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あなたの声を聴かせて  作者: 紅羽 もみじ
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事件録4-1

事件録4-1

ここはどこ?

暗くて、何もないところ。

苦しくないし、痛くもないけど、ここにいると寂しくなる。

何をしてたんだっけ、帰り道は、どこだっけ…


「はぁ……これで3人目、か。」

「そうだな。前の現場とも、そこまで離れてない。同一犯だろうな。」


 平端と塚本は、遺体の前で深いため息をつく。2人の目の前には、まだ5、6歳の頃の子どもが、無惨な姿で横たわっていた。

 平端が3人目、と言ったのは、この近辺で幼い子どもを狙った傷害致死及び殺人が起こっていた。1人目は重傷を負い命に別状はなかったが、2人目は搬送先で死亡、今回見つかったのが既に現場で亡くなった3人目、というわけだ。犯行がエスカレートしており、警察は特別捜査本部を設置し、塚本と平端もその捜査の担当になっていた。


「……ったく、胸糞悪い。事件に良いも悪いもないけどな、こういう子どもを巻き込んだ事件ってのが一番許せねぇ。」

「……先輩にも、お子さんいますもんね。」


 塚本には、今年4歳になる娘と8歳になる息子がいる。彼の警察手帳には、子ども2人が笑って写っている写真を入れてあり、お守りのように大切にしていた。


「私に子どもはいませんけど…、この前の事件でも、子どもに怖い思いをさせる事件は一番許せないってのは同感ですよ。一刻も早くホシをあげましょ。」

「……おう。お前の『力』にも縋る覚悟でいく。正式な証拠にはならんだろうが、そこから挙げられる証拠もあるだろ。本部には報告しなくて良いが、俺には報告しろ、何でも聞いてやる。」

「了解です。」


 塚本自身、当たる事件に区別はつけていないつもりらしいが、子どもが関わると特に動きが変わる。平端はそれを近くで何年も見てきた。


(とは言ったものの…)


 今回の被害者である、相葉葵は、身元を確認したところ5歳の子ども。遺体のそばには、普段と同じく葵の霊が立ちすくんでいるが、どうしてこうなったのか、なぜ死んでいるのかも理解していないような雰囲気が漂っている。写真を撮られる度に、鑑識の服を掴む仕草をして、何をしてるのか、と聞きたげな行動をしている。


(今までは、しっかり恨みとか怒りとか、生きてる人間で言えば、意志みたいなのがあったから読めたところがあるんだけど…、葵ちゃんは何もわかってないのよね。話はできないし…。)


 平端は初めて、霊は見えても何もできなさそうで困惑していた。何しろ、葵自身、死んでいることに気づいていないのだ。周りにはたくさんの大人が立っているが、意思疎通ができない。その状況にただ、なぜ?を繰り返しているのだろう。

 塚本が本部に戻るぞ、という声をかけてきたため、平端は一先ず現場を去ろうとその場を動いた。すると、一瞬ヒヤッとした感覚が、平端を突き抜けた。振り返ると、平端の服を掴む仕草をして、見上げている葵の姿があった。


(葵ちゃん…、私があなたのことを見えてるって、気づいてる?)


 葵は、平端が思ったことに呼応するように、嬉しそうに頷いた。意思疎通ができそうな大人をやっと見つけ、安心したようだった。


(そうか…、今までの霊は、大人ばっかりで、生前の思念に囚われすぎて、会話どころじゃなかった。でも、葵ちゃんは違う…。囚われるほどの生前の思念が、存在しないんだ。)


 葵は、平端の考えていることが分からなさそうな顔で、首を横に傾げたが、平端は葵を安心させるため、目線を合わせ、心の中で語りかけた。


(1人だと、寂しいでしょう?一緒についておいで。)


 葵は、平端の提案に嬉しそうに頷き、平端の後ろを付いて歩くようになった。車に乗り込むと、塚本は遅いぞ、とピリピリした様子で言った。


「塚本先輩。今回は霊を連れていきながら捜査になりそうです。」

「…被害者か。」

「ええ。5歳の子どもですから、今の状況を理解していないようで、鑑識や他の捜査官にひたすらついて回ってて。前も言ったように普通に会話とか事情聴取はできませんが、1人にしとくのも可哀想なので。」

「…それがいい。面倒見てやってくれ。」


 塚本は珍しく、平端の突拍子もない話にも同意し、加えて、何かわかりそうなら俺に報告しろ、と再度釘を刺し、車を走らせた。


 捜査本部では、今までの被害者の状況、現場に残った証拠など、捜査官達が各々拾い上げた情報を報告した。

 1人目は4歳男児。改造されたエアガンで撃たれており、しかも装填されていたものが鉄製のものであったため、重傷を負った。不幸中の幸いというべきは、当たったところが腕や足であったことだろう。被害者は4歳であり、遊んだ帰り道に背後から間を開けずに何発も撃たれたことから犯人を見ておらず、犯人像を割り出すことは不可能だった。

 2人目は5歳女児。改造されたエアガンで襲撃されている。犯人は狙いを定めたのか、真正面から目や下腹部、心臓のあたりを何発も打ちつけた。また、1人目の時と異なるところは、装填されているものにも加工がされており、玉が複数尖っていたことから、出血多量のショック死と判断された。2人目も、習い事からの帰り道で襲われている。

 そして、今回の被害者、葵も2人目と同じく5歳。1人目、2人目と違う点は、エアガンが使われておらず、小型の刃物で複数箇所刺されたことによる失血死、と報告された。また、気絶させてから犯行に及んだのか、葵の体内からは微量のクロロフォルムが検出された。その他の情報は前の被害者と変わらず、友だちと遊んだ帰り道に襲われたとのことだった。

 報告を終え、捜査本部長は、これ以上の被害を出させてはいけない、と捜査官に檄を飛ばし、それぞれの班に指示を出して解散となった。塚本と平端は、今回被害者となった葵の現場周辺の捜査にあたることとなった。


「ったく、これ以上被害出すなって、んなこたわかってんだよ、くそっ。」


 子どもが被害に遭っているということもあるが、今回の捜査本部長とは昔、馬が合わなかったらしく、余計にピリピリしていた。


「いつもは私が先輩に止められるんですけどねぇ…、先輩。葵ちゃんが怖がりますから、抑えて抑えて。」

「…っ、おう…悪い。」


 葵は、理由はわからないがなぜかとても怒っているおじさんを前に、すっかり平端の後ろに隠れてしまっていた。


(葵ちゃん、大丈夫。優しい人だからね。)


 そう心の中で呟くと、葵は聞き分けがいいのか、こくりと頷いた。

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