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瑠璃色の瞳

 





「だから私は、王子様を想うこの心だけを持って、こちらに渡って参りました」




 王子様、とその唇がつむぐたびに、シルヴィアの瑠璃色の瞳が穏やかな色を浮かべる。愛しい人を想うシルヴィアの目がひときわ優しく細められる。



 ──……なんだ、この違和感。彼女からじゃない。自分自身に感じる。




「会えば、一目お逢いできさえすれば、きっと私には王子様だとわかるはずなのです」



 言葉を続ける彼女の瞳が一瞬揺れたのがわかった。……わかってしまった。


 あぁ、不安なんだな、って。そりゃあ、そうだよな。


 端から見たら十代の世間知らずの小娘ひとりと、同じく世間ズレしたただの騒しい猫一匹。異世界まで渡って来るって相当の覚悟がなきゃ来れないよな。


 ここまで必死になるお姫様の記憶を奪うって、世界の理ってやつは本当に残酷なヤツとしか言い様がない。




「……これ、そっちの世界にあるのか知らないけど」



 深刻な顔をして眉を寄せるシルヴィアの口に、飴玉をひとつ放り込んだ。


 ピンク色のざらめがふんだんにあしらわれた大きな飴玉を、口のなかいっぱいに頬張って、シルヴィアは驚いて口元に手をあてた。


「あ、噛まないで! 口のなかで舐めて溶かして」顎を痛めないよう俺が言うと、シルヴィアはしばらく飴玉を舌の上で転がしたあと、嬉しそうに笑みを溢した。



「おぃしいれふ!」



 その笑顔たるや、部屋全体に光が灯るような満開の笑み。飴玉ひとつで歓喜の声を上げるシルヴィアはやっぱり天使みたいだった。


 俺は甘いものが苦手なのに、いつも親切で管理人さんがくれる飴玉。捨てる訳にもいかず、管理人さんがくれる度に食べないで取っておいた大量の飴玉が、こんな時に役にたった。




「ひゅう、とさま! ひゃりひゃひょ? ん?」



 あまりに大きな飴玉だったから、シルヴィアがなにか言うと変な言葉になって、それを真顔でシルヴィアが困ったようにするから思わずジェイドと笑ってしまった。


 つられてシルヴィアも口元に手を当てて笑い転げている。世界が鮮やかに色付くような笑い声だった。



 ──お主、なかなかやるのぉ。魔法は使えぬとも、お主のその力は認めてやろう。姫様がこのように楽しそうに笑っておるのは久方ぶりじゃぞ。



 ジェイドの声で直接頭に響いてきた。ジェイドの魔法かもしれない。



「飴玉くらいならいくらでもくれてやるさ」



 ──こんな笑顔見れるなら。




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