第4話
俺は今、全力で走っている。運動がすごく苦手な俺がだ。俺をよく知る人がこの事を知れば腰を抜かすかもしれない。しかし、それは体を鍛えるためという理由で走っていたらの話しだ。今、俺が走っているのは体を鍛えるためなどではない。
そう、入学式に遅刻しそうだからだ。
基本的に俺は時間に余裕をもって行動するようにしている。中学生時代だって、予鈴の十分前には必ず教室に入っていた。だから、このようになったことは一度もない。
つまり、人生で初めて学校に遅刻しそうなのだ。しかも、自分の入学式という大事な日にだ。
そんな事になれば、クラスで浮いてしまう可能性が高くなる。まぁ、中学生時代も浮いていたのだが………。でも、それは俺が悪いのではない。優香の責任なのだ。彼女がたまたま俺が幼馴染だということを漏らしてしまったからだ。そのお陰で俺は男子生徒の多くに敵意を持たれてしまったのだ。
本当のことを言えば、俺自身が誰かと話そうとしなかっただけかもしれないのだが…………。しかし、俺がクラスで孤立することに拍車をかけたのは優香の行動だった。
まぁ、話しかけてくれる人も居たし親友と呼べる奴も出来たので、特にこれと言って優香を責めるようなことはない。それほど、俺にとっては充実した生活を送れていたのだ。でも、ここで得た経験は絶対に忘れない。
この経験から俺は、余程のことがない限り、優香と関わらないと心に固く誓ったのだ。そう誓った俺と優香は中学生の間に関わることは全くなかった。
だから俺は優香が訪ねて来たとき、すごく驚いた。三年間も疎遠だったからだ。でも俺は、優香と話していく途中で思い出したのだ。あの時、誓ったことを。
だから、俺はすぐに彼女を追い返した。そういった理由でこんなことをしたのだ。でも、これから俺の行く高校には優香はいない。この誓いを思い出すことはもうないだろう。たぶん。昨日のことがあって少し不安になってしまったが絶対に大丈夫だ。
優香は俺の行く高校には来れない。なぜなら、俺の知っている彼女の成績ではここに合格するのに必要な点数は取れないことを。
そう考えると心にゆとりが出来てきた。これなら、リラックスして入学式に挑めるだろう。でも、リラックスし過ぎると寝てしまう可能性があるので少しの緊張感は残しておかなければならないだろう。
そんな事を考えているとふと何かを忘れているような気がしてきた。何だろう?とても大事なことだったはずだ。
しかも、何故俺は制服を着た状態で道路に突っ立っているのだろうか?
「…………………………。」
「…………………………………………………。」
「!!!!」
「入学式だ!!!」
俺は思わず叫んでしまった。そう、大事なこととは入学式のことだったのだ。こんなことはしていられない。急がなければならない。こういう大事な日は早くに集合場所に着いておくことが大切だからだ。
そう思い、俺は再び走り出すのであった。
走っている途中で公園にあった時計が偶然、俺の目に入った。そして、時間を見た。いや、見てしまったのだ。
八時半になっていた。
ありえない。そう思いもう一度時計を見直す。やはり、八時半のままだった。別の時計おみてみようと思ったその時、俺はもう一つの大事なことを思い出してしまったのだ。
俺が今、遅刻しそうだったことを。
「……………。」
「マジでやばい!!!!」
俺はまた叫んでしまった。止まろうとする足を必死に動かし続けていたことも忘れるほど、頭が真っ白になってしまった。それほどまでにまずい状況なのだ。だから、俺はもう一段と速度を上げて全力で走って行くのであった。
そんな中で俺は固く誓ったのだ。
"絶対に寝坊しないと!"




