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μεταξύ ζωής και θανάτου ─生と死─

 



 真っ白な蝶々が一羽、目の前を飛んでいく。自由に、どこまでも、自らの羽根で──


 文字がすごい速さでわたしの横を通り過ぎていく。たくさんの羅列している文書が、色付きの景色となって時々浮かび上がっては消え、どこからともなく声が飛び交う。




 ──姫様!



 あぁ、とても懐かしい……。


 優しく、わたしを(さと)す声。あれは、わたしの侍女の声だ。




 ──姫様。背中を反らせすぎぬよう。




 凛とした厳しい声音。これは、わたしの弓の師。




 ──シルヴィア。



 あぁ、父上の声もする。




 ──姫様! ──姫様!



 ──いい? シルヴィア。



 民の呼び声、遠く記憶に甦る懐かしい母上の声。幾重にも重なるわたしを呼ぶ声。そのなかで、わたしという存在がより確かなものとして創造(つく)られていく。




「シルヴィア姫」




 石畳を叩く靴音が、わたしの背後で止まった。振り返ると、そこには片膝をついて頭を垂れる甲冑を身にまとう騎士たちの姿。



「国の為、姫様の為にこの命、いついかなる時も捧げる覚悟。どうか、祝福を」



 鋼の鎧が、朝日を浴びて黄金に輝いて、眩しくて目を細めた。



「あなた方はこの国の誇りです。守護竜の導きの元、必ずや無事の帰還を」



 わたしが彼等に捧げる祝福は、祈りの歌。彼等を加護する慈悲の唄。窓の外から見える街並みは朝靄(あさもや)で白んでいて、昇る太陽の金色の光が波のように広がっていく。


 見える景色があまりに荘厳(そうごん)で、それを(にな)う彼等はもうすでに……この世の者ではない気配がした。




「姫様、朗報です。先日の部隊は半数以上が凱旋いたします。あの戦地のなかこれだけの人数が生き残れたのは、これも姫様の祝福のお力」



「……そう、ですか。すぐに迎えの準備を」




 礼拝堂で祈りの為、組んでいた指を解く。……指先の震えが、止まらない。


 わたしの祈りの力で守れる命など……守護竜の力を借りても尚、犠牲は尽きず、いくら彼等の魂が、神の国へ導かれたのだと(たた)えられたとしても、ずっと、わたしには聴こえていた。


 彼等の血が大地に流れる音が、命の灯火が消える最期の詩歌(しいか)が。



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