第6話
「はぁ、はぁ………。」
「ぎりぎり間に合った……………。」
先生と別れた後、俺は全速力でここまで歩いて来た。そのお陰で遅刻せずにすんだ。あの時、見逃してくれた先生に心の中で感謝した。また、会ったらお礼を言っておこうと心のメモに記しておく。
それにしてもこれだけ激しく動いたのは何時ぶりだろう?明日は確実に、筋肉痛で動くこともままならなくなるだろう。そうなれば買い物には行けないので今日中に、土日の分の買い物もしておかないといけなくなってしまった。寝坊するとろくなことにならないな。
ふと辺りを見回してみると沢山の人だかりができていた。それもそうだろう。この高校は県内でも生徒数の多い学校で有名だからだ。先生方が何か言っている。人が多すぎてうまく聞き取れないが、少し耳を澄ませれば聴き取れなくもなかった。
「張り紙で自分のクラスを確認したら、クラスごとに並んでください!」
先生方は新入生に指示を出していたらしい。指示を聞いた俺は人の波に流されそうになりながらも張り紙の前にやってきた。まずは、自分のクラスの確認が最優先だ。
「俺のクラスは…………。」
「あった。三組か。知り合いがいればいいが、…………。」
現在分かっている範囲で言えば、この高校に入学する俺の知り合いはたったの二人だけだ。俺の親友と彼の彼女だけだ。八組までもあるので、彼らのどちらかと同じクラスになれる確率は皆無に等しい。
それに、わがままかもしれないが、同じクラスになるのであれば親友の方が良い。なぜなら、中学生の時から俺は彼の彼女と話すのに苦手意識があるからだ。それには深いわけがあったのだが、今年からはその要因となっていた人物がいないから大丈夫だろう。出来れば彼らのクラスも確認したいのだが…………。
「う~ん。あいつらのクラスを確認しようと思ったが、この人だかりだと難しいな。」
自分のクラスを確認するだけでもかなり難しいほどの人がいる。自分のクラスだけでも確認できたのは幸いだったのだろう。
「まぁ、どうせまた後で会うだろうからその時に聞けばいいか。」
俺は諦めて自分のクラスの列に向かった。
並んで周りを確認したが、見た限りでは知っている顔ぶれはいない。やはり、同じ中学校出身の人はあの二人以外いないのかもしれない。それに二人とも三組の列にはいないので別のクラスになってしまったのだろうか?そんなことを考えていると、声をかけられた。振り向いた先にいたのは隣に並んでいた同じクラスの人だ。
「やぁ、初めまして。俺は植城一輝。これから一年間よろしく。」
「こちらこそよろしく。俺は神崎裕太だ。裕太って呼んでくれ。」
知らない相手だった。でも、俺はこの人となら仲良くなれるような気がした。それは何故か。簡単な話だ。彼は俺と同じような苦労をするであろう人物に見えたのだ。一言で言うと、同類の人間だと思ったのだ。今までは俺と同類だと思える人がいなかっただけに嬉しさがこみあげてきた。
でも俺と同じような人間なら、俺が優香との関係で苦労したことと同じような苦労をしそうだ。つまりは異性との関係で苦労しそうだということだ。でも、まだ俺と同じような苦労をしたようには見えないので、これから苦労するのかもしれない。そんなことを考えていると同情したくなってきた。
もし彼に困ったことがあればできる限り相談に乗ろうと決意した。そんなふうに思考を巡らせつつ、彼と話しを続けた。
「それなら、俺のことも一輝でいいよ。裕太。」
「分かったよ。一輝。」
そんな会話をして俺たちは固い握手を交わした。入学式に話せる相手ができたのは中学生時代にはなかったことだ。これから楽しい一年になりそうだなと思い、これからのことに思いをはせるのであった。
”これから一体どんな楽しい毎日が待っているのだろうか?”
そんなことを考えつつ、先生方から次の指示が出るまで待ち続けるのであった。