【子語り怪談】とある集落で耳にした手まり唄
子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。
今はもう四輪ばかりですが、若いころは、よく単車に乗っていました。生活の足だけでなく、しばしばツーリングにも出掛けておりまして。と言っても勤め人なので、あまり遠出もできず、休日に近隣をちょいと流す程度ですが。
ただ、これがなかなかに面白い。
私の住んでる地域は、山に囲まれてるので、あっちからこっちへ行こうとすれば、いっぺん山をよけて国道に出なければいけません。しかし、山の中には地図にない林道なんてものがありまして、これをたどると思いもよらない場所へたどり着けたりもするのです。
林道といっても、しっかり舗装もされていますし、そりゃあ離合が難しい狭い場所もありはしますけど、こちとら単車ですから特段苦になることはありません。まあ、そもそも対向車なんてものに出会ったことなどいっぺんもありませんでしたが。
ともかく、人知れぬ道は便利なもので、時間帯によっては国道の渋滞を避けて、目的地までずいぶん早くたどり着けたりもします。そんなわけで当時の私は、そう言った「裏道」を探すのが、ちょっとした楽しみになっておりました。
ところが生憎なことに、私はいささか方向音痴でした。角を三回曲がると、自分がどこへ進んでいるのか、よくわからなくなるのです。
山の中の林道は、曲がりくねっている上に、ずいぶん枝分かれしておりますから、その日の私は多分にもれず、山中を迷っておりました。長らく走り、ようやく四、五軒の家が建ち並ぶ集落へとたどり着きました。
ひとまず手近な民家で道を聞こうと単車を降りたのですが、行先で幼女がまりをついて遊んでいます。四、五歳くらいでしょうか。なんとも昭和な雰囲気の、ずいぶん古臭い格好をした女の子でした。まあ、私も昭和の真ん中付近で子供時代を過ごした人間ですので、「懐かしいなあ」と言う程度の印象しかありません。ちょうどいいか、と声をかけようとしたのですが、彼女は奇妙な手まり唄を歌っていました。
ぜんこのうて
あんこにて
あんこくって
おっかないた
つまり、「銭子なくて 餡子煮て 餡子食って おっ母泣いた」となるのでしょうが、なぜ「餡子食って」泣くのかさっぱりわからない。しかし、鞠で遊ぶ幼女が、続くフレーズを口にした時、私は背筋に怖気を感じずには要られませんでした。
ぜんこのうて
あんこうって
ぜんこもろて
おっかないた
そのまま訳せば「銭子なくて 餡子売って 銭子貰って おっ母泣いた」となるんでしょうが、そうではないと、私は気づいたのです。
銭子なくて
あの子煮て
あの子喰って
おっ母泣いた
銭子なくて
あの子売って
銭子貰って
おっ母泣いた
私は急ぎ単車へ乗り込み、その場を去りました。ともかく坂を降ればどこかに出るだろうと闇雲に走り、どうにか自宅へたどり着きました。それ以後、あの集落へ至る道を、いまだに見つけることが出来ておりません。