第十六章 第八節
「おはようっす、ビルさん!」
私が武器庫でジャックを身に着けていると、いつも明るい感じで、リオが私に声をかけてきた。
ガシャガシャ
周囲には、同じように治安兵の装備を整えている音が響く。今日私は、普段より少し機嫌がいい。この部屋に入るためには、必ず隊長の控え室を取らなければならない。カウンターがあり、その奥でいつもふんぞり返った、そして私が通る時に、いつもどこか睨んでいるような隊長の前を通るのが、毎日不快なのである。しかし今日はそれがなかった。珍しくなかったのである。
「おはようございます、リオさん」
「あれっすか?昨日あれから、エリアスの家行ったんすか?」
リオも自らの装備を整えながら、普通なかなか聞きにくいことを気持ちよく?聞いてくる。私が知る限り、多くの人がこのような性格を羨ましがるだろう。
「はい、家族に会ってきました」
相変わらず私は、彼に対して後輩的立場と礼儀を徹底している。
「・・・・・」
「?・・・・・」
「そうっすか・・・・どうでした・・・?」
「あ・・・はい・・・かなり悲しみに暮れていました・・特に母親が・・・」
その言葉は、曖昧な情報の中にかすかな希望があった光を、最後にそっと閉じてしまうものである。
「そうっすか・・・・」
リオは同じ言葉を繰り返した。それから会話はしなかった。私は少しでも早くこの薄暗い武器庫を出て、朝日がある中庭に行きたかった。少しずつ、日の出が早くなり始めている季節だ。
ガシャガシャガシャ
治安兵、ダルガーと呼ばれている我々20人が中庭で整列していると、いつものように不旋律な足取りで隊長がやってきた。いつも整列している部隊の右斜め後ろから、この男はやってくる。視界に入るまで、『今日は機嫌が良いのか、悪いのか』そんなことを推測しながら待ってしまう。結局どっちであろうと対応することは変わらないのだが、機嫌が悪い方が、対応が面倒臭くなるのは確かである。そう云えばまだ、隊長の名前を誰からも聞いていなかった・・・・
ガシャガシャガシャ
「・・・?」
待機、整列しているダルガー達は、隊長が持っているスカルキャップに注目した。普段はそんなものを持ってない。私も直感的にわからなかった。だが、隊長の口元がニヤつきを抑えている。これは・・・ろくなことはない。
「ああ・・お前らもすでに聞いているかもしれないが・・・」
まさか・・・・
「以前ここにいたエリアスが死んだ」
ザワザワ
兵たちの中から声が漏れる。半分以上が聞いていなかっただろうし、たとえ聞いたとしても噂程度のことで、仕事の場で明確に伝えられるということは、彼の死が『揺るぎない事実』ということを物語っている。
「戦の最中に、敵の罠にはまって、部隊ごと生き埋めにされたみたいだ。まあ、大した才能もないのに、正規兵に志願した報いだな」
この男、何を言おうとしている・・・・
「うちにいてもたいして役に立たない奴が、他で役に立つことなんて、ありえるわけないだろう・・・?なあ?」
この男は何を言おうとしている。
彼への追悼・・・?
ここからこの男の文脈は変化をするのか?
「役に立たない奴がとっとと居なくなってくれると、無駄な金を使わなくて済むなぁ」
目の前の男は私に視線を向けた。既に、ニヤけた口角は抑えられていない。何を言おうとしている、何をしようとしている、その手に持っているものは・・・?それは、私が何度も見た、私の隣で歩いていた彼の・・・・エリアスの兜・・・・・目の前の男は・・・貴様は今何をしようとして・・・・
ガン!
ガシャ ガシャ ガシャ
・・・・・・
ガシャ ガシャ ガシャ
「今日は気分がいい!ハハハハハ!」
私は地面を見つめる—————
地面に叩きつけられ、汚い最低の男に踏みつけられる『兜』を見続ける—————
踏みつけられ、金属部分がへこむ、幾つも、幾つも—————
顔をあげられない—————
あげたら、この男の汚い顔を見たら、私は確実に・・・・この男を殺す—————
比喩ではない—————
メッタ刺しでもない—————
確実に、殺す—————
先生、教えてください、彼はなぜこんな屈辱を受けないといけないのですか・・・?
セドリック、答えてくれ、私はこの男を殺しちゃダメなのか・・・?
なあ、教えてくれよ、なあぁあぁぁ!
なああああぁあぁぁ—————!!
ガシャ
誰かが、埃だらけの、へこんだ兜を持ち上げて、私のところに来る。
「ビルさん!朝礼終わったすよ!いくっすよ!」
ああ・・・・リオが拾ってくれたんだ・・・・そうだな・・・アンタなら拾っても咎められない・・・
「行きますよ!ビルさん!!」
「でも・・・それ・・・」
「いいっすよ!オレが今日一日ぶら下げてるから、いいっすよ、行きますよ!」
ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ
西門に向かう途中、半分くらい過ぎたところで・・・・
リオの目に涙があるのを知った・・・・
やっぱり、アンタは「いいやつ」だよ
だから
死なないでくれ—————




