僕は君を幸せに出来ていたのか、わからない
ユウコが言うには、
風を起こしたり人間の使っているものを少しばかり動かせる幽霊のハヤトは、近ごろ次第に人間の頃の記憶を失っているという。
ユウコが憶えている自分の自死の様子もすでに知らないハヤトは怒ったり哀しんだりもしなくて、
ただ幽霊でいることを面白がってユウコの傍にいるのに、
リョウをはじめハヤトに会いたいと強く念じてくれる人間も、気がついてくれる人間もほとんど居ないような世界にただ存在していることがいかにも儚い。
ユウコとて、リョウの前に現れることが出来るのは2人の気持ちが揃ったときとリョウが将来を左右するような岐路にいるときだけで、
常時自由にいられるわけではない。
リョウはユウコとの名月の夜の逢瀬で、空が明るくなりはじめてすぐユウコの声が聞こえなくなっていったとき、
自分は何も知らなかったことにやっと気がつき愕然とした。
生きていた頃のユウコは、
食べるものは何が好きだったのか、お酒を飲むのは好きだったのか、どんな色が好きだったのか、どこで洋服やバッグ、靴を買っていたのか、どんなサイトが好きだったのか…。
リョウが、次にユウコが現れたならユウコに聴いてみようと思いながらうとうとし始めた頃、
玄関の戸がガラガラとスライドして開く音とスドウとマサシの話し声が聞こえてきた。