青空リゾートランドパークへ
「いやいやいや! これだけ人目についてたら王子様探すどころか、黒の魔女とかいうやつにすぐに見付かっちまうだろ」
またあんなドラゴン出された日には次は本気で命を落としかねない。いまや仔猫だけど、黒猫のドラゴンだった時の力は並みの人間に太刀打ちできるようなものじゃない。
いまはジェイドの魔法だって使えないってのに。
「そもそも、お前の魔力は底ついてんだろ!?」
「ウム、カッスカスじゃぞ」
ジェイドの場違いな程のドヤ顔が、怒る気すら失せさせる。
だからドヤるな。
ガクリと膝から力が抜けた。
「目立ち過ぎて直ぐに見つかるだろ」
「んにゃ? そーかのぉ?」
ジェイドが俺の後ろに視線をむけた。なんだ? 女の子の集団の笑い声がきこえるが。
ジェイドにならい視線を向けた先には、黒猫を抱っこしたシルヴィア……と、フリフリのドレスを着た沢山の女子たち。
ピンクや白、赤などのカラフルなワンピースにふんだんにあしらわれたレースにフリル。そしてリボン付きのカチューシャ。
日傘までフリルいっぱいな、まるでそこのエリアだけが童話の世界みたいだった。
「あ、あ……」
「みな、あのクルマのヌシの方に向かっておるぞ!」
「急ぐのじゃ!」とジェイドは俺の手をすり抜けてバスの方に駆けて行った。その軽い足取りと遠ざかるしっぽが心無しかルンルンに見えるのは気のせいだと思いたい。
バスの行き先番には、"青空リゾートランドパーク"。
あぁ、今日は近くのテーマパークのイベントの日だったのか……。
そういえば週末になると様々なコスプレをした人や全身黒装束の人たちが一斉に集まっていたりしたのを思い出した。国内でも結構有名な巨大テーマパークだから、イベントやコンサートがある度に色々な人が集まって来る。
ロリータファッションの娘たちがバスに次々と乗り込んで行く。こうして見るとシルヴィアのドレス姿や日本人離れした容姿もさして珍しくないように思えた。
なんか黒の魔女が未だに王子を見付けられない理由……なんとなくわかった気がする。シルヴィアが女子の集団にのまれてバスに乗り込むのが見えた。あぁ、完全に同類だと思われている。
って! バスの乗り方わからないだろ! 猫もバスには乗れないんだよ!
慌ててあとを追う。が、俺がとやかく脳内で問答しているうちにバスは乗客を乗せ終え、エンジンを吹かした。
「ま、待ってくれ!」
サーッと顔から血の気がひいていくのがわかった。
バスの後部ガラスにシルヴィアの姿が見えた。シルヴィアも困った様子であわてて窓を叩いている。その傍らには──笑い転げるジェイドの姿。黒猫も相変わらずシルヴィアの腕のなかでぬいぐるみのように脱力している。
ってか、お前らは乗っちゃダメだろ!!
場違いな規範意識が沸き起こる。なんで運転手止めないんだよ! と半ば八つ当たりの感情が芽生えた。
けれどハタ、と冷静に見てみると、シルヴィアの両サイドには同じように猫のぬいぐるみを抱っこしたロリータの女子たち。
今日のイベントのマスコットキャラなのか、黒猫のぬいぐるみをみんな同じように抱えている。
嘘だろ。
無情にも、バスは走り出した。