2025年5月9日(金曜日) 16時58分
「内容が? かわる?」
焦る気持ちが収まらない。齋藤は、白の書がまさに異変を起こしたその瞬間を読んでた?
「あぁ、隣国のお姫様との婚姻の件でさ、俺の記憶だとそのまま互いの国との盟約通り婚姻を結んで、ストーリーが続くはずだったのにさぁ、……今回読んだら、リディアス王子が物語から出ようとするんだよ。それでさ、王子が抜け出ようとした世界がまるでこっちの世界そのものでさ、バカみたいだろ? やっぱり俺寝惚けてたんかなぁーだから不思議でさ、もう一回ちゃんと読みたいと思ってさ」
心臓がうるさいくらいに鼓動してる。もう隠しきれてる自信はない。確かに齋藤は、リディアス王子がまさに白の書から抜け出る瞬間を知ってる──!
「リディアス王子がどうなったか、お前そこまで読んだのか」
「あぁ、俺が読んだのは世界の狭間でリディアス王子がしくじって異世界に飛ばされるところまで、でも、結局最後は死んじゃうんだからさぁ、そこは虚しい結末だよなぁ」
「お、おい! 死ぬって、死ぬってリディアス王子が!?」
気付けば、齋藤に食ってかかる勢いで肩を掴んで揺らしていた。齋藤が目を剥いて、驚きのあまりに固まってる。
「ちょ、ま、待てよ……。な、なんだよ、杵島、ちょっと、おかしいぞ……」
「わ、悪い……。なんかこの本だけは妙に続きが気になって……」
「な、なんかあるのか? 変だよな、でも……前とはまったく内容変わってんだもんな」
齋藤も少なからず異変には気付いてる。これ以上、話をしていいのか、齋藤自身も戸惑ってるみたいだった。
「リディアス王子は、死ぬ……のか……?」
もう完全に、冷静ではいられなかった。死ぬのなら、どのタイミングで?
だって、確かにアイツは生きた姿で俺とシルヴィアを助けた。きっとなにかの間違いだ。
「異世界に飛ばされる前に、身体ごと砕かれて死んでるよ。白の書自体、確か、臣下の裏切りでリディアス王子の最期で終わってるはずだし、悲劇の王子みたいなイメージしか俺にはない。……俺が読んだのはここまでだけど……」
段々と齋藤の声がちいさく尻窄みになっていくのは、きっと俺の顔が顔面蒼白のまま固まっているからだ。
「だ、大丈夫か……杵島……?」
リディアス王子が、死んでる?
どういうことだ? もし、もしそれが本当だとしたら、こんなの、こんなことをシルヴィアが聞いたら……。
絶対に、悲しむ……だろ……。
聞かせられない。シルヴィアだけには。不意に声が頭のなかによみがえる。
“彼女はまだ真実を知らない。彼女ひとりだけじゃ、乗り越えられないんだ”
「こういう……ことかよ…」