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中編 わたしだけは知っている

 わたしだけは知っている。

 アランがお菓子作りが得意だということを。


 今日はわたしの屋敷にあるキッチンでなにか作っているようだった。


「アラン様、なにを作られているのですか?」

「良い質問だね、エレナ。クッキーを焼いているのさ」

「わぁ、どうりでバターの良い匂いがするなぁと思ったんです!」


 甘い砂糖やチョコの香りもしていた。

 どれも帝国産の高級な材料だ。

 とても本格的でわたしは驚いた。


「もうすぐ完成する。ぜひ試食して欲しいな」

「ありがとうございます」


 しばらくするとアランがお皿を持ってきた。

 その上には焼きたてのクッキー。

 それと紅茶を運んできてくれた。


「さあ、食べてくれ」

「いただきます」


 クッキーを一枚摘まんでそれを口に運ぶ。

 刹那でバターの香りが広がる。

 う~ん、とても優しい味。美味しい。

 紅茶にもぴったり。


「味はどうかな」

「素晴らしい完成度です。アラン様はお菓子作りが得意なんですね」

「その言葉を聞けて良かった。これでもまだ修行中でね」

「凄いです。こんなに美味しいクッキーを作れるなんて」

「農民を労うために何か出来ないかなと考えたんだ」


 それでお菓子作りを始めた――と。

 民の為に考えているんだ。凄いな。


「わたしもお手伝いしたいです。お菓子の作り方、教えてください」

「本当かい! それは嬉しいな。エレナにもぜひお菓子を作って欲しい」


 優しい瞳で見つめられ、わたしは思わず心臓がドキドキした。

 顔が熱湯のように暑くなってどうかなりそうだった。


 そんな中、庭の方で気配を感じた。


 双眼鏡(オペラグラス)でこちらを覗くような、そんな視線。……まさか。



「……」

「どうしたんだい、エレナ」

「庭に誰かいるみたいです」

「覗きかい? どれ……」



 アランが庭へ出ると、その直後には気配は消えていた。



「いなくなったみたいです」

「そうか。もしかしたら、俺とエレナの関係をよく思わない人物がいるのかもね」

「怖いです……」

「大丈夫。俺が守る」

「嬉しい……ありがとうございます」


「……っ!」


 なぜかアランは顔を赤くしていた。

 照れくさそうに視線を外し、慌てているようなそんな仕草を見せていた。……あら、こういう可愛いところもあるんだ。



「アラン様?」

「な、なんでもないよ」

「でも、ぼうっとされていました」


「そ、それは……そうだ。エレナ、君の銀の髪に見惚れていたんだ。ほら、こんなにサラサラで美しいから……」


 髪を褒められるのは意外だった。

 それはそれで照れるんですけど……!


 そんな空気の中、お父様が腰を擦りながら現れた。



「エレナ、遊んでいないでそろそろ相手を見つけなさ――」



 いつもの小言を言いながらも広間にやってくるお父様は、アランの姿を見て足を止めた。



「お邪魔しています。ラナンキュラス伯」

「君は……その徽章。まさかローゼル公爵……」

「その通りです。立場上は自分の方が上になりますが、今はただの客人です。身分のことは忘れてください」


「し、しかしだな……」


 さすがのお父様も困惑していた。

 相手がまさかの公爵では、困るしかない。

 わたしもまだ緊張するし、気持ちは分かる。



「お父様。今、アラン様はお客人と言いましたがそれは違います。婚約者です」

「――なッ!? なんだとぉ!? いだだ……」


 素っ頓狂な声を上げ、お父様は腰を痛めていた。

 最近腰痛が酷いらしい。


「すみません、ラナンキュラス伯。あとで言おうと思ったのですが……」

「いやいや! まさか娘とそのようなご関係になられていたとは。こちらこそ、恐縮。いや、田舎娘ですが……よろしくお願いします」


 そんな風に素直に挨拶をしてくれるお父様。

 多分本来なら結婚なんて認めてくれるはずがなかった。

 今までもそうだったから。


 でも、相手が公爵と分かった以上は、さすがにお父様も強くは言えないようだった。


「いいですね、お父様」

「今まで私はお前に苦労をかけた。エレナの幸せの為と思って相手に関しては厳しくしていた。だが、公爵なら話は別だ。幸せになりなさい」


 ようやく認めてくれた。

 これで安心してアランと楽しい毎日を送れる。


 そう思った矢先だった。



「認めない! 認めないわ!!」



 知らない誰かが広間に侵入してきた。

 アランがわたしを守るようにしてくれた。



「エレナ、俺の後ろに」

「……はい」



 この貴族女性はいったい……?

 でも、どこかで見た覚えがあるような。


 あれ……確かセスカだったような。

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