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そして、物語は読み進まれる。

 ◇ ◇ ◇




「あの子でしょ、ちょっと前に病院の前で倒れてたって子」



 開いた窓から、夜風に運ばれて桃色の花弁が舞い込んだ。


 白いシーツが敷かれたベッドの上から、四角く切り取られた景色を見上げる。どうやら、カラスが一羽、また増えた。



「そうそう、記憶喪失の男の子。若いのになにかの事件かしら」



「左腕に大怪我をして、全身ボロボロでね、不思議な格好をしてたみたいなのよ。まるで中世ヨーロッパの王子様みたいな」



「王子? そう言えば、あの男の子、自分は異世界の王子だって言ってたわね」


「可哀想に、余程怖い目にでもあったのかしら、でも、確かに王子様って風貌よね」


「そうそう! 礼儀正しいし、とても綺麗な顔をして、あの子が言うには、私は姫の元へ行かなければならない、ってそう言ってるのよ。あんな綺麗な顔をした子に姫だなんて、一度でもいいから言われてみたいわ」




 ──あぁ、そうだ。私は姫の元へ行かなければ。



 強がりだが、泣き虫の姫だ。もうひとりで泣かせられない。


 ベッドから起き上がろうとして、床に滑り落ちた。これで何度目なのか。白い服に身を包んだ女性に馴れた手付きで身体を支えられる。



「さぁ、"王子様"、まだ腕の傷が疼きますでしょう? 今日はもうこのままお休みしましょう」



 女性の声の後ろで、不気味なカラスの鳴き声が聴こえる。いつ聴いても不快な声に、頭が朦朧として、徐々に身体中の力が失われていく。



 (あらが)えない、闇の力が徐々に増している。意識が遠のく前に、風に揺れるカーテンの隙間から、まあるい光が見えた。私達の世界にはない、夜を照らす希望の光。


 数日前に見た金糸の髪をした少女の姿が、幻の様に見えた。




「行か、なければ......」




 意識が闇に沈んでいく。



 ──また、唄が聴こえる。


 花の香りに運ばれて優しい歌声が耳にとどく。祝福と歓喜の唄。だが、いまは泣いているような哀しい唄だ。


 はやく、姫を迎えに......私達の世界に帰らなければ。




 いつか誓った想いに胸が焦がれる。


 私が仕えるのは唯一彼女ひとりだけ。この命尽き果てるまで、私は姫の盾となり剣となり続けよう。





 ◇ ◇ ◇

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