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作者: せれな


 これは、一人の女子生徒の話。




 当時彼女は生きることに疲れていました。学校に行けば孤立し、家庭でも一人暗いオーラを撒き散らし空気を悪くする。そう思い込んでいたのです。

 死ぬことは怖くて出来ないけれど、自分が何のために生きているのかわからなくなった彼女は、ある時、気になる話を耳にしました。


 別の場所へトリップする都市伝説です。


 オカルトに興味があったわけではありませんでしたが、楽になりたいと考えた彼女にはとても魅力的だったのでしょう。


 最初に知った都市伝説はきさらぎ駅でした。

 有名な話で、実在しない駅に降りて行方不明になってしまった女性の話です。どこへ行ったのか、本当の話なのか分かりませんでしたが、彼女はその話に心を動かされました。けれど、そこへ行く方法はどこにも載っていません。彼女は他に異世界へ行く方法がないか調べました。

 次に知ったのはエレベーターで異世界へ行くというものでした。複雑な順序を踏んでようやく辿り着くものです。

 けれどそれを試した人が動画を上げており、行けなかったことを公開していたので試すことはしませんでした。

 都市伝説はやっぱり嘘なのかと半分落胆しましたが、調べることはやめません。

 そして見つけたのが電車で異世界へ行くというもの。

 終電後の誰もいない駅でいつも乗る電車の時間を呟いて非常停止ボタンを押すと、異世界行きの電車が来るというものです。

 普段バス通学をしていたのでいつも乗る電車がありません。けれど、エレベーターの話と違って試している話がなかったので、どうしても試したいと思った彼女は夏休みの間、電車を使ってバイトに行くことにしました。

 約一ヶ月決まった時間に電車通勤をして、夏休み最終日に都市伝説を試すことにしたのです。


 実行当日。時間は明確に書かれていませんでしたが、成功の願いを込めて丑三つ時に家を出ました。

 誰にも会うことなく駅まで行って改札を抜け、階段を登って非常停止ボタンの前まで来ると深呼吸をして気持ちを落ち着けました。

 彼女がいつも乗っていたのは朝7時14分の電車です。それを小さく呟いて目の前のボタンを押しました。


 その瞬間、彼女の背後に光がさしました。


 驚いて振り向きます。ですが、そこには何もありません。自分の鼓動しか聞こえない中で、ふと入ってきた車の音に彼女は落ち着きを取り戻しました。どうやら車のライトが反射しただけのようでした。

 彼女は失敗したことに気落ちしながら、誰にも会うことなく家に帰りました。


 夏休み明け、また会いたくもない人たちに会わないといけないのかと憂鬱になっていた彼女でしたが、この日から彼女の日常は異世界に来たかのように変わります。

 彼女のクラスに実習生がやってきたのです。しかも彼は、バイトしていた時によく話しかけてくれる人でした。二人は一瞬驚きましたが、お互い小さく笑い合いました。

 それを見られていたのか、彼女は女子生徒に話しかけられるようになったのです。最初は彼のことについてでしたが、徐々に打ち解けあって遊ぶようになりました。

 今までとは全然違う日常になった彼女は、別世界にトリップする都市伝説のことを次第に忘れていきました。


 時が経って季節が冬になった頃、彼女は休日に友達と遊びに行くことになりました。

 少し離れたところだったので早めに行くことになり、久しぶりにバイトの時と同じ時間の電車に乗ることになりました。

 家を出て駅に着き、改札をぬけて乗車口の位置に並びます。

 その時、彼女の目に見覚えのあるものが写りました。

 あの非常停止ボタンです。

 忘れていた記憶を思い出し、都市伝説を実行した自分に笑いました。けれど、この都市伝説がなければバイトに行くこともなく、実習生と出会わず友達が出来ることがなかったかもしれない。そんな未来を想像して無意識に彼女は非常停止ボタンに手を伸ばしました。


「何してるんだ!!」


 突然掛けられた声にびっくりしましたが、我に返った彼女は、ボタンを押しそうになった自分を怒ったのだろうと手を下ろして声の方を向きました。


「ぇ」


 彼女は驚きました。目に飛び込んできたのはコンクリートの壁で、その上から男性が焦ったように声をあげているのですから。

 そして前を見た瞬間ーー。





 監視カメラによって彼女の事故は自殺と判断され、すぐに処理されました。

 なぜ彼女が突然飛び込んだのかは誰にもわかりません。

 けれどこれが都市伝説のせいだったのなら、ネットに書き込みがなかった原因がわかった気がしますね。



 都市伝説を試したものは全員亡くなっているのですから。



 そして、トリップした先はーー……





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