僕1:ハナ、ナナ、リリーの水浴び
八月の温かい驟雨が通り過ぎると、
森の中は、清潔で眩しい光の洪水で溢れた。
緑色に燃える木々の間からは、何本もの光の柱が降り注ぎ、
濡れた地面からはむせかえるような土の匂いがした。
その中を、僕たちは声を揃えて歌いながら歩いた。
僕は十四歳で、姉のハナは十六歳、妹のナナとリリーは十二歳と十歳だった。
小ぶりの滝がある泉に着くと、みんな着ているものを全部脱いで素っ裸になった。
それから、みんなで声をあげて一斉に冷たい水に飛び込んだ。
浮き立った音とともに、銀色の飛沫が火花のように輝き、舞い散る。
ナナとリリーはふざけあうように身体を揺すって、水を掛け合う。
ハナは水の中にとっぷりと潜ると、音をたてずに滝の下まで泳いでいく。
滝の下で、ハナはらっこのような恰好で背面泳ぎしながら、
僕に向かって心優しい微笑みを投げかける。
八月のからっとした空気、
雲一つない水色の空、
静謐を護る木々たち、
穏やかで心地いい風、
透き通った冷たい水の中の、骨のように真っ白な姉と妹たちの無防備な肌、
すべての八月が、その泉にはあった。
そしてそこは、世界の果てだった。
僕たち四人のきょうだいしかいない、特別な場所だった。