この世界の魔力は消耗品です
「にゃん?」
ジェイドが小首を傾げる。まんまるの無垢な瞳が、いままでの悪魔の所業を嘘のように書き消す。
──魔力って消耗品なのか?
いやいや、だって魔力が無いなら魔界王ジェイド様はただのインチキ中二病猫に逆戻りだぞ。いや、口が悪い分、普通の猫以下だ。
まさか、まさか、そんなはずは──
ジェイドはしばらく宙を見てなにごとか考えこむと、
「まりょく、魔力……そうじゃった! にゃははは! ホントじゃのう、底をつきおったわ!」
にゃははは、と愉快爽快に文字通り腹を抱えて笑い転げた。
「ちょ、おい! あんなドラゴンまだ他にもいるのかよ!? そしたらヤバいだろ!!」
あんなヤツがまだ他にもウヨウヨいると思っただけでもゾッとする。
「先程の竜は黒の魔女が召還した使い魔です。黒の魔女も力を消耗しているはずですから、しばらくは使い魔は現れないでしょう。なんとしてでも黒の魔女よりも先に王子様を見付けださねば、けれど……」
シルヴィアが手に持った弓が光の粒になって淡く溶けて消えた。緑色に光る粒は、昔見たホタルを思い出した。
「……弓も……」
──ジェイドの魔法だったのか。
「ジェイド様の力こそが、黒の魔女に対抗できうる唯一の力だったのですが……」
腕のなかにいた元ドラゴンの黒仔猫が身をよじる。落ちそうになるから地面に降ろしてやると、ちいさな足でテトテトとシルヴィアの足元に歩いていった。シルヴィアの金色の髪が力無く風になびいている。
泣きたいのは訳もわからないまま巻き込まれたこっちの方だと言いたいけど、こうも悲壮感を顕にするシルヴィアの様子を前にしたら、もはやなにも言えはしない。
ふぅ、とため息をひとつ落とす。
「ようは王子様を探して連れて帰ればいいんだろ? 黒の魔女とやらに見付からないように。ってか、なんで王子様はわざわざこっちの世界に来たんだ。さっきのドラゴンに追われて来たとか?」
ふるふるとシルヴィアが頭を左右にふった。うつむいて垂れ下がった前髪で表情は見えないけど、ポツリ、ポツリとシルヴィアは言葉を紡いだ。
「おそらく王子様はこの世界のどこかにあるという竜の御珠を探しにこちらに渡ったのだと思います」
「竜の御珠?」
問い掛けに答えたのは、ジェイドだった。
「この異世界には竜の御珠が隠されているという伝承があっての、異世界からその宝を持ち帰れば世界に永遠の安寧がおとずれる、そんな言い伝えなんじゃよ」
「黒の魔女にとっても竜の御珠の力は脅威です。王子様が竜の御珠を手に入れるのをなんとしても阻止したいのでしょう」
竜の御珠なんて言っちゃ悪いが、見たことも聞いたこともない。しかも世界に安寧を、だとかなんとかの壮大な効果があるのなら、こっちの世界に戦争や争い事なんて起きてないはずだ。
……夢見た異世界がこの世界なら残念だったとしか言い様がない。