第2話
ふむ…………。一言言わせて欲しい。
(何故ここにこいつがいるんだ?)
そんな事を思ったのも致し方ないことだろう。中学校に入学してからは全く会話をしていなかった幼馴染が今、俺の目の前にいるからだ。
しかも、彼女は倒れている。おそらく、彼女は俺の部屋のドアにもたれ掛かっていたのだろう。それなのに俺が勢いよく開けたものだから、突き飛ばされてしまったのだろう。
そんな事を考えていると、彼女はむくりと勢いよく起き上がった。
「酷いよ、裕太。こんな美少女を雑に扱うだなんて。」
そう言いながら、俺を上目遣いで見てきた。
(やはり、美少女だな。って、違う違う!)
俺はついこんなことを思ってしまった。美少女が上目遣いをしてきたのだからこう思ってしまうのはどうしようもないことだろう。しかし、今考えるべきことはそんなことではない。
「自分のことを美少女なんて言うな。」
「皆がそう言ってくれているから、そう言ったのだけれど?」
俺は、こんな話をしていては会話が全く進まないと思い、気を取り直して彼女に疑問に思ったことを聞いてみた。
「はぁ……。まぁ、そこは別にどっちでもいいや。何でここにお前いるんだ?」
「何言ってるの? ここに来たのは裕太に会うために決まってるじゃん! 後、お前って言うのは止めて。昔みたいに優香って呼びなさい。」
彼女は俺を睨み付けてきた。お前というのがお気に召さなかったのだろう。このままでは話しを進めることができない。俺は昔の呼び方に戻すことを余儀なくされた。
「分かった分かった、昔みたいに優香って呼ぶから。で、本当の目的はなんだ?」
そして、俺は本題に入った。優香が俺に何の目的もなく会いに来ることなんてあり得はずがないからだ。そう聞くと優香はあっさりと答えてくれた。
「ご飯を食べさせて!」
「はぁ? どういう意味だ?」
「言った通りだよ! だから、早く〜〜。お腹が空きすぎて倒れそうなの!」
「買えばいいだろ! 買えば!」
「いいじゃない。幼馴染の仲なんだだから!」
何がいいのやら…………。全く、こいつ本当に何言ってるんだ?
「こんなことを頼めるのは裕太だけなの。だから、お願いします!」
そうやって、優香は俺に頭を下げてきた。
普通なら優香の頼みを聞くのだろう。しかし、俺は知っている。彼女と関わればろくなことにならない。小学生のころなんか、彼女と関わっていたお陰で、学校の男子のほとんどを敵に回してしまったのだ。
簡単に言えば嫉妬である。優香は校内でも三本の指に入るほどの美少女だからだ。そんな経験がある俺が優香の頼みを聞く訳がない。だから、俺はドアを彼女に何も言わずに閉めたのだ。もちろん、鍵も忘れずにきちんと閉める。
「えっ?」
外から彼女の驚く声が聞こえてくる。さて、俺はインスタントラーメンでも食べるとするか。
「開けてぇ~~。お願いだからぁ~~。ご飯食べさせて~~~~。」
優香の泣きそうな声が聞こえてくる。いや、もう半泣きになっているだろう。でも、俺は絶対に開けない。
しばらく経つと彼女は諦めてどこかに行ったのだが、去り際にこう言い残していった。
「よくもこんなことをしてくれたわね………。首を洗って待っていなさい………。この事は一生忘れないから……。」
あっ、これはヤバい。優香がこの声で話すのはキレている時だけだからだ。彼女と会えば確実に締め上げられるだろう。俺はそのことを想像してしまい、身震いをしてしまった。