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第8話「世界と人間の秘密」

 リエルが用意してくれた朝食は牛のステーキだった。

 連続で牛!

 朝っぱらからガッツリ肉!


 リエルは得意気にこんなことを言う。

 

「ふっふっふ。じつは朝からお肉をガッツリ食べるって健康法は間違ってないんだよ~?」


 そうなんだね。

 リエルは「知ってた?」なんて目を輝かせながら聞いてくる。

 いやぁ知らなかったなぁ。


 僕は席に座ると盛られたステーキをナイフで切り分け、食べてみる。

 意外なことに脂身もサッパリしていてとても美味しい。


「ん、リエル。これすっごく美味しいよ」


 これなら、朝からでもいくらでも食える。

 そんなことすら思ってしまう。


「口にあったならよかった~。ヘヘトちゃんはどう?」


「ええ、滋味じみに富む味わいというのはこのことなのね」


 相変わらず、きれいな所作でヘヘトは肉を食べていた。

 いくら美味しいからといって、彼女はがっつくような食べ方はしない。

 洗練されたそのテーブルマナーは、ひとつの流れる芸術作品をみているかのようだ。


 リエルは2人から高評価を得たということで、ご満悦だ。


「2人にぜひ食べてもらいたいなぁ、って思ってたんだ。希少なヒレ肉だよー。シャトーブリアンって言うんだって!」


 リエルは、ふふんと得意気に豆知識を言いながら食べていく。

 彼女の料理スキルは高い。

 ただステーキを焼くだけでも、焼き方など高い技術を要するだろう。


 肉は滋養にいいとは聞く。

 だけどこの肉は特に栄養がありそうだ。

 活力を出すにはもってこいだろう。


 僕は肉を先に食べ終わってしまう。

 ヘヘトは時間をかけてゆっくりと味わっていた。

 いつも思うけど僕は食べるのが早いほうなのかもしれない。


 健康を気にするならばゆっくりと食べた方がよいらしい。

 けどリエルの料理は美味しいもん、しかたない。


「ごちそうさま。リエル、やっぱりすごく料理上手だよね」


「えっ? う。うん! 嬉しいなぁ」


 リエルは突然褒められて意外そうだ。

 褒められることに慣れていないんだろうか?

 それとも自分のことを過小評価しているんだろうか?


「それに日に日に、リエル、料理がうまくなってきてる気がするよ」


「や、そこまでは言い過ぎだよぉ」


 けれど僕は彼女をとても褒めたいと思う。

 ここまで質の高い料理を連発すること自体がすごい。

 高級レストランでも通用しそうな腕前だ。


「そうだ。テオスくん……今日はなにか予定ある……かな?」


「ん? 今日の予定か。べつにないけど」


「そ、そう? じゃあちょっといっしょに街行かない?」


 街か……僕はちょっと思案する。

 街というのはここの最寄りの街、カナスのことだろう。

 ううん、街ね……?


「あー、どうしようかな……ちょっと行くか行かないか迷う」


「ふふっテオスくん有名人だもんね?」


 そうなのだ。

 僕はモンスターを討伐しまくっているせいで街では英雄的扱いをされている。

 幾度も街の危機を救った英雄……という扱いをされている。


「僕が行くと、だいたい人だかりができちゃうからなぁ」


「それだけ慕われてるっていう証拠だよ! すごいなぁ」


「あはは、そのせいで僕の家に来る手紙とかすっごい量だけどね」


 そう、流れでリエルの家に居ちゃったけど僕にも帰る家がある。

 配達員が毎日のように手紙を運んでくる。

 ラブレターのようなものもあればどっかの組織への勧誘もある。


 僕はたくさんたくさん手紙を受け取ったがほとんど相手にしていない。

 それなのに手紙は絶えないのでちょっと困っている。


「それなら……テオスくんは行かずに私だけ行ってくる?」


「や、大丈夫。どのみち僕の家に帰るなら街に行かなくちゃだし」


「えぇ~。帰っちゃうの? ちょっとさびしいな、私」


 リエルはそんなことを言う。

 そこで、僕のことをヘヘトはじっとみていた。

 神妙な顔つきで。


「ねぇ、テオス」


「ん。なに? ヘヘト?」


「テオスは、色々な声にさらされるのも慣れてるわけね?」


「ん、まあね」


「そう……なら、やっぱり心配はなさそう、か」


 心配?

 なんのことをいってるんだろう?


 僕はそう思うが、ヘヘトは次に思いもよらないことを口にした。


「それなら、話してあげるわ。この世界の秘密、人間の秘密をね」


 ヘヘトは、真剣な顔つきで言う。

 それを聞いて一瞬、時が止まる気がした。

 え?

 

 世界の秘密と人間の秘密を、だって?

 立て続けにヘヘトは切り出した。


「まず、人間の秘密から話すわ」


「うん」


「人間という構成体は、3つの区分から成り立っているの。肉体、霊体、そして魂。霊体にはそれぞれ、霊的器官というものがあって、それが時には物理法則をこえた知覚、反応を可能にするし、肉体をささえているの。そして魂。これは人間の本質にして、不可侵なものにして秘奥。これだけが、直接『根源』を直知できるの。」


 ヘヘトは一息に話す。

 僕らはそれを頷いて聞いている。


「そうだったんだね……ヘヘト。それで、世界の秘密は?」


「この世界の秘密、ね。厳密に言うと、宇宙は、ほぼ無限なの。数学的に言うと、擬無限ぎむげんの様態。それが宇宙。その宇宙が無数に存在する。それがこの世界。これはリエルもよく知ってるわよね?」


「多元宇宙……ってものかな。ヘヘトちゃん?」


「そう。私は……じつはその多元宇宙を管轄する管理者だったのよ。超高次元生命体。それが、私」


 ヘヘトは、自分の胸に手を当てて言う。

 そして、僕の事をまっすぐに見つめた。


「テオス……私はあなたにウソをついていたわ」


「ウソ?」


「えぇ……あなたはもう充分に強い。それだけに、あなたが世界の秘密や人間の秘密、そして根源を知ってしまったら、あなたはあなた自身の『生の価値』を見失わないか、心配だったのよ」


「生の価値……だから、今まで話さなかったんだね」


「ええ。けど、まだ未解決の件があるわね。あなたの、その頬を伝っている黒い十字の刻印のこと」


「ああ、これ? これは僕もなんだろうなあって思ってるけど」


「あなたのその黒い闇は、本来であれば不可侵なはずの魂すらも侵食する……ひとつの黒い魂から来るものなのよ。だから、あなたの魂は黒い。その魂がどこから来たのかまではわからないけれど……可能性があるとしたら」


「あるとしたら?」


「私と同じ、超高次元の存在が『根源』たるものを、あなたに侵食させようとして仕掛けられたものか。それか……根源が万が一にも自壊願望をもったとして、その表象として現れた。たぶん、そのどちらかがあなた」


「そっか……僕が根源をあれほどまでに希求していたのが、仕組まれた感情って事?」


「そういうことになるわ」


「そっか、そうなんだ……」


 僕はこの世界について、様々な事実を知る。

 けど、知ってよかったと思う。

 僕はこれを知るために、今までやってきたのだと思う。


 リエルは今聞いた話を頭の中で整理しているようだ。

 ヘヘトは、僕を見つめて言った。


「けど、あなたにはやらなくちゃいけないことがあるでしょう? テオス」


「やらなくちゃいけない、こと?」


「今こそ、あなたの魂を根源に接続して、それを『知る』ということ」


「えっえっ、今って、いきなり過ぎない?」


「今のあなたなら、きっとできる。人間の魂の深奥にまで入りこんで、それでも自分を見失わないことが、できる」


「……うん」


「人間というのは、各々がひとつの未踏破な神秘なのよ。じゃあ、いってらっしゃい。テオス」


 ヘヘトがそう言ってくれる。

 根源への接続。

 やり方は教わらずとも頭に浮かんできた。


 これは根源が僕を誘き寄せているからだろうか?


 僕は静かに瞑目した。


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