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あなたの声を聴かせて  作者: 紅羽 もみじ
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事件録4-3

事件録4-3

「塚本先輩!ちょっと止めてください!」

「な、何だよ?!」


 公園に向かうはずだったパトカーを塚本は一時停止し、平端を凝視した。


「いきなり何だ、何を見て…」


 塚本は、平端の視線の先を見た。そこにあったのは、中学校。公立ではなく、私立の中学校だった。小中一貫校の、この近辺ではそれなりに成績が高い子どもでないと入学できない学校だ。一部の生徒たちは、体育の授業をしているのか、トラックを走ったり、走り幅跳びをしたりと、陸上競技をしているようだ。


「あの中学校がどうした。」

「……葵ちゃんが、怯えてます。この中学校に近づいてから、ずっと。」

「怯えてる…?」


 平端は、小学校を出た後は普通にしていた葵が、公園に向かう道中に少しずつ異変が出始めていた。どうしたのかと思っていたら、中学校の目の前まで近づいてきた時、まるで地震がきた時に取る防御策のような仕草で伏せ、体を震わせていた。


「後ろで、ずっと頭を抑えて震えてるんですよ。何かあるのかも…。」

「……お前は車を公園まで運転してけ。俺は中学校に話を聞きに行く。」

「え、先輩私も行きます…」

「馬鹿野郎、葵が怖がってんだろ。早く中学校から離れて、公園へ行け。今の葵にはお前しかいねぇんだ、早く行け。」


 塚本のいつもと違う気迫の指示に押され、平端は運転席に変わり、公園へ向かって行った。


(先輩…無茶しなきゃいいけど。)


 そんな心配が葵に伝わったのか、中学校を離れても不安そうな顔をしている葵。しまった、と平端はいつもの調子で心の中で、葵ちゃん、今から公園行くよ、と呟くと、葵は不安そうな顔から一変して嬉しそうに頷いた。


 一方、塚本は私立中学の中に入り、あくまでこの近辺で起きた事件の周辺捜査、と伝え、職員室まで通してもらった。教頭が対応し、一連の事件についてはある程度知っているようだった。


「犯人が捕まるまでは、部活動も中止させて、早く家に帰らせるようにしています。被害に遭っている子はどの子も小学生らしいですが、だからと言ってうちの学校の生徒は安心、というわけではないと思いますし…」

「それが一番かと。犯人検挙には今、警察の全勢力をあげて捜査を行っていますので…。」

「ですが、刑事さん。周辺捜査とはいえ、うちの学校に来られるということは、何か関係が…?」

「や、それが…、」


 塚本は、改めて平端を連れてこれば良かったか、と内心焦りを感じた。何せ、この中学に足を運んだのも、死んだ葵が恐怖心を見せたという、非現実的な理由だ。学校に立ち寄った、現実的な理由を塚本は必死で練り上げた。


「今回の被害者は、下校途中で公園に行って遊んでたそうで。その公園に向かう途中で、この中学校が見えたので、お邪魔した次第です。周辺捜査には念を入れてますので。」


 少し怪訝に思われたかもしれないが、急ごしらえで作った理由にしては上出来だろうと塚本は内心胸を撫で下ろした。教頭は、そうですか…、と呟き、少し考える仕草をして黙り込んだ。


「どうされました?何か気になることでも?」

「ああ、いえ。気になるというほどのことでもないんですが…。」

「些細なことでも結構です、話してください。」

「…あの市民公園は、この近辺の小学生たちがよく使っていますので、上級生である中学生の生徒たちには、思いやりを持って公園を利用するように、とは伝えているんです。」

「中学生が遊具を占領していたら、小学生の子どもたちは何も言えませんからね。」

「ええ…、ただ、うちも私立で試験と面接で入学するとはいえ、性格までは推し量ることは難しいのです。なので、たまに生徒の中には、普段大人しい顔をしていても、裏では何をやってるかわからない、という子がいるのも事実でして…。」


 塚本は、教頭の話から、少年犯罪の可能性を考えた。確かに、エアガンであれば手に入れることは容易。改造などはインターネットで調べれば、いくらでも出てくる。玉の入手方法はわからないが、調べれば出てくるかもしれない。


「そのお話しぶりからいくと、気になる生徒がいるんですか?」

「あ、いえ、そういうわけでは…。ただ、」


 教頭はそこまで話をすると、塚本の携帯が鳴った。ちょっと失礼します、と携帯に手をかけると、平端からの着信。通された部屋を出たところで、平端の着信をとった。


「なんだ、どうした。」

「先輩!すぐ署に戻ってください!!重要参考人が現れたそうです!!」

「なんだと?!」

「無線で連絡が入りました。今どこにいます??」

「さっきの中学校だ、署に戻るぞ!」

「わかりました、迎えに行きます!」


 塚本は、教頭の話に少し気になる部分はあったが、署に戻ることが最優先と考え、教頭に挨拶をして学校を飛び出した。校門前には既に平端が控えており、車に乗り込んだ。


「このタイミングで何で出てきた、どういうことだ。」

「本部から無線が入ったんです。2人目の被害者の周辺を洗っていた班からの無線で、犯行現場付近で職務質問をしたらその途中で、自宅に逃げ込んだそうです。そこで、捜査官たちが踏み込んだら…」

「改造されたエアガンやらが出てきたってことか。」

「それ以上の情報は、まだ入ってません。署で取り調べを受けてると思います。」


 そうか、という一言を最後に、塚本は署に着くまで口を開かなかった。その表情には、怒りが隠しきれていない。

 葵は塚本が車に来てから、少し怯えた表情をしているが、平端が大丈夫だよ、と声をかけ、安心させた。


(これで、事件が終わってくれるといいんだけど…)


 平端も、署に戻るまで一切喋らず、ひたすら車を走らせた。

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