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あなたの声を聴かせて  作者: 紅羽 もみじ
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事件録3-3

事件録3-3

 平端は、弥生の家で聞いた兄弟の話を塚本に報告した。そして、晴人が弥生に向ける思念の正体にも符合する、と話すと、塚本は頭を抱えて唸るような仕草をした。


「まぁ、お前の思念云々の話はともかく…。被害者がDV加害者、ねぇ。奥さんは何も言ってなかったけどな。」

「疑われると思ったんじゃないですか。DVから逃れるために殺したって。」

「そうなったとしても、正当防衛が認められるか、それがなくとも、情状酌量の余地はあるけどな。…まぁ、そこまで頭が回れば、女相(女性相談所)に駆け込んだり、離婚するか、夜逃げするかするわな。」


 塚本は、また居た堪れないヤマに当たったと、ため息をついた。


「被害者は、奥さんに相当な執念を持ってます。DVに走ったのも、奥さんに逃げられると思っての行動かもしれません。兄弟は、弥生さんの殴られている音を聞くたびに、『神様』にお祈りしてたそうですよ。お父さんを倒して、お母さんを助けてくれって。」

「……健気なことだな。何にしても、DVが絡んでるなら、児相(児童相談所)や女相に相談や何かしら対応をしたかの照会、2人の通う学校にも行って事情を聞こう。」

「了解です。……はーぁ。」

「ため息つきたい気持ちはわかるが、声出すなって言っただろ、こっちまで気が滅入る。」

「先輩もすでに滅入ってるじゃないですか。」


 2人は事件の真相を探るため、署に戻ると事件に関わる刑事たちを招集して事情を説明。3班に分かれて、女相、児相、学校と被害者の勤務先をそれぞれ調べることにした。平端と塚本は、学校と被害者の勤務先に当たり、まずは相馬と拓磨が通う小学校へ向かった。


 学校は、元気な子どもたちの声で溢れかえり、ボールで遊ぶ者、校庭の遊具で競い合う者と、活気に溢れていた。

 兄弟の担任は、2人とも女性。塚本と平端はそれぞれに事情を聞いたが、たまに不自然なところに傷があることを見つけては、母親とコンタクトをとったり、時には児相にも情報提供をしていたと、担任から得られた情報に相違はほとんどなかった。

 そして、担任が自宅を訪問したり、児相の職員が家を訪ねても、父親は仕事でおらず、弥生はDVを否定するばかりで、結局晴人が殺されるまで、そのことが露呈することはなかったという。


「相当精神的にきてたはずなのに、学校にも児相にも頼らなかったんだな。」

「家庭にもいろいろありますけど、弥生さんは自身で抱え込むタイプです。昔の旦那はこうじゃなかったって思って、いつか元に戻ってくれると信じて耐えちゃうんですよ。共依存の可能性も考えられます。」

「まぁ、ここであーだこーだ考えても仕方ない。今度は被害者の勤務先だ。」

「……なんか、被害者と呼びたくなくなってきましたけどね。」


 塚本と平端は、晴人の勤務先に向けて覆面パトカーを走らせた。

 晴人の勤務先は、食品メーカーの営業職で、成績トップ、とまではいかないが、新規顧客をコンスタントに捕まえては企業の利益に貢献する、ごく普通のサラリーマンだったという。


「まさか、晴人君が殺されるとは…、今でも信じられません。」


 そう話すのは、晴人の直属の上司。晴人の死に余程のショックを受けているのか、塚本と平端の前で項垂れるように目を覆った。塚本は、晴人の人物像を少しでも明らかにするため、質問を始める。


「業務中の晴人さんの様子はいかがでした?」

「優秀なやつはいくらでもいます。ですが、晴人君はとても人望の厚い人でした。同僚から後輩まで、彼を慕い頼っていましたから…」


 家庭では見せない晴人の人物像。塚本は、訳がわからない、と言うようにボールペンでこめかみをかく。


「では、晴人さんは職場でトラブルがあったとか、恨みをもたれるようなことは何もなかったと言うことです?」

「想像もつきません。むしろ、何かトラブルや揉め事があれば、積極的に仲裁に入ってくれるほどでしたから。」

「晴人さんと、特に仲の良かった職員はいました?」

「満遍なく付き合いしているような様子はありましたけど…、強いて言えば、中村くんですかね。中村隆介と言います。」


 中村隆介、という職員は、晴人とは同期入社で、年齢も同じだと言う。


「その、中村さんと言う人に話を聞くことはできますか?」

「今、彼は外回りに出てますけど…、15時には帰ってくるかと思います。」

「わかりました。では、その時にまたお話を聞きにきます。中村さんにも、そうお伝えしてもらえますか?」

「ええ、伝えておきます。…晴人くんを殺した犯人を、どうか捕まえて下さい、お願いします。」


 上司はそう言って頭を下げ、塚本と平端も一礼し、一先ず会社を後にした。

 車に戻った2人は、一先ず署に戻り、情報整理をすることにした。道中、塚本ははぁ、とため息をつく。


「仕事中の顔と家庭での顔はまるで別人だな。」

「これもよくある話ですよ。外面がいい人が、実は家庭内では横暴な人だとか。上司の話を聞いてると、体面を守るためにいい人を演じて、疲れてストレスを溜めて帰ると弥生さんに暴力を奮って解消してたんじゃないですか?」

「まぁ、家庭内で暴力振るってますって外で言うわけもないしな。何にしても、15時までは会社からは情報も得られん。女相と児相に当たった奴らと情報をすり合わせるぞ。」


 署に戻ると、女相と児相にそれぞれ当たっていた刑事たちと落ち合い、情報共有を始めた。ただ、それぞれの刑事たちから受ける報告は、学校で得られた証言を裏付けるものばかりで、進展はほとんどなかった。


「ひとまず、被害者のDVがあったと言うことは裏付けられた。だが、妻の弥生は被害者の出勤を見送ってから、死体発見まで接触している形跡はなし。子どもを連れて買い物に行っていたというアリバイも、ショッピングモールの監視カメラから裏が取れた。重要参考人には違いないが、容疑者の線からは外していいだろう。」

「と、なると残る謎は、被害者を殺した犯人は誰かってことと、何で現場が荒らされてたのか、の二つですね。まぁこれだけみたら、空き巣を狙った人間が、早めに帰ってきた被害者と鉢合わせて殺したって線もありますけど…。後ろから刺されてるしなぁ…」


 あー、謎ばっか。と弱音を漏らす平端に、塚本は檄を飛ばす。


「しっかりしろ、まだ話が聞けそうなやつがいるんだ、こんなとこで弱音はいてんじゃねぇよ。」

「あ、塚本刑事、今戻りました。」


 女性相談所に当たっていた1人の刑事が、塚本たちのいる会議室に入ってきた。


「おう、ご苦労だったな。なんか情報はあったか。」

「それが、妻本人からの相談はなかったそうなんですが、ある男性が何度か電話で、同僚の奥さんが暴力を受けていると連絡があったそうです。来所して訴えようともしてたそうなんですが、何せ女性相談所なんで、出入り口で職員に止められて断念するということもあったそうです。」

「同僚??名前は??」

「フルネームは名乗らなかったそうなので、名字しか分かりませんが…、ナカムラと名乗っていたそうです。珍しい苗字でもないので、偽名の可能性も…!?」

「中村??中村って言った???」


 報告していた刑事は、平端の食いつきぶりに面くらい、思わず後退りしていた。塚本も平端ほどではないが、妙な符号に表情を変える。


「え、えぇ…、でも、女性相談所で対応したのはほとんど電話ですし、男性ということしか…」

「でも、相談所に来て職員に止められたこともあるんでしょ!?その人物の特徴は!?」


 刑事は平端の食いつきに押されながらも、職員が覚えている限りでは、という前提をつけ、特徴を話し始めた。見た目は30代半ば、身長は170センチ後半ほどで、メガネをかけていたとのこと。


「塚本先輩、そろそろ15時です、行きましょう!」

「お、おい待て!特徴くらい覚書させろ!」


 平端は、先ほどまで弱気だった様子がなかったかのように活発さを取り戻し、会議室を飛び出していった。

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