぇ~そこのシスターさん」
夜はやはり冷えてマントを前まで止めたとき、中年の男の声が頭上から聞こえた。
「あれー無視ですかぁ?」
そうもう一度煽るように言う、今度は俺のすぐ近くに近づいて、仕方がなく立つと男は笑った。
シスターと言う言葉にピンとこなかったがそういえば俺今女装してたわ……最悪だ。
指輪は落とすし、変な男に絡まれるし、ついてない。
「あー、すみません俺シスターじゃないんで」
教会に用があるのかと思い適当に返す。しかし、男はそんな俺を舐め回すように見るとニタニタと笑った。顔が悪いせいでグレイデンの100倍気持ち悪い、グレイデンの気持ち悪い行動は顔によってまだ許されていることを深く思い知らされた。
まぁ、グレイデンもきもいけど。
「あ、そうなの?まぁそんなことどうでもいい」
男はそう言うと俺の腕を掴んだ。驚いて自分の手を引っ込めようとするが力の差は大きい。
「っはなせ!」
「女の子がそんな言葉使いじゃだめだろ?」
睨んでみるがケタケタと笑うだけ。
非常にまずい…今叫んでも花火の音でかき消され助けを呼べない。
それに、俺は魔法は低級基礎魔法しか使えないし、強いギフト【剣技】は剣がないと発動しない。
「っ………俺は男だっつーの!!!」
「うるせぇな」
威嚇するが子供の声と背丈では証明にならないようで男に相手にされることはなかった。
「安心しろ、痛いことがしたいわけじゃねぇ…お前を売っぱらえればそれでいいんだ」
男は舌舐めずりをして腰からナイフを引き抜き俺の喉に軽く当てた。刃は冷たいのに当たった場所がどくどくと熱くなる。
「これ以上切られたくなかったら大人しくしてろ」
その言葉でやっと分かった、皮膚を切られたのだ。薄く血が溢れてナイフに垂れる。
くそっ…
絶体絶命、そんな四字熟語が頭を過った。しかしその時ーーー
「【リーフ】」
その言葉と同時に巨大な木の枝が男に迫る。逃げようとするがそんな時間はなく、男は枝によって地面に張り付けにされた。自由になった俺はそれから距離をとると枝の伸びた方向に目をやる。そこには怖い顔をしたエリアスがいた、元々ハイライトのない目だが、今はさらに黒が深く沈んでいる。
「エリア…」
「【ファイヤー】」
名前を呼ぼうと口を開いたとき、それよりも早くエリアスは言い放った。張り付けにされた男にそれを避けれるはずはなく、業火に飲まれる。男は呻き、逃げようとするが、燃えて尚枝は男を締め付ける。
「っ…エリアス!!やめろ死ぬ!!!」
エリアスが何故ここにいるのか、何故そんなに怒っているのか、何もわからない。でもエリアスが人殺しになるのは絶対に駄目だ。
俺は焦って、さっきまで俺を売ろうとしていた男に手を近づけ【水よ】そう言い初級水魔法を魔力いっぱい注ぎ込んで放った。火は何とか消すことが出来たが、中級魔法をくらった男の息は浅い。
「くそっ…」
早くグレイデンを呼んでこないとっ…
俺は立ち上がり教会に戻ろうとする、しかしエリアスが俺の手を掴んだことによりそれは制止されてしまった。
「オリエン」
「っ…エリアス?」
怖い、エリアスが怖い。
何でこんなに怖い顔してるんだよ…いつもの優しい笑顔に戻ってくれよ…。
「なんで…」
何も言えないでいると先にエリアスが口を開いた。
「なんでこんな奴に優しくするの…オリエンのこと傷つけたのに」
「っ、何があっても人殺しは駄目だろ…それに、お前に人殺しになってほしくない」
手を掴む力が強い、俺はそれに顔を歪めた。
「っごめん」
エリアスは怖い顔を一変させ弱々しい顔になると手を離す。しかし、まだ目の中の闇は深い。
「どうしたんだよ…エリアス」
まさか…置いていったせいで好感度0にでもなったか?
そう思ったが好感度メーターを使ってみても数字は全く変わらず100を指している。
「僕おかしくなっちゃったんだ…オリエン」
「え?」
俺の胸に飛び込むとエリアスは目に涙を溜め声を震わせた。
「オリエンの優しいところが大好きなのに、僕以外に優しくするオリエンを見ると辛いんだ。僕をおいてエリックと一緒にグレイデンのもとに行くのも嫌だった…!!」
「エリアス…?」
「オリエンの側にいれればそれで良かったのに…
僕っ…オリエンの特別になりたくてしょうがないんだ!!」
涙で地面を濡らしながらエリアスは俺を強く抱きしめた。そして、それを拍子にバランスを崩し俺達は地面に倒れ込む。
……なるほど、全部わかった。
俺は夜空でまだ輝き続ける月と、生まれては消える花火を見つめ深く息を吸った。
エリアスは俺の……親友になりたいんだな。
なんだ、そう言うことか…言ってくれればよかったのに。そんなことで怖い顔までして…本当に可愛いやつだ。いや、だからって中級魔法人に当てるのは駄目だけどな??いや…まて?親友になったら好感度下がりにくくなるか…?ここで拒否すれば好感度下がるんじゃないか?よしっ…許せエリアス。
「っ…エリアスそれは」
無理だ、そう言おうとエリアスを見る。
「っ……」
息が詰まる、エリアスは顔をぐしゃぐしゃにして鼻をすすり、涙をポロポロと流していたのだ。
まて…駄目だぞ…俺…………。
その様子に狼狽え手を微かに動かす。すると、何かが手に当たった。それは…指輪だ。
あー、まて、俺、止まれ、駄目だ、絶対好感度下がりにくくなる。
深呼吸をして指輪を強く握る、そして覚悟するとエリアスの背中を軽く叩いた。
「…エリアス、これ」
「えっ」
エリアスに見せたのは綺麗な黒色の宝石が埋め込まれた俺が買った指輪だ。
「エリアスの為に買ったんだ…綺麗だろ?」
「っ…」
エリアスは涙をさらに溜めて息を飲んだ。そんなエリアスの手を取ると適当な指にはめてやる。
何となくで選んだがぴったりサイズだ…良かった。
「その…特別とかよくわかんねぇけどさ、俺はエリアスのこと好きだぜ。それじゃ駄目か…?」
これが安牌だろう。お前は親友だ!!とも言わず、突き返すこともない。これなら…、好感度が下がりにくくなることもないかつエリアスを悲しませることもない。
「……オリエンっ!!!!」
次の瞬間俺はまた、エリアスに抱きしめられた
「ありがとう…僕っ…幸せすぎて死んじゃいそうだよ…」
泣いているがさっきのような目ではない、いつものような優しい目に戻っている。
よかったよかった…。
俺は暫くエリアスに大人しく抱きしめられていたが、その後例の男のことを思いだして急いでグレイデンのもとに向かった。
長いのに最後まで読んでくれてありがとうございます!!!
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