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この病の名前は

 




「ユート、お前というヤツは、アホなのか。それとも、生粋のバカなのか」



 夕食を食べ終え、部屋で着替えをしていると、ジークフリートが人の姿に戻り次第、開口一番にそう告げた。



「アホとはなんだ、ついでにバカでもない」



 肩の傷は驚くほどに回復していた。傷口はほとんど塞がっていて、腕を動かす時にまだ違和感はあるけれど、まさかここまで回復するなんて、シルヴィアとレティシアのお陰だ。



「ミー」


「おぉ、ファフニールもありがとな」



 ファフニールはずっと俺からベッタリで、ちいさな体で着替えを引っ張ってきてくれたり、ファフニールなりに俺の体を心配して労ってくれてるらしい。着替えが終わる頃には疲れ果てて布団の上で丸くなって寝ていた。



「シルヴィア姫は、この四日間、ほとんど寝ずにお前に付き添って、怪我の治癒に力を注いでいたんだぞ」


「あぁ、なんか......自分を責めてる感じ、だったな......でも、あの状況じゃ他に方法がなかったんだ」


「シルヴィア姫をその身をていして守ったらしいからな。誰かが犠牲になるなんて、シルヴィア姫からしたら辛いことだろう」


「けど、俺にはこれくらいしかできない。守ろうとしてくれてたのは、いつもシルヴィアの方だ」



 ジークフリートが怪訝そうに眉をしかめた。



「ユート、いまだにそんな事を言っているのか。お前のその度を超したお人好しの自己犠牲は誰の為なんだ。そもそも、王子の存在なんぞ、伝えなければよかったんだ。すべてお前の手柄にしてしまえばよかったじゃないか。バカ正直に話して、シルヴィア姫はいまこの時も、姿も現さない愚かな王子の事を考えている」


「俺だって王子(アイツ)に助けてもらったんだ。それに、シルヴィアが王子の事をあれ程探しているのに、黙ってられるわけないだろ」



 ジークフリートは額に手をあて飽々した様子で溜め息を落とした。片膝をついて俺の顔を覗き込む、その鳶色の瞳は、心底俺を気遣うものだった。



「ユート、欲しいと言わなければ、何も手には入らない。指を加えて、横からシルヴィア姫を持っていかれて、それでお前は本当にいいのか」


「持ってかれてって......、シルヴィアが望んでいる事の方が大事だろ」


「そんなことはお前の本音じゃない! ただの綺麗事だ。王子探しなんて、辞めてしまえばいいじゃないか。お前は悪戯に自分を傷付けているだけなんだぞ」


「悪戯にって......」



 ジークフリートの強い眼光を受け、その先は口にできなかった。



 ──ただ必死だっただけなんだ。俺は、ただ。


 なんだか、肩の力が抜ける。


 気の抜けた笑みがもれる。まさかジークフリートに説教を喰らうとは思いもしなかった。しかし、反論もできない。そもそもこういう話は、ジークフリートの方が上手だ。



「ジークフリート、俺は、誰かを好きになった事なんていままでなかったんだ。だから、この気持ちが恋なのか、従者の誓いのせいなのか、ましてやこっちの世界での保護者としての責任感からなのか......それすら俺にはよくわからない」


「......あぁ、そうだったな。私もいきなりすまなかった。ユートが目覚めたばかりだと言うのに。だが、お前とシルヴィア姫を見ていると、なんだか口を挟まずにいられなかった」


「いや、いいさ。それより、俺はお前とこんな話が出来て嬉しい。本音は、あそこで死んだと思っていたからな。......シルヴィアの顔をまた見れた時は、夢かと思った」



 視線を落とした先のふかふかの布団を見て、慌てふためくシルヴィアの真っ赤になった顔が思い浮かぶ。思わず、クスッと笑い声をこぼすと、傍らのジークフリートが「......これは、本当にダメだな」と、呆れた声を漏らすのが聞こえた。



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