表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風と静寂  作者: 佐竹武夫
第十四章
64/75

第十四章 第十二節

私は先生とこの旅を続けて始めて、自らの中から、何か論理のようなものが湧き出たと感じた。それは、とても静かな喜びと表現してもいい。『ああかもしれない』、『こうかもしれない』と考えることは、今までしばしばあったが、それは常に自分を起点とし、一方的にこちらが坂道を登るように、ソレ近づいていく。手を延ばしてどうにか、ソレを掴もうとする感覚だった。今は全く違う—————向こうからどんどん近づいてきて、私の前にその姿をはっきりと見せたのである。私の体の中では、とても清らかで心地よい、管を通る透明な液体が、高速で駆け巡っていく—————


「『敵』?・・・今あなたは、私のことを『敵』と言いましたか?」

「ええ、私はさっきまで、何を話していいかわかりませんでした。いや正確に言うと、話そうとすれば『その言葉は本当にあるべき事なのか?』と四方から私を問い詰めてくるんです。その度に私は言葉を発するのを躊躇し、どこかにあるはずの、そこにあるべき言葉を模索し続けていました」

「そして今あなたが答えているのは、そういうことに一定結論を見出だしたと・・・」

「はい、考えてみれば・・・・」


私はここから少し言葉を柔らかくした。


「今この場で私は、あなたと戦っている。つまり『敵』・・・ということ」


一瞬『虚ろな男』は訝しげな表情をした。それもそうだろう。これまで黙っていたことに対して、よっぽどな理由が出ると思っていたはずだが、さも当たり前の理由を言って、納得度が高いわけがない。しかし、そこはスルーだ。私は言葉を続けた。


「さあ、どうする、何に答えるんだっけ・・・?私が『何者か』って話だったような気がする」


私は少しわざとらしく、足の音を立てながら(音を吸収するための石張りになっているが、そこを少し強調させるために強く踏みしめながら)相手の前を横切るように回った。そして答えを持たずに、相手から目線を逸らしたまま言葉を重ねた。


「先ほどあなたのおっしゃる通りだ。私は、いや私たちは先だってこの街を訪れたばかりだ。このただの旅人に、突然奇妙な依頼が入ってきた。数日後に行われるお祭りの中での討論会に、出席してほしいということだった。その内容を詳しく伺ってみると、決してきな臭い政治の話ではなく、純粋にお題の中から、相手と討論重ねるというものだった」


私は、ルドがシルバー先生にそのことを依頼しに来た場所には、立ち会っていない。しかし不思議なもので、己の目的〈何のために、誰のために〉が定まると、面白いように次の『結論に向けて』の道筋が出てくる。つまり平気で嘘がつける。


「それな・ら・ば・と・・・・私たちはその依頼を受けた・・・が」


ここでわざとらしく『虚ろな男』を見た。


「先ほどの質問からして、どうもそのような話では、なかったみたいですね」


わざと言葉の語尾を上げた。目の端に映る聴衆たちを、意識の中に入れた。彼らは先ほどまで私に対して、侮蔑の視線を送っていたが、急に話し始めたことももちろんのこと、その流れるような弁舌と、自分たちが適度に理解できない心地よさを味わっている感じが、瞳の淡い光の中に感じた。『虚ろな男』が何かを言おうとしたが、残念ながらまだ私の番だ。


「あなたは私に先ほどこう言った。『この街ヘルヒンには、ヘルヒンを語るべき、ヘルヒンの人物はいるはず』—————つまりわかりやすく言うと、部外者がなぜここに居るのだ。お前たちはヘルヒンと何も関係ないだろう!と言ったわけですが・・・・」


先ほど相手は一瞬何かを言おうとしたが、私に出鼻をくじかれたために、言葉をかぶせにくくなっている。


「ではこの場で語るべきは、どちらなのですか?哲学に対して論ずるのか、個別の国の政治の話なのか」


聴衆の息をのむ声が聞こえた。彼らが私の言葉の全てを理解していることはないだろうが、私が間違いなく相手に何かを突きつけたことだけは分かっている。そして聴衆は、内容がわかるかどうかは置いておいて、その表情や態度で〈いなすのか〉〈はじくのか〉〈食らうのか〉注目をしている。それは動物が激しく角をつけ合わせることと似ている。


「・・・・」


『虚ろな男』は一拍、間を開けて、ゆっくりと顔を上げた。


「先ほどまで全く口を開かなかったかと思えば、急にペラペラと・・・・それは家で考えてきた作戦なのか」


〈軽く右よけた〉くらいの反応である。思いのほか期待していたものではなかったので、足をひっかけて、つんのめる姿を聴衆に見せようと思った。


「切り返すにも、もう少しいい言葉を選んでもよいのでは?軽くよろめいていますよ?で、どっちなのです?第一あなた方が、派手な格好をしてキャステルからここを訪れたのは、町中の人たちが知っている。つまり政治の話をすればそのことは、ヘルヒンとキャステルの事だと、それは明白。さあ、お題の話をするのか具体的な政治の話をするのか、どっちでしょうか?」

「・・・・ふ、それじゃようやく討論に戻るので、テーマである『死』についての話をしましょうか」


もちろん、そうするだろうと思った。そっちへの逃げ口を用意しておいたのだから・・・


「今回は逃がしてあげます。手を離したのは私の方です。次は放しませんからね」


抵抗力がついたのか、思ったほど反応がなかった。しかし聴衆は、最初の一手が私の方に旗が上がったのだと認識したらしく、小さな歓声のようなどよめきが起きた。私の方としてはこれでよい。個別の政治の話は、どうせこの後シルバー先生とグラウがやるのだから。これで2人とも戦うべきフィールドに戻ったという感じだろう。


ちらりと司会の方を見た。微妙に安心をしている顔つきであった。私はわざと横になっている砂時計(こちらは討論の時間を測るものであったが、横に寝そべる形で置かれていて、全く機能してない)に目をやったが、まるで反応を示さなかった。この『虚ろな男』と裏でつながっているのだから、都合のいいところで終了の鐘を鳴らすのであろう。


「では改めて問う・・・・あなたに『死』とは何かと問えば、どのように答えますか」


なにを『改める』のか知らないが、相手方も自分がはじめにプランニングした状態に戻ったようで、言葉の滞りが少なくなった。ここで私が話すのをためらうのもおかしいものなので、今までただの一度も考えたこともない『死』に関して話すことした。


「私の師は、この世界は三つで構成されていると仰っている。一つは『器』一つは『法則』一つは『傾き』・・・」


『虚ろな男』はこの短い間に強い集中力を持って、私の言葉一つをこぼさないように聞いている。


「『器』に照らせば『死』は有限。形あるものはいつか壊れる。人体であろうが精神だろうが、その形を保てなくなった時、死は存在する。『法則』に照らせば、それらは時に書物なり、時に人の記憶として残る。その媒体はおそらく留まるところを知らず、永遠に刻まれ永遠に拡散する。その形をもともと必要としない時、死は存在しなくなる。『傾き』に照らす時、常に目に見える形と見えない形を繰り返す。すべてのカテゴリーにおいて総数は変わらず、ただどちらかにずれたというのみが、連続性を持ち続ける。その形がもともと止まることがないゆえに、有と無を繰り返す。つまり『死』と『生』の連続的な繰り返し・・・・・」


私はじっと『虚ろな男』を見つめる。その男は私が『敵認定』をしただけあって、こちらが渡した言葉を丁寧に組み立て、理解の途中に置いた。そして非常に冷淡に、その次に選ぶ言葉を品定めしている。やはりこの男、他とは少し違う。私が遭遇した相手の誰に似ているか、と問われれば『手を揉む男』である。あの男は躊躇なく、我々の存在を消そうとした。そこに情どころか言葉の一言さえもない。


「死は・・・・」


目の前の男は、自分の『死観』について話そうとしている。これは私の言葉から、強くえぐることができる論理の隙間を、見つけることができなかったと言えよう。一般的によく言われる『物体としての死』『精神としての死』『循環としての死』のすべてを、私の論理でわ網羅しているからである。


「死は、逃れることのできないもの・・・・常に人から恐れられるもの・・・・・」


ずいぶん一般的なところから入ってきた。この先に論理をどこに繋ぐ・・・・?


「しかし、個人において死は存在しない。死は『死ぬ者』に存在せず、身近で『死なれた者』にのみ存在する。つまり『死』は死ぬ本人にはなんの関わりもない」


なるほど・・・こいつはなかなかのものだ・・・私はあくまで主観として『死』を説明した。だがこの男は主観には存在しないという。この論理は簡単に身につくものではない。果たしてその形だけを用いても、今この男が言葉で話す強い納得度(体の中に落ちてくる感覚)が高くなることはない。『虚ろな男』はさらに続けた。


「たとえば、ある男がいたとする。彼には肉親はもちろん関わり合いがある人が、全く存在しない。その彼が遠く山奥で一人死んだとしよう。彼の死は存在するか」


なるほど・・・たとえここで「近くの動物がその肉を喰らう。その男の死が実質的に影響を与えるっている」と言ったところで、実に興醒めな感じである。多くの人が『そんなことを言ってるんじゃない』と反論が返って来そうだ。そのくらいに言葉の組み立てだけでなく、落ちるべきところに落ちている感じがする。『虚ろな男』はさらにさらに続けた。


「仮にこの街の人間が、何人か殺されたとしよう」


ザワザワ


今の言葉に周囲がざわつく。きな臭くなってきた。この男の目的の道に入ったようだ。


「殺された人間のかかわりある人が、当然そのことを恨み、苦しみ、多くが復讐を考えるであろう。では・・・・」


聴衆は『虚ろな男』が次に何を言おうとしているのか、薄く不安な要素を持ちながら耳を傾けている。


「この街の人間がすべて同時に殺されたとしよう。そうしたときこの街には『死』が存在するのであろうか」


音にもできない不安の声が、会場の床を這う。なるほど、だからお題目が『死』だったのか。この町の人間に死を意識させる。しかも、自分たちの身分が、この街に比較的近くにある手荒い領土の民、キャステルの連中だとわかっていることが、さらに不安をかき立てる。


「人や生き物には、先ほどあなたが言ったような『死』が存在すると考える人も多いが、私が先ほど言った、第二者が存在して初めて『死』が存在するのであれば、本質的にコミュニティには定められた寿命は存在せず、捕食者によって餌となることのみが『死』の存在であり、街が一斉に全滅をした時点で、死は存在しないと思われませんか」


う、ぅぅ・・・・


聴衆たちのどよめく低い音が、彼らの不安を充分に表現している。個人の死を否定してからの、明確な外部からの侵略のみを死と直結させる。しかも『死』を論じているのに、それが存在しない(つまり一切他者の関与をさせず)死を死とも存在させずに殲滅するというのである・・・・論を積み重ねながら、確実に自らの誘導するべき道に引き込む。これまで出会った人物の中でも、褒めたくなるような言葉運び。やはりあの、刃物のような『敵』に対する意識が、その切れ味を生むのではないか。天窓からの光が鈍くなってきた。先ほどまで太陽を遮るものはなかったのだろうが、今はその間に、雲が入り込んでいるのであろう。


少し薄暗い——————


面白い、のってやろう、お前の引いた道に是非のってやろう。私の番だと思い口を開いた。


「あなたの論理で納得できないことがいくつかある。まず、街を一つのコミュニティとした場合、それ以外のコミュニティが存在しないような口ぶりである。先ほど個人の死は存在せず、あくまでも周囲にとって『死』が存在すると発言をしましたね。その形に個人が存在するのであれば、国や街、それ以外の集団のコミュニティにも、他人ならぬ他国が存在する。その部分が存在しないということはありえないので、やはり死は存在し、そのことに対しての『傾き』の反動は必ず来るのではないですか」


私が的確にポイントをついたのか、『虚ろな男』は、すぐに反論してくる様子がなかった。私はつづけた。


「それが象徴的な意味合いではなく、もっと現実的に街が、それに晒されようとしたとしましょう。しかしそれをするのであれば、相手が一切気づかない間に実行しないと、今ここに居る聴衆のように一旦は恐怖におののくかもしれませんが、彼らとってその直後に『やられてなるものか』と心に芯がはいり、対策を取り、力を蓄え、いつか来るその状態のために準備を行うでしょう。先ほどあなたが言ったように、すべてを根絶やしにしない限り、『存在』し続けます。しかしここに至って、充分な備えと心構えをした集団を、、すべて殲滅させるまで持ち込むのは、かなり難しい作戦となるのではないですか」


私は明確に『虚ろな男』に対して言葉をぶつけにいった。聴衆もその事がわかっており、反撃の手に入ったことに対して、皆が喜びの表情を見せている。私はさらに、主語が『彼ら』であると明確な言葉運びを始めた。


「のんきに凱旋などしておらず、門が開いた瞬間に相手を全て殲滅させくるぐらいでないと、次に門をくぐろうとするときは、頭の上に大量の矢が飛んでくるはめになりますよ」


私はこの時ついに、キャステル側がこの街に対して何らかの攻撃を仕掛ける前提で、言葉を重ねた。しかも、ここまでの『虚ろな男』の言葉は脅しにもならないし、本当の恐怖の相手であれば、この瞬間に手を下しているはず。つまりあなたたちは『すでに初手をミスっているのですよ』と突きつけた。この言葉のニアンス汲み取れない人はいなかった。場内の聴衆たちの熱が、一気に上がった。彼らは口々に、『やるんだったらやってやるよ』

、言葉にしない者も『我々はそれに備え、迎え撃つべし』という空気が広がっていた。

『虚ろな男』のネーミングにふさわしくない、力の入った言葉がまた出始めた。


「いきまくのは結構。しかし実際にその『死』を目の前にした時、人は恐怖を感じ、背中を曲げ、筋肉を萎縮させ『そういうつもりではなかった』慄くのである」


『虚ろな男』は何とかして、論の流れを自分の道筋に戻そうとしていた。もちろん聴衆の幾人かは、それに左右されるかもしれない。だが全体の流れというのは、滝に落ちる川の水と同じである。そこに圧倒的な高低差がない限り、その方向性を変えることは難しい。

この辺りで相手の息の根を止める。


「あなたは『死』というものを、人智の理解を超え、決して触れることのできない圧倒的な存在として語っているが、今ここに置いて、それは明確に論理のすり替えである!」

「!・・・」


『虚ろな男』が露骨に、負の方向の反応を示した。これは自らの論理性の不完全さを理解した上で、そこを的確についてくる私に対し、思わずこぼれ落ちてしまった反応であろう。大変申し訳ないが、


非常に気持ち良い——————


このクラス相手に、論戦において圧倒的な形を作ることができる。ここまで私を成長させてくださったシルバー先生に、なんと感謝の言葉を述べればよいのか。私とシルバー先生が、この間の軍隊よりも、さらに大きな部隊を率いていけば、その勢いを止められるは誰もできず、また2人で国を運営すれば、それこそ各地を次々と統合して行き、一大国家を作り上げることが出来るのではないか!私はこの高揚感を持って、今の目的である『目の前の敵の殲滅』に努めよう。私がシルバー先生の一弟子から、お手を煩わさないぐらいの立ち位置に立てることを、証明してみせましょう!


「先ほどあなたは『捕食者』という言葉を使った。つまり一定のあるべき寿命に収まることを『円命』とし、何らかの外的によって死をもたらせることを『断命』とするのであれば、『断命』においては単に、それをもたらそうとする者に対して対抗し、場合によっては逆に相手を殲滅すればいい。それは『円命』においての避けることができない、不可侵で無慈悲なるものの『死』ではなく、『死』を相手方にもたらそうとする、我々と同じ、いや、場合によっては、それより下劣な感じでの『影を現す者たち』であるだけではないですか?」


自分のことを『下劣』と表現されたことに、これ以上ない不快な表情を(マスクをしていて目だけしか見えないが)『虚ろな男』はした。


おおおぉぉぉ


聴衆はやはり、私の言葉理解をしてはいないかもしれないが、どう考えても相手がぶつけてきた角を、いとも簡単に弾き返したと認識できたのであろう。軽く押されそうになった所からの(私ではなく聴衆たちだが)巻き返しが、さらにその興奮度を上げている。しかも、少したじろいだ態度を取る相手のおまけつきである。


「・・・・・」


『虚ろな男』は一瞬沈黙を持つが、私はこの聴衆の熱にのることとした。それが『目的を達成すること』に最も近いと直感が示したからだ。


「分かりやすく言うとあなたは、『死』という一般的には『恐ろしい』とされているものを用いて、この場にいる人々を脅したのだ」


おおおぉぉぉーーーー


反応がいい・・・・実に心地よい。難しい言葉からの誰にも判る簡単な言葉への切り替え。軍隊であれば兵の士気が上がる。国であれば国民が高揚する!


「相手が死をもたらす者になるというのであれば、我々もその相手に、死をもたらす存在になれば良いだけのこと!」


うあおおおお・・・・


その熱とどよめきが、この会場の中で渦を巻いていく。私は今この会場の人たちを率いて、他国に攻めることができるのではないか、この街で革命を起こし、最高位の地位に就くことができるのではないか!


聴衆の何人かが立ち上がる。『俺たちは怖くないぞ』『逆に死を叩きつけやる!』


ぱちちぱちぱち


拍手さえ沸き起こる。『虚ろな男』は明らかに次の手を出しかねている。おそらくこの場でどんな言葉を重ねようが、火に油を注ぐ状態になることは明らかだ。さらに、さらに、さらに聴衆の声は大きくなっていく!もう私が何もしなくても、目の前の男は『殲滅』させられるであろう。


「・・・・・」


興奮した人たちの溢れる声が、『虚ろな男』の周りでうごめく。その音は止まらない、すでに止めることができない。物を投げ始める人も出てきた!さあ、どうする?私ではなくあなたがこの道を選んだんだ!


カランカランカラン


非常に強く鐘が鳴らされた。司会が鳴らしたのである。この瞬間まで、私はその存在を忘れていた。


鐘に救われたなーーーーーー


場内が一斉に巨大な拍手に包まれた!何人かは席を立ちあがり、ありったけの力で手を叩く。私に喝采を浴びせる人が何人もいる。さすがに私が手を上げるのは、やりすぎだと自重した。


『虚ろな男』はそれでも、ただの時間切れを装いながら、一拍だけ間を開け(特になんの表情を示さないが)自分の席へと戻っていった。私は少し集中しすぎて、背中の方にいるカミルたちの方をあまり気にしていなかったことに、今気がついた。少し息が上がっている感じでふりむき先生を見た。


先生は——————


—————— 冷たい目をしていた



え・・・・


先生・・・・・


私は今まで、感情の読み取れない先生の表情は何度も見てきた。不機嫌なのか、思考をしているのか、全く読み取れない先生の表情・・・・しかし今は違う。私は先生と出会ってから一度たりともこの表情を見たことがない。


先生・・・・私は歩きながら、自分の席に向かいながら・・・先生の隣に座るのが・・・怖い・・・・・・先生?


私は何かまずいことを・・・いや、先生は私の論に不備があったとして、そんなことを不満に思ったり、自分がやりにくくなったと、腹を立てたりすることはない・・・・なんだ・・・どの部分がまずかった?・・・・・?・・・・記憶を辿れない・・・・いつもであれば話した言葉をほとんど覚えている・・・・道筋を経て・・・目的に向かい・・・・なのに何を言ったかほとんど覚えてない・・・・相手を『敵』と定めた・・・・・そのことは覚えている。私の前に、『悟り』のようなソレが、道の奥からやってきた。ソレが目の前に来て向かい合った。そこまでは覚えている。なのにそこから先を憶えていない・・・・・・先生にあのような表情をされたから、頭が真っ白になったのか・・・・?いや今までも、まずいと思い、先生が良くない反応をしている時があった・・・・・でもその時は、どのポイントがまずかったのか、思考を後ろから追っていくことができた・・・・・なのに・・・・・私は何を話したんだっけ・・・?


カタ


結局私は、先生の顔を見ずに座った。先生は私を見ているようであったが、私が目線を外し続けた・・・・・


私の机の前に、無造作に奇妙な石が置かれる。私はカミルやイーヴァンの方も、見ることができない—————— 怖い・・・・・なんだ、此の怖さは・・・・・



会場では激しい拍手がまだ鳴り止まない・・・・・









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ