プロローグ:俺の人生を漫画みたいにしたい理由
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漫画の中のあの「神展開」って、なんであんなにワクワクするんだろう。
敵に追い詰められた主人公が、ボロボロになりながらも立ち上がる瞬間。
仲間を守るため、全てを賭けて戦う場面。
そして──最後に決める、あの一撃。
……クソ、現実じゃ絶対起きねぇよな、そんなの。
俺の名前は如月ユウト。どこにでもいる、ただの高校生。
だが俺は、生まれてからずっと一つの夢を抱いてきた。
「漫画みたいなカッコいいシーンを、この身で体感してみたい」
ただそれだけの夢だ。
でも、ただの夢にしては、俺の人生はちょっとばかり本気だった。
毎日放課後、河原で一人黙々と筋トレ、シャドーボクシング、自己流サバイバル訓練。
「何やってんの?」ってクラスの奴らにはバカにされたが、気にしない。
彼らには分からない。俺が目指してるのは「日常」じゃなくて「伝説」なんだ。
そんなある日、いつものようにトレーニングの帰り道だった。
ふと前を見ると、小さな子供が赤信号を無視して横断歩道に──
ヤバい、車が来る!
気づけば俺は走っていた。
身体が勝手に動いて、あの子を抱きかかえながら飛び込むように避けた。
──無事だった。
子供も、俺も。
親に感謝され、「ヒーローみたい」って言われて、俺は内心ガッツポーズした。
(クッソ、今の……めっちゃカッコよかったよな!)
でも、それじゃ終わらなかった。
数日後の夜道。
偶然耳にした不審な声に導かれ、俺は廃ビルの裏手に辿り着く。
そこにいたのは──俺のクラスメート、女子が数人の男に連れ込まれそうになっていた。
(まさか、これって……まさに“あの展開”!?)
血が騒いだ。
俺はその場で、作っておいた簡易マスクと木刀を装備し──突入した。
──結果。
全員を倒し、彼女を助けることには成功した。
だが最後、ボス格の男が目を覚まし……俺に銃を向けた。
「……ッ!」
ドン。
腹部に、鋭い衝撃。
倒れる俺。泣き叫ぶ彼女。
駆けつけるパトカーのサイレン。そして、逃げる犯人。
視界が揺れて、全てがスローモーションになった中、俺は思った。
(……俺、やっぱりまだ、全然強くねぇじゃん……)
もっと強くならなきゃ。
もっと、もっと鍛えて、もっとカッコいい展開を──
そう願った瞬間、俺の意識は……闇に包まれた。
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──そして俺は、異世界にいた。
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