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神域の結界

 




 ──結界?


 言った張本人のシルヴィアでさえ呆然とあたりを見回している。ジェイドは未だ固まったまま身動きひとつしない。



「とても暖かい」



 シルヴィアが呟いたと同時に、雲の間から光が漏れた。


 近づく黒の魔女と俺達を(へだ)てるように光りは射し込む。黒の魔女の大鷲が光にあたるのを恐れてひときわ大きな声で鳴いた。


 黒の魔女の鈴の音も待たずに、急降下して道を()れていく。



 "奇跡じゃ"



 まぎれもないジェイドの声が頭に響いた。しばらくすると光は弱まって、あたりはふたたび日暮れへと姿をかえた。


 風はやんだ。



「な、なんだったんだ……」



 放心状態のままシルヴィアと立ち上がる。ジェイドが尻尾を立ててこちらに歩いて来た。




「ここは神域ではないかの。この土地は守られておる」


「神域……守られてって、あの神社のことか?」




 ジェイドは鼻を高く上げて周辺の様子を探っているようだった。



「この土地の竜じゃ、若い竜じゃが」



 ふいに、先程聞こえた少年の声が思い浮かんだ。まさか。



「騒がせて悪かったの」



 ジェイドが空に向けて言うと、まるで答えるように風がタンポポの花を優しく撫ぜた。ジェイドの緑色の瞳がこちらに向く。まんまるのその瞳は不思議そうに俺の目を見つめた。




「この花を、花が好きな人間を守りたかったのだそうじゃ」


「じゃあ、シルヴィアがこの花を好きだって言ったからか!」



 この土地の竜が守ってくれたって、驚きのあまりシルヴィアに視線を向けると、シルヴィアは静かに首を横にふった。



「優都様はこちらに何度も足を運ばれていたのではないのですか?」



 魔女の放った強風で倒れたタンポポの花を元通りに直しながらシルヴィアは呟いた。



「あ、あぁ、そうだな。この時期はとくに。なんか落ち着くんだよな」



 落ち込んだ時、ひとりで考え事をしたくなったら、よくここに来ていた。静かで人気が無いからかやけに落ち着く。



「竜はあなたのことを守りたいと言っているようでした」



 シルヴィアがこちらを見て微笑んだ。思いもよらない言葉に呆けていると、シルヴィアは満面の笑みだけをくれた。



 時折、風が吹いて、爽やかなその風を感じるたびになぜか胸が少しだけ熱くなった。



 ふと頭によみがえるシルヴィアたちと出逢う前の日常。


 ついこの前のことなのに、いまはまるで遠い昔のように感じる。変わらない日常に飽き飽きして、押し込められた空間に窒息しそうだった毎日に。そんな自分自身にも嫌気がさして、いま思えばなにかを取り戻したくて俺はここに来ていたのかもしれない。



 風がまた一筋吹いた。それは今までのなかで一番あたたかくて優しい風だった。




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