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竜の気質

 




「本当に竜だったのか」




 ──"翠龍(すいりゅう)神社"。



 いままでなんとなく見過ごしてきた鳥居の文字を見あげて、なんとも不思議な感覚になった。なんだかよくわからないが、もう一度境内でお参りをしてみんなでそろって頭を下げてきた。


 ジェイド曰く、こちらの竜はジェイドの世界の竜とは色々と違うらしい。



「竜は気高く孤高なんじゃ。弱い個体は見捨てるのが習わしじゃ、弱いまま生きておってもその者自身の誇りを穢すだけじゃからの」


「ジェイド様にとっては驚きの連続ですね」


「そうじゃ! ワシは王国と血の契約を成しておるから姫様や王族の為には力を使うのが血の運命(さだめ)じゃが。あの竜はなんの契約もしておらんかった。花や、か弱き生き物の為に尊い竜の力を使うなんぞ、ワシには到底理解できぬ」



 黒猫は疲れて俺の腕のなかで眠ってしまった。ジェイドは珍しくシルヴィアに大人しく抱っこされている。


 ジェイドもかなり魔力を抑えるのに力を使って疲れてるらしい。さっきまで賑やかに喋っていたかと思うと、いつの間にかシルヴィアの腕のなかで眠っていた。



「優都様、ジェイド様の魔力の消耗が思ったよりも激しいようです」



 シルヴィアがさっきまでの明るい声を幾分と落として呟いた。その瑠璃色の瞳が心配そうに揺れている。



「どこかで安全に休めたら良いのですが」



 ジェイドは普段、シルヴィアと一緒にいる時はいついかなる時も魔力抑制に力を使っているらしい。さっきまでギャーギャー騒いで、今日だってテーマパークを充分満喫した上に、猫好きの人にチキンレッグの丸焼きを奢らせてきたと聞いた。


 けれど、シルヴィアに寄り添って眠るジェイドは、寝息さえ静かだ。心無しか昨日より少しだけちいさく見えた。



 ──って、なんだよ、インチキ中二病猫。


 人のことをポンコツ呼ばわりしといて、弱ってんじゃねぇよ。小突き回したい気持ちにかられるが、確かにジェイドの姿は疲れてるように見えた。



「帰ったらかき揚げ入りのうどんを作ってやるつもりだったんだけど、今日は無理か」



 ポツリと呟くとジェイドの耳がピクッと動いた。



「うどん……」と呟いて寝惚けるジェイドがコテ、と寝返りを打った。ジェイドのω型の口が緩んでヨダレが垂れている。



「元気、そうだな」


「はい……」



 相変わらずマイペースなジェイドを見て、シルヴィアとふたりで苦笑いした。




 ◇ ◇ ◇



 街灯が路地を照らす。もうそこそこの時間だ。帰ったらかき揚げてんこ盛りの大盛りうどんパーティーにしてやろう。


 シルヴィアとふたりで各々抱えた黒猫とジェイドの寝息を聞きながら路地を歩く。



「さっきさ、ジェイドが言ってた血の契約って、」


「えぇ、我が国は竜と契約を結び、もう千年になります」


「千年!? じゃあ、ジェイドは何歳なんだ」


「ジェイド様は正式には二代目の守護竜ですので、六百歳を越えたあたりでしょうか」


「六百!?」



「竜のなかでもかなりのご長寿です。血の契約は我が王国の始祖たるラフィリア様が結びました。代々我々の世界の王族たちは竜と血の契約を結んで国の安全を守り、繁栄してきたのです」



 少しうつむくシルヴィアの横顔が街灯の光に照らされる。横に並んだシルヴィアは俺より頭ひとつ分はちいさい。女の子とこうして接する機会もあまり無いのだが、やっぱりシルヴィアは同じ年代のやつらとはなにかが違った。


 時々、シルヴィアは眩しそうに街灯を眺めると感嘆の吐息を溢す。シルヴィアにとっては夜を照らす街灯の光さえ「星の魔法」なのだそうだ。



「じゃあ、他の国にもジェイドみたいな竜がそれぞれいるってこと?」


「はい、隣国、王子様のグロウディス王国には虹色の光りを放つ鱗を持った竜がおります。海と隣接している国なので、水竜として力を発揮しておいでです。ジェイド様も本来は白銀のそれはそれは美しい姿をしておいでなのですよ。麗しき月光の竜と国中でも讃えられ、世界中の詩人に唄われているのです」


「ほほう……」



 ジェイドの無防備に放り出された肉球をぷにぷにしてやる。



「いうに名高い月光の竜様もいまやこの様な姿に──」



 そう言って俺がからかうと「ふふふ」とシルヴィアの桃色の唇から堪えきれない笑い声がこぼれおちた。




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