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あなたの声を聴かせて  作者: 紅羽 もみじ
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事件録2-2

事件録2-2

 現場に着いた平端は、ひとまず自宅周辺を見て回った。被害者の家は昭和風情で、とことん『田舎のおばあちゃんの家』という趣を感じさせる。ただ、家主であるヨシ子は数年前に脳梗塞で麻痺が残った。その生活に合わせるために取り付けたと思われる、手すりやスロープがどこか浮いて見えた。

 平端が自宅周辺を見て回っている時に、近所に住むと言う女性が話しかけてきた。聞けば、ヨシ子が寝たきりになる前まではよく、ハイキングや旅行をした仲だと言う。


「寝たきりの状態になってからは、お会いになりました?」

「ええ、そりゃ時間を見てはお邪魔してましたよ。お孫さんもできた子でねぇ、私ゃ気にしなくていいよって言うんだけど、毎回お茶持ってきてくれて。愛想も良かったし、ヨシ子さんのこと、本当に大事に介護してて…」


 その後も何やらもごもご話し続けるが、平端は別の方に興味を持った。


「ね、ねぇ、おばあさん、ヨシ子さんのお孫さんにも会ったことあるんだよね、最後に会ったのはいつ?」

「さぁー、いつだったか…、ああ、そうだ。それが最後だったかは忘れちゃったけども、最近うちで採れた野菜を持っていってねぇ。その時にもお孫さんが、丁寧にありがとうございますって受け取ってくれたのを覚えてるよ。」

「その時、おばあさんには、何も話してませんでした?何と言うか、そのー、体がしんどい、とか。」

「いんやぁ、そんなことは言ってなかった気がするねぇ。」

「そっか…」


 平端は、毎回家に顔を出していた仲の人間であれば、何か誠に変化があったことを感じ取ってはいないかと思ったが、よくよく考えれば、ストレスを表に出すまいとする真面目な人間であれば、変化を見せることはないだろう、と考えた。

 近所の知人と名乗る老人と別れ、平端は家の中に入った。まず入った部屋は、犯行現場となったヨシ子の寝室。鑑識がテキパキと証拠集めに勤しんでいる。ヨシ子が使っていたと思われるベッドは、長年使い込まれた形跡があるものの、布団のシーツや枕などは清潔な状態に保たれていた。


(ここで、あのおばあちゃんが殺された、か…)


 指紋を残さないよう、手袋をして布団に触れてみる。すると、先ほどまで取調室で孫の側で佇んでいたヨシ子が、悲しげな表情で表れた。思念は、懐かしむような暖かさ、そして、悲痛なまでの悲しみがひしひしと伝わってくる。


(犯行現場でこの表情、思念…。やっぱり、あのお孫さんがやっちゃったのかなぁ。)


 犯行現場に残された物に触れるたび、ヨシ子の思念が伝わり、平端は居た堪れなくなって、一先ず部屋を後にする。


(寝たきりにさえならなければ、こんなことにはならなかったのに、って気持ちが強いんだろうな。何か、悲しくなってくるなぁ…)


 犯行現場から出ると、台所やお手洗いに向かう廊下につながる。廊下からは庭が一望でき、ヨシ子が生前に育てていたと思われる植物や、物干し竿がかかっていた。

 平端は何気なく廊下を歩いていると、台所に着く前にもう一つ部屋があることに気づいた。


(ここは……、何の部屋だろ?)


 部屋には、タンスや引き出し、そして既に亡くなっているヨシ子の夫の仏壇があった。


(介護もしながら、おじいちゃんの仏間の掃除とかもしてたのかな。大変だったろうなぁ…。)


 部屋を覗き見て、一通り見て回ろうと足を踏み入れたその時。


(……!?おばあちゃん…?え、何だろ、この思念…)


 先ほどまで、穏やかで一方で悲しげな思念を振り撒いていたヨシ子が、急激な恨みの思念を発していた。その顔には、今まで浮かべていた優しげな表情とは一変して、怒りに駆られたものになった。いきなりの変化に、平端は背筋が凍ったが、この変化を見過ごすことはできない。


(……なんだろ、この部屋に何かあるの…?)


 おばあちゃん、ごめんね、と一言心の中で断りを入れ、部屋に足を踏み入れる。だが、一見しても入った部屋に変わったものは見当たらない。


(おじいちゃんの仏壇は、ちゃんと手入れされてる。埃一つかぶってない。仏壇を蔑ろにされて怒ってる、とかではなさそう…?)


 仏壇の対面にあるのは、洋服ダンスと5段ある引き出し。平端はまず、洋服ダンスを開けて中を覗いてみる。しかし、服は整然と並べられ、特段変わった様子はなかった。強いて言えば、並べられている洋服は、それなりな値段の高価な洋服だ、というところか。


(結構お金持ちだったのかな。倒れるまではよく旅行にも行ってたってことだったし…)


 洋服を探りながら観察していると、洋服ダンスの奥に、見るからに高価そうな箱が何個か置かれていた。


(なんだろ、アクセサリー類を入れておく箱かな…?)


 箱の一つを手に取り、開けてみる。中にはネックレスが入っており、綺麗な宝石が光に照らされてキラキラと反射していた。


(大事に保管されてる…。おばあちゃんの大切な物だったんだ。おじいちゃんからのプレゼント、とかかな。)


 平端は慎重に箱を戻し、洋服ダンスを閉じた。次は隣にある引き出し。そのうちの一つを開けると、そこにはまた、いくつかのアクセサリー類が大切に並べられていた。だが、中身を観察してみると、平端はある違和感に気づいた。


(……?何個か、無くなってる…?いや、おばあちゃんが手元に置いておくために出してあるものがある?)


 平端は、引き出しの前でうーん…と考え始めた。ここにあるのは、それなりに高価なアクセサリー類。どれも整然と並べられ、大切に保管されていることが見てとれる。ただ、その内のいくつかは抜き取られた様に空間が開いている。


(おばあちゃんは、寝たきりになってから認知能力は低下してた。そんな人が、手元で保管するために、わざわざ引き出しから出す…?)


 横を見ると、変わらず怒りの思念を振り撒くヨシ子。


(おばあちゃん、何があったの…?)


 心の中で問いかけるが、ヨシ子はひたすら怒りの思念を漂わせる。


(金銭管理から、家の中のものの管理もお孫さんがしてたのよね。何か知ってるかも…)


 平端は引き出しを元に戻し、犯行現場を飛び出して取調室にいる誠のもとに戻ることにした。

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