第1話
明日は高校の入学式だ。それのため数日前、部屋に引っ越して来た。そう、今俺――神崎裕太は多くの人が憧れているであろう一人暮らしをしている。
高校だって一人暮らしをするために家からかなり離れたところを選び、そして中学校の卒業式が終わって少したったのちこちらに引っ越してきた。これまで言ったことから分かるかもしれないが、俺は一人暮らしというものに憧れていた。
しかし、それが楽しくないと気が付いたのは、引っ越しをしてから一週間経ってからだった。基本的に家事はできるし、料理も得意だ。しかし、しかしだ。問題はそこではない。正直に言うと、寂しくなってきたのだ。
最初は自分の好きなように過ごせるのでとても楽しい日々だった。そんな日々も最初だけ。少しずつ、少しずつ孤独感が増してきたのだ。
もともと実家には、両親と妹がいたので、とても賑やかな家庭だった。でも、その賑やかさに俺は嫌気がさした。それがきっかけで一人暮らしをしたいと思うようになったのだが、逆にそんな家庭に慣れていたせいか、静かすぎるとどうも落ち着かないのだ。
最近は、熊のぬいぐるみに話しかけて寂しさを紛らわしている。この熊のぬいぐるみは孤独感に耐えかねた俺が、最近になって買ってしまったものだ。俺は今日も、ぬいぐるみに話しかけて気を紛らわしている。
「はぁ……。なぁ、学校早く始まらないかなぁ。」
「んっ? 元気出せって? 学校始まるまで、話し相手になってやるからだって? いやぁ~、本当にありがとな。お前がいなかったら、寂しくて仕方なかったぜ。」
いつもこんな風に話しかけている。周りから見たら明らかに頭のおかしい人だろう。その自覚だってある。でも寂しく寂しくて落ち着かないのだ。
ふと、視界の端に外の風景が写った。もう日が傾いてきている。もう少しで山の陰に隠れてしまうだろう。つまり…………。俺は勢いよく振り返った。そう、時計を見るために。予想通り、もう5時すぎだ。もうすぐで、日が完全に落ちてしまうだろう。日の入りまでには買い物は済ませ、帰宅しておきたい。そのためには、今すぐ出かけねばならない。
「やべっ!」
俺は冷蔵庫の中身や持ち物の確認をしていく。
(よし、これで準備万端。)
俺は急いで買い物に行くための準備を終えた。
はぁ…………。いつも自炊をしている俺だが、一人寂しく食べているので料理をするのも億劫になってきている。う~ん…………。実家暮らしの時は家族がいたから、料理を作るのも苦にならなかったのかもしれない。
(はぁ…、考えても無駄だな…………。)
自分が望んでいたことだ。割り切るしかない。そんなことを考えながら、俺は玄関に向かった。
「今日の晩御飯は何にしよう?」
俺はそう呟きながら部屋のドアを押した。しかし、いくらドアを押しても開く気配はない。鍵は開けているのに何故だ?俺は再度試した。今回は勢いを着けて思いっきり押したのだ。
「きゃぁ……」
ドアは開いた。今回は開いてくれたらしい。しかし、…………。
俺はふと、その時のことを思い返した。はっきりと覚えていた。茶系の綺麗な長い髪が視界の端に写っていたことを。そして、とても懐かしい声が聞こえたことも。あの声は確か…………。
声が聞こえてきたドアの向こうを見た。俺は思わず目を見開いてしまった。だって…………。
(なんだそう言うことか…………。)
懐かしさを覚えたのも、当たり前のことだったのだ。なぜなら…………。
そこに居たのは俺の幼馴染――宮間優香だったからだ…………。