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血の契約

 



「ジェイド様はこちらに渡るのをとても楽しみにおりましたから、本来ならば王子様を探してこちらに渡るのは王の騎士団をというお父様からのご命令だったのですが、人数も多いうえにこちらに渡るには王族の血統のものでないと渡ることができないようで」



 ──王族やら血統やら、一般庶民の俺には程遠い言葉だ。それに騎士団って、この現代に騎士団派遣って。



「その王の騎士団って、どれくらいの人数でこっちにこようとしたんだ」


「選りすぐりの騎士をそれぞれの国から合わせて150人程集めておいででした。さすがに多すぎて……」


「150!?」



 ぶ、と思わず吹き出してしまった。それはそれで見てみたかった気もするが、ここで騎士団と黒の魔女の全面戦争なんて勃発した日には迷惑極まりない話しだ。

 まぁ、ジェイドの魔法もなかなか派手だけど。




「守護竜は血の契約により国の領土以外には出られないのです。毎日とても退屈そうでしたから」



 ──なので、本当はジェイド様におねだりされたのですよ。


 と、小声でシルヴィアが教えてくれた。王子を誰が探しに行くのか、ともはどうするのか、毎日シルヴィアの国と王子の国で話し合いがなされて、その度にジェイドが異世界の"うどん"の話を意味ありげに話していたそうだ。


 よりによって"うどん"って。



 それほどまでに食いたかったのか。




 そもそも会議だけで2ヶ月続いた挙げ句、その前に王子探しに3ヶ月の時間を有していた為に、待ちきれなくなったシルヴィアがひとりで勝手に異世界に渡る決意を固めたらしい。



「じゃあ、王様も誰もシルヴィアがこっちにいるって知らないで来たってことか!?」


「はい。深夜、コッソリ部屋を抜け出して参りました。あ、置き手紙は書いて来ましたので、大丈夫なはずです。必ず戻ります、と」


「そんな家出娘のような……」



 自重してくれ、と言いたい。曲がりなりにも一国のお姫様が、手紙一枚で家出なんて。


 意外とお転婆というか、やっぱり肝が座っている。




「ですが、異世界の書には強い結界が張られていたので私の(つたな)い魔力ではうち破れず、困っていたらジェイド様が助けて下さったのです。"必ずワシも連れて行け"と」



 シルヴィアがまた笑った。不思議とシルヴィアが笑うとこっちまで自然と笑顔になる。心地好い声音もなにかの唄を聴いてるようで、ずっと聴いていたい気持ちになった。



「異世界の書を毎日毎日来る日も見張っていたようです。誰かが来たら必ず一緒に連れて行ってもらうつもりだったようですよ。竜だけで渡れないか、毎日試行錯誤していたそうですが、世界を渡るには本を創造した"人"の手が不可欠のようでしたので、ガッカリされていたようです」



 なんか、こちらに渡ってきた時のジェイドのハイテンションの意味がわかった気がする。待ち望んでいた夢の世界に来れる、ってなればそりゃあはしゃぎたい気持ちにもなるか。



 夢の世界というより、うどんの世界か?




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