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風と静寂  作者: 佐竹武夫
第十四章
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第十四章 第四節

物事はいつも自分の想像の外にある——————


私の師匠 シルバー先生から何度も教わったことである。私はこれが実際に体感的に(悟性で)分かりはじめたのは最近である。そのように思っていても、実際には自らの想像を『現実』は超えてくる。


ティモと別れてから私は宿屋に戻った。頭の中ではさまざまなことをシュミレーションしながら。まず彼との会話を、どのようにシルバー先生にお伝えするのか。そして今後どのように対応して行くのか・・・いやそれ以前に、シルバー先生に突っかかっていたイーヴァンはどうしたのだろう。よもや先生に手をあげることはないだろうか(そうであればカミルが止めている)


まさか、イーヴァンが出て行ってしまったかもしれない——————



そんなことを思いながら、宿屋の近くに行くと


「ビル!」


え・・・! 後ろの方からイーヴァンの声が聞こえた。振り返ってみてみると、真夜中で営業がとっくに終わっているレストランのようなお店の庇の下に三つの影が見えた。


「イーヴァン!・・・・というか、先生、カミル・・・・」


そこには見慣れた3人———幼きイーヴァンと、杖をついた先生、それに一見女性には見えない、たくましい体を持ったカミルがいた。


「どうしたんですか、先生?」


私はまだ足元に水たまりが沢山ある地面を小走りにかけながら、みんなの方に近づいて行った。


「いや、それが・・・」


カミルは頭をかきながら、心底困ったような表情で私に話しかけてきた。


「さっき大騒ぎしたじゃないか。そしたらほかの客が、うるさいって騒ぎだしてさ・・・」

「はあ・・・」

「それで宿屋の主人も出てきて・・・収まりがつかないから、ここから出て行ってくれ、と・・・・」

「はあ・・・」


よく見ると足元にはみんなの荷物が置いてある。


「ひどいよな、あれぐらいでオレ達を追い出すなんて」


口を尖らせながらイーヴァンは不平を言ったが『お前が大声で騒いだから———』と言いそうなところを何とか抑えた。イーヴァンが本当の原因かどうか確定はできない。ティモが来た時点で、すでに騒ぎが大きくなってしまったかもしれないし・・・



私たちはその場所で夜が明けるまで休ませてもらい、うっすらと日が昇りだした時間になってから、今日の宿を早めに探すため、そこから北の方に足を進めた。その時間にはすでに多くの人が働きに出ており、旅路を急ぐ人たちも次への街と向かっていた。歩いている途中、私はシルバー先生に昨晩ティモと交わした会話を伝えた。


「ビルはその話を聞いた時に、その人たちのことをどのように思いましたか」

「なんというか・・・言葉が正確かどうかわかりませんが、その討論の相手を『小賢しい』と思いました」

「どうしてそのように思ったのですか」


周囲の建物が低くなっていく。店の幅も少しずつ空いてきた。この中でいくつか目星をつけながら、後で宿泊する宿屋を探す。


「はい・・・先ほど言いました『鉄環の誓団』という連中は、確かに厄介かもしれません。しかし彼らが本当にエンドロゴス(深い思索者)そして優秀なのであれば、今現時点で我々に耳に入ってくる評価は、そのような低俗なものではないはずです。ましてや議論を差し置いて、人質をとってその場を制するなど直感的にうまくいく感じがしません。小物を相手にしているのであればその手法は通じるかもしれませんが、例えばヴァルドリス王国のレオナルド師団長に同じような行為をやったとしても、その議論ではないところ実力の差がありすぎて、彼らの強引なやり方が通じると思いません」

「ふふふ・・・今の話の大前提では、私は小物ではないということになりますね」

「それは・・・」


確かに議論で使う言葉としては、定義を曖昧なまま言葉を使ってしまった。もちろん返答としては『先生が小物なわけないじゃないですか』というものだが、それは先生が本当に意図した〈不明瞭な形での定義づけが曖昧な言葉を使用しない〉ということのカバーには、何一つならないので苦い顔するしかなかった。


「じいちゃん!もうここから先に行っても宿屋なさそうだよ」


先頭を歩いていたイーヴァンが振り向いて我々に声をかけた。確かに周囲を見渡すと畑が多く広がりつつある。相変わらず水路と水車がたくさん配置してあり、この国の豊かな農作物を支えている空気を感じる。

カミルも周囲を見渡しながら私と先生に向かって言った。


「ここに来るまでに、宿屋は三つほどあったよ。まあ、地域統括所の連中が宿代思ってくれるんだったら、場所とか関係なく選び放題じゃないかな」

「じいちゃん、なんで町の中心部の方の宿屋を借りないんだ?金の事気にしなくていいんだろう?」

「それ以前に、地域統括所にいって昨日来た連中に話をすれば、宿ぐらい取ってもらえるんじゃないんですか、先生」


イーヴァンとカミルが先生に一度に質問をする。私はいったん荷物を下ろし、水車の方を見た。もしかしてティモがいるのではないかと思ったからである。朝日が高くなり用水路の水がきらきらと光っている。その周囲で、農作業の人たちがまじめに働いている。


「ビルの話を聞く限り、私が三日後に相手をする人々はかなり危ない人たちみたいです。おそらく中央のほうで宿を取ったり、誰かに紹介してもらうと、我々の場所がすぐにわかってしまいます。討論会が行われる前に何が起こるかわかりませんが、なるべくなら安全を確保できる方が良いと思っています」


シルバー先生は2人に丁寧に説明をした。私のときは『答えを聞いてはダメだ』とさんざんいわれたが、どうもまだ同じ待遇ではないらしい。


「でも、よくわからないのですが、なんとなく中心から離れた宿屋の方が不安を感じてしまうのが・・・」


珍しくカミルが質問を重ねた。彼・・・彼女は自分に対して自己肯定感が低く、あまり先生に対して質問をすることがなかった。(先生と話すときは、時々頑張って敬語を使うようにしているみたいだ)彼女中で少しずつ、物事に対しての本質を掴みたい欲求が、芽生え始めているのだろうか・・・


「そうですね・・・カミル、私は他の人を指導するときに『直感を大事にしなさい』とよく話しています。それからすると、カミルの肌感覚からして今の結論をもってしているので、そのロジックにおいては正しいでしょう。しかしそれがただ単に印象的なことがあるのを注意しないといけない。例えばあなたは、王様とは『お金持ちである』と思っている。どうですか?」

「はぁ・・・まあ」


カミルはなんとなく答えた。


「それはなぜですか」

「それは・・・貧乏なのに王様にはなれないんじゃないかと」

「ではお金持ちとはどういう意味ですか?」

「沢山金を持ってる・・・・?」

「では、そのお金を昨日の晩隣の家から盗んできたとして、その人物は金持ちと言えるでしょうか?」

「あ、いや・・・」

「なぜです?」

「そりゃ・・・隣のやつが奪い返しに来るから」

「誰が取ったかわかっている時には限られますが、大概はばれてしまいますのでそうですね。では、彼を金持ちと呼べますか?」

「ん・・・いや・・・・」

「お金を持っているのと、お金を持っているように見えるのは違います。つまり安全であること安全に見えることは違うのです。確かに、より中心部の宿屋の方がセキュリティは高いでしょう。でもそれは入り口に警備が立っているぐらいのレベルで、相手が本当に我々に何かをしようとしてくるのであれば、我々が充分にそれに備えている以外に方法はないのです。そうなるとそれ以外のファクターを我々に有利にしてくる必要があります。我々がより遠くに行くほど、彼らは物理的に広範囲を探索しなければなりません。さらに街の中に居ると集団で動いても目立ちませんが、人通りがどんどん少なるにつれ、怪しい格好や集団で動くとより目立ってしまいます。周囲も彼らに目を向けるはずでしょう。それだけで彼らは、非常に行動しにくくなります」

「つまりそれは・・・」


さらにカミルが質問しようとする。それは彼女が先生の話についていけているということだ。


「なんか街の中心部にある宿屋の方が、厳重に守ってくれそうだと思ってるけど、その部分はあまり大して変わりないってこと?」

「その理解であっています」

「じゃあ、オレが言った『地域統括所の人間に宿を紹介してもらう』ってのは、そこからすぐに場所の情報が漏れてしまうってこと?」


先生は軽く微笑み、目を細めた。


「そうです・・・今現時点では地域統括所の人、特にルドからはなるべく離れた方が良いでしょう。なぜなら鉄環の誓団の連中は、まだ自分たちの討論相手がルドとその仲間たちだと思っているからです」

「そうか・・・・」


カミルの表情は決して晴れやかなものではない。理屈ではわかったとしても感情としてどうしても、不安を感じてしまっているのであろう。そこの部分を『手を放せば物が落ちるように当たり前』と認識をできてくるのはまだまだ時間がかかる。


「先生、ありがとうございます」


彼女はたどたどしい敬語で先生にお礼を言った。


「素晴らしいことですよ、そのように質問をがんばってしてみてください。あと三日しかありませんから」

「は?」


思わず私とカミルとイーヴァン、三人が先生を見て間抜けな声を上げた。


「先生、今のどういう意味ですか?」


私は直球で先生に聞いた。


「昨日、ルドから聞いた話だと、その討論会というのは1人対1人の討論を四人行うというものと聞いていす」

「先生!四人って⁉」

「オレも?」


カミルが自分を指さす。


「じいちゃん!オレもか!!」


イーヴァンも自分を指さす。


「そうです」

「先生、え、あの・・・え・・・その・・・私が参加するのであればまだわかりますが、カミルに加えてイーヴァンもって・・・」

「ははは…ビル、あなたは先ほど彼らを称して『小賢しい連中』と言ったではないですか」

「え・・・それは・・・」

「彼らがどんな手を使ってくるかは、ぜひ見ものですね。まさかずいぶん遠くからビルたちの家族人質に取ってくるとなると、それは随分とご苦労の話ですね」


え・・・・


イーヴァンも・・・って・・・先生は本気・・・いや、今の雰囲気だと間違いない。


「私はカミルたちと宿屋を探します。ビルは昨日の宿屋の辺りに行って、ティモが来るのを待っていてください。そして情報のやり取りは、彼が都合のいい水車小屋を選んでもらい、そこで行いましょう。夕方ぐらいが良いが、その時間も彼が指定した方がもっとも彼が周りに不自然に思われないと思います」

「あの宿から離れたのであれば、ルドは確実にティモに対して場所を教えるように言ってくるのではないでしょうか?」

「『討論会に向けてさまざまな対策をとるために場所は教えられない』その一言を相手に告げるだけで充分でしょう。ルドにとってはその討論会が上手くいくことを、もっとも望んでいることだと思います。それが阻害されるのであれば、彼らは強要してくることはないでしょう。もちろんどの行為が、何を阻害することになるか、彼がわかるはずもありませんが」


私は先生たちと離れて、おそらくティモが待っているであろう、追い出された宿屋に向かった。全く整備されてない道の土埃を上げながら。



追い出された宿屋の周辺は、人通りが思ったよりも多い。昨日はそれほどだと思わなかったが、旅人や商人、地元の労働者、昨日はあんまり見なかった兵士たち。実際に町の規模自体は小さくない。あれだけの広大な灌漑用水を保持して作物を生産しているのである。国力ならぬ街力は決して小さくはないのだろう。それに比べると周囲に防御するため城壁はほとんどない。考えられるのは最近急速に発展したということか。『この街が狙われるのは、実は今のタイミングが最も高いのかもしれない』そんなことを考えながら追い出された宿屋の近くに来ると、遠くの男が駆け足でこちらのほうに寄ってきた。ティモである。


「宿屋の主人から、ここにはもういないと言われたので、この街を出てしまったんだと思いました!」


息を切らしながら近寄ってきて開口一番、その言葉私に投げかけて来たティモの表情は、先ほどまでの不安感と、私が目の前に来た安心感がブレンドされたような感じだった。昨日まで『この街から逃げろ』と言っていたのに、思考と言動の幅が大きすぎる。単に軸を持って居ないから、湖に浮かぶ根無し草のように、すべてが漂っているだけの状態なのであろう。不思議である。本当に以前会った彼の方が軸に対して強さを持っていた。先生が言うように、何かを得てしまうだけでこんなふうになってしまうのか?


それは私自身も——————


「実は昨日、あまりにも五月蠅くしていて宿屋に追い出されまして」

「え、そうだったんですか⁉」


彼の瞳には一瞬『私のせい?』という色が出るが、それを決して口にしない。どうしてこうも、彼の不誠実さを引っかかってしまうのだろう。私は先生に指示された通りに、夕方ぐらいにどこかの水車で情報共有をするために落ち合おうと言った。そしてルドには、我々のことを一切知らないと押し通す旨を伝えた。


「それだと、目立たない水車小屋がいいですね。町の西の方に街の出口を示す赤い門があります。そこから出た右手側に一番古めの水車があります」

「それは、行ってすぐわかる感じなのか?」

「はい、行けばすぐにわかります。多くの水車は石造りですが、それは木でできています。古いものなので小屋に鍵もかかっていません。そこで待ち合わせをしましょう」

「ルドたちは、まだ私達が宿を変えた事には気付いて無いんだよな」

「はい・・・私自身、ルドが皆様方に依頼をしたことを知らないことになっています。宿を移動したことも知らないふりをしますので、彼らが皆さんの場所を探すのには時間がかかるでしょう。現に私自体どちらに移っていらっしゃるのか分かりませんし」


少し彼の言葉の数が多い。饒舌になるということは、あまり状態が良いことではない。ティモはまだ気持ちの多くが、不安に駆られているのであろう。約束をした後、ティモはすぐに自分の職場に戻っていった。なんとかこの短い間に相手側の動きを把握できるものがあればと思う。


「先生はキャステルの街に向かったよ」


私がカミルたちのいる地域に戻った時、彼らは新しい宿をすでに見つけていた。思ったよりしっかりした3階建ての建物で、その3階部分が空いていたらしい。壁が所々赤色に塗られていた形跡があり、この建物が作られた時期におそらく流行ったのであろう。少しだけ黄色い模様が残っている。壁も床も厚く、これであれば少々騒いでも周りに文句を言われることはなさそうである。


しかしそこには、シルバー先生の姿はない。


「え・・・『キャステル』って?それってなぜ?」


イーヴァンの突然の伝達に私は戸惑うしかなかった。


「討論の相手の所属している街がそこらしいんだ、『鉄環の誓団』の情報を得るためにそこに向かったんだよ」


カミルが私に、さも問題がないような話し方をしたのでさすがに戸惑ってしまった。


「え・・・今から向かった?その街までどのくらいの距離があるんだ」

「いや、さすがにそこまではわからないけど」


シルバー先生のことだ。考えなしにその街に向かったとは思えない。しかしあと三日あるとは言え、逆に三日しかない。いや、 三日後には討論会があるだからあと二日だ。シルバー先生はそれまでに帰って来られるのか?いや、その間に何かあった時には・・・・


「先生からこれを預かっている」


カミルはそう言うと一枚の紙を私に手渡した。そこには


『ビルへ——————

私は情報を集めるため、キャステルの街へと向かいます

それまで何かあった場合は、あなたの独自の判断で動いてください


——————シルバー』


え・・・「それだけですか」と言いたくなる内容だ。しかし考え方からすれば、先生が私にそこまで判断を委ねてくださっていると思う。私はカミルとイーヴァンの顔を見た。 2人とも不安な表情を全くしてない————というより、今何かが大きく動き出そうとしていることに対して、何も感じ取れてはいないのだろう。


「ふ—————」


私は大きく深呼吸をした。


「カミル、イーヴァン———先生はお前たちにも討論会に出るとおっしゃってた。これは本当のことだと思う。なんで簡単に、少しだけものの考え方の練習をしてみよう」

「?・・・」

「先生は『キャステルの街へと向かう』と言ってた。でもその言葉はどのくらい本当だと思う?」

「え・・・さすがに本当だろう!じいちゃんが嘘なんかつく必要ないし」


カミルもそれと答えと同様な表情をしている。


「そうだな。気持ちはわかる。でも『嘘をつかない』と『真実である』ということは別のことだ」


私は2人に少しだけ、シルバー先生から教わったことを伝えようとした。この短期間でそんなことをやっても意味はないと言われるかもしれないが、私の心が何かを落ち着かせようとしていた。


目に見えないものが大きく流動性をもち、渦を巻いていることを体は感じていた————

私は何かをするべきだ————

それが少し余計なことだとしても————



昼食をとった後、少しまどろんだ時間を持った。

夕方が近くなったので、私はティモと待ち合わせをする水車小屋へと向かった。



ギ————

ギ————

ギ————


割れた木の壁の隙間から夕日が差し込む。西の赤い門を過ぎた後、すぐに木製の水車小屋を発見できた。中に入るとその歯車の軋む音が小屋の中で響き渡り、その騒がしさに慣れるまでに随分と時間がかかる。


ギ————

ギ————


おそらくカミルとイーヴァンは大丈夫だろう。正直2人ともめっぽう強い。先生がいる時の方が、人を守りながら行動を起こさないといけないので、そちらの方の不安が大きい。さらに2人がバラバラになることもあまりないだろう。イーヴァンの素早さは天下一品なので、一瞬別れたとしてもすぐに合流できるだろう。


ギ————

ギ————


これだけ煩いと人が来たかどうか音では気づきにくい。扉から少し離れた影の方に身を潜める。小屋の中を猛スピードで用水路お水が流れ込む。その水圧が水車を回す。不用意に手を出すと、その力強い水車の回転で大怪我をしそうである。


扉が開き、夕日が差し込んだ


「ティモ・・・」


私は扉の方へと向かった。


「!!・・・」


私は愕然とした。ティモの後に数人の男達。すぐ後ろには胸元に小さな歯車の意匠が施された、ブローチをつけていた・・・・ルド


ああ・・・先生・・・私はまだまだ自惚れていたようです。この狭い部屋で、逃げ場のないところで待ち合わせをすれば、おそらく隠れ切ることは難しいでしょう。しかし先生であれば、私のように不用意に入り口には向かわないでしょう。いや場合によっては、ティモが来るまで小屋の見える遠くからそれを観察していたかもしれない。なぜならば少し遅れて来ても何の問題もないはずだから。なのにわたしは・・・・


物事が煩雑にうごめき空気が乱れ————

何が起こるか分からない状況だと先ほど感じていたばかりなのに————



「ビルさん・・・違うんだ・・・」


ティモの声は震えている。


少し前の私であれば『何が違うだ』と、罵りに近い言葉が、頭の中に持ち上がっていた。が、今は違う。それの数十倍、私はマヌケである。


銀灰色の短髪。額には深い皺が刻まれ、瞳は琥珀色。その中に不安が交錯するような揺らぎを湛えているルドは、ティモの前に乗り出した。ほかの男たちも小屋の中に入り扉を閉めた。


「あなたがこのティモと、何を企んでいるか知りませんが、我々は我々の大事がかかっているのです」


私はまだ腰の剣には手をやらない。


ギ————

ギ————


まるで水車の回転がこの場の運命を握っているように、私は感じた。



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