59話 本
商業ギルドを出て、クリスさんに抱きしめられる。
目をつぶる。
転移魔法だ。
そして、王都の魔道具屋の前ですね。
門番もいます。
中に入ると店のご主人がゆっくりと上品に駆け寄ってきました。
挨拶をして中村君を呼んでもらいます。
しばらくすると、中村君がパタパタ走ってきます。
おお、中村君!
久しぶりです。
「中村君、本の取り寄せが出来るようになったよー」
「マジか?」
「マジで」
「うぉぉぉ! 本をくれ!」
「ここでは駄目だよ、ここお店だもん、どっか行こうよ」
「それでしたら、こちらへどうぞ」
ご主人に奥の部屋を勧められます。
クリスさんにいいのかな? とアイコンタクト。
ニッコリ笑われます。
良さそうですね、ご主人について行きます。
奥の部屋に来て、中村君とご主人が並んでソファーに座り、反対側にクリスさんと私が座ります。
「オープン」
チェーン店の書店の映像が出ます。
「おお、漫画の週刊誌。だけど、ちょっと進んでるようだな、俺があっちで読んでたのはこれの2号前だったかな、毎回高梨に買ってもらう訳にもいかないし、俺、単行本から攻めるわ、それと異世界転移もののラノベも欲しい」
「今、異世界転移してるじゃない?」
「それとこれとは話が別、欲しくなるんだよ」
「そんなものかな」
「とりあえずあっちで集めていた漫画を買うかな。金はどうすればいい?」
「金貨1枚で一万円分買えるよ」
「そうか、なら、金貨3枚でいいか? 渡すぜ」
「はいよー」
金貨3枚受け取り、物々交換として入金しておく。
「これと、これと、これ、あとこれを全巻……」
思った以上に買いますね。
中村君は、オタクだったし、仕方ないですよね。
オタクから本を取ったらなんにも残らないですしね。
ああ、知識だけはあるか。
まぁ、陰キャの私もある意味同類ですしね。
中村君の趣味を否定しません。
終わったようです。
中村君は腰に付けたオモチャみたいなポーチに次々に本を入れていきます。
「それ、便利そうだね」
「ああ、高梨に会ったあとに作ったんだ、なにかあったとき便利だからな」
「ふぅん、佐藤君に言っておいたよ。中村君に会えたら格安でマジックバックを作ってもらえるって」
「おお、佐藤か、俺の宣伝あんがとな。ま、格安だから俺の儲けはないけどな」
「それと、市川君とトラブった」
「どうしたんだ?」
「市川君が砂糖を金貨10枚で売ってたんだけど、金貨15枚に値上げしようとして、商業ギルドのギルド長に頼まれて、私が砂糖を卸すことになって、恨まれた」
「なるほど、高梨の説明は無茶苦茶だが、理解は出来た。市川らしいな」
「でしょ」
「市川には格安は無しだな」
「うん」
中村君が怒ってる。
珍しい。
「まぁ、なんだ、高梨、気を落とすな」
「気なんか落とさないよ、砂糖は金貨1枚で大量に売ってるし、いまさら商業ギルドに泣きついても市川君の出番が来ないように、他にもがっつり売っていくつもりだから」
「おお、逞しいな」
「任せて」
二人で笑い合う。
お昼の時間だ。
中村君を食事に誘ってもいいだろうか? クリスさんにお伺いする。
オーケーが出た。
中村君に昼食を一緒にしないかと誘ってみた。
 




