死ね
あれは私が病院の清掃の仕事をしていたときのことです。
私の担当する病棟は重病患者が多く、亡くなる人が時折いました。
今も「205号室の人が危ない」という声を聞きます。
四十代の男性で、体調がよいときは私も声をかわしたことがあるのですが。
そんな折に、くだんの205号室に入ったときのことです。
二人部屋ですが、手前のベッドは空いており、奥のベッドに噂の患者がいました。
そこはカーテンが閉められていたのですが、ベッドの横に誰かが立っている影が見えました。
お見舞いの人がいるときには掃除はさけているので私は病室を出ようとしました。
そのとき、聞こえてきました。
女の声が。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
小さな声でしたが、私にははっきりとそう言っているのが聞こえました。
私はいつも以上に静かに病室を出ました。
そして廊下を清掃していると、205号室から若い女が出てきました。
どう考えても声の主ですが、私は当然のように無視しました。
数日後に、205号室の患者が危篤状態になりました。
次々と親族が駆けつける中、男は死にました。
男の遺体が運び出され、それに親族がついて行きます。
その中に、あの若い女がいました。
男の名を呼びながら泣いているのですが、それは演技であると私にはわかりました。
そして死んだ男と親族の人たちが私の横を通り過ぎたとき、私ははっきりと聞きました。
死んだ男の声を。
その声はこう言っていました。
「おまえも死ね」と。
終