真木 凛花
「ミー」
腕のなかの黒猫が鳴いた。さすがに腹が減ったのか、目を覚ましたみたいだった。
俺も確かに腹が減った。気付けば朝メシ以降なにも食ってない。シルヴィアたちは日中、無一文だと知ったロリータ女子が哀れに思ってご馳走してくれたらしい。
どうやらジェイドの姿が数年前に他界した飼い猫にソックリで他人事と思えなかったと。優しい人もいるもんだ。
不意に自転車が急停止する音が人気の無い路地に響いた。
「あ、優都! ラフィル王国のお姫様は見付かった?」
唐突に声を掛けられて慌ててあたりを見回す。って、なんでシルヴィアのこと知ってんだよ!
振り返った先に自転車にまたがる見知った姿があった。
潔く切り揃えられたショートボブ。はっきりした目鼻立ちに勝ち気な瞳がこっちを不思議そうにみてる。
「凛花!」
「お! お姫様見付かったっぽいね、良かった良かった」
相変わらず制服のスカートの下には体操着を着用した色気の無い格好のまま自転車から下りた凛花は、自転車を引いてシルヴィアの近くまで来るとシルヴィアに「どもども!」と軽いノリで会釈した。
「優都もインターハイ近いんだからさぁ、練習ちゃんと来なよね」
「あ、あぁ……。って、お前、なんでシルヴィアのこと知ってんだよ!」
凛花は同じクラスメイトでしかも同じ剣道部だ。気が強い上に男勝りで、男より男らしい。
「はぁ!? 優都が自分で言ってたじゃん、別の世界から来た猫ちゃんとお姫様でしょ?」
さも当然のように凛花は肩をすくめた。心無しか気後れしているシルヴィアに気づいて、「あ、ごめんね。私、真木 凛花」と自己紹介をはじめた。
凛花の話によると俺が昼間誰彼構わずに声を掛けていた時に、凛花にも声を掛けていたらしい。シルヴィアの特徴やら、どうやってこっちに来ただとか、ペラペラ喋り尽くしていたらしい。
疲労困憊のピークに達していたとはいえ。
──マジで俺、消えてなくなりたい。
「大丈夫! 大丈夫! さすがに優都も人を選んで言ってたから! 私が詳しく色々と聞いたから教えてくれただけだし」
凛花は勢いよくバシバシと俺の背中を叩き終わると「んで?」と、次いでシルヴィアに抱かれたジェイドの顔を覗き込んだ。
「アララ、綺麗な竜ね。はじめて見る竜だ」




