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第5話「秘密!」

 もう夜になりそうな時刻だ。

 それなのに窓ガラスが割れてるせいで風がビュウビュウ来る。

 寒い。


「あー……リエル? とりあえず今日の夜は、僕が見張りをしておくから」


 研究所にはリエルの貴重な研究成果があるだろう。

 なので僕は番人となる。

 一晩だけ。


「あ、ありがとうテオスくん! でも、眠くなったら寝てもいいんだよ……?」


「大丈夫だよ。寝ずに300日くらい過ごしたことあるし」


「ええっ!?」


 リエルはその言葉に目を丸めた。

 300日くらい寝なかったっていうのはホントだ。


 僕のスタミナがわけわからんくらいに持続するのか。

 そもそも睡眠要らずの特異体質なのかはちょっとわからない。


 けれどなぜか僕は寝なくても元気だ。

 元気なのはいいことだ。


 ヘヘトは僕の方を見ていたが、視線が合うと穏やかにふっ微笑んだ。

 今の微笑みは何!?


「ヘヘト、なんで微笑んだの?」


「え、秘密」


「ヘヘトってさ、肝心なところ秘密ばっかだよね、何者なの?」


「えー、秘密!」


 やっぱり秘密じゃないかこのぅ!

 僕は憤慨したわけじゃないけどケチだなあと思う。


 けど、ヘヘトにだって言いたくても言えない理由もあるんだろう。

 どんなに親しくても、隠し事というのはあるものなのだ。


「秘密か……それって僕がもっと強くなったら教えるとかと関係ある?」


「関係あるかもしれないし、ないかもしれないわ」


「微妙な答えだなぁ……ヘヘトが言ってた世界の秘密とか……リエルも気になってるんじゃないかって思うけどなー、ね、リエル?」


 そこで、リエルはこくこくと頷いてヘヘトに歩み寄る。


「私も、それすっごく興味深いよ!」


「うーんそうねぇ……ま、私の気が向いたら話すことにしましょ」


 ヘヘトは人差し指で、詰め寄るリエルの額をツンとして制止する。

 「あぅ」とリエルは声を漏らす。かわいい。


「あー、じゃあヘヘトのスリーサイズとかも秘密なんだね」


 僕はちょっと秘密ばっかでモヤモヤしていたので、爆弾発言ともとれることを言う。

 

「あ、それなら別に教えてもいいわよ?」


 スパッとヘヘトに返される。

 まぁヘヘトは間違いなくスタイルのいい美少女だしそのへんは自信あるんだろう。


 僕はなんだか負けた気がして悔しい。

 口を一文字に結んでいた僕を見て、ヘヘトは目を細める。


「じゃ、とりあえず今日の夜はテオスが見張り役ってことで!」


 ヘヘトが勝手にそんなこと言ってくる。

 けど僕だって一度言ったことを取り消すなんてできないからしかたない。

 見張りか……なにも起こらないといいんだけどなぁ。


「ねぇ、ヘヘト」


「ん、なに?」


「なんかその、ヘンなトラブルとか起こさないでね?」


「起こさないわよ!? え、なによ私のこと信用してないの?」


 いや信頼がないわけじゃない。

 ヘヘトはさっきだって大事なところで僕を勇気づけてくれたし、頼もしい。

 ただ行動と性格がちょっとおかしすぎるから心配なのだ。


 そろそろ夜も深まってきている。

 それを察してリエルは手を合わせて、微笑みながら言う。


「そろそろ夕飯時だから、ビーフシチュー作るよ! ヘヘトちゃんもどう?」


「んぇ? あー私は酒場に呑みにいこうかなーとか」


 こらこらデリカシーないことを言うんじゃない。

 僕はヘヘトをちょっと睨んでみる。


「わ、わかったわよ、テオスがそうまで言うなら……」


 なにも言ってないんだけど!

 ちょっとビビらないでよヘヘト。


「じゃあ決まりだね! 今日は3人分! 人が来てくれるって言うのはたのしいなー!」


 鼻歌を混じらせながらリエルはキッチンへと向かっていく。

 ヘヘトは結局その場に残っていた。


「あれー、ヘヘトは酒場に行くんじゃなかったっけ?」


 僕はにっこりしながらわざとらしく聞く。

 

「い、いやぁお酒よりビーフシチューの方が体によさそうだなあって、ね?」


 なにが「ね?」なんだろう。

 これはけっこう動揺しているな。

 僕はニッコリ笑みを浮かべて言う。


「ヘヘトー。それで世界の秘密についてなんだけど」


「う。それは秘密と言ったはずよ!」


 間違いない。

 ヘヘトはこの世界について、何らかの秘密を握っている。


「じゃあ形を変えて質問。ヘヘトは世界の根源に至ったの?」


「……う~ん。至ったとは言えないわね」


「それはどうして?」


「至れる者が限られているからよ」


「ちょっと曖昧かな……なぜ限られているの?」


「はいはい、ストーップ。全部言うと情報量も多すぎるしここまで」


 くっ、やはりそう簡単に口が滑るってことはないか!


「ふふ……なんかあなた、悔しそうな顔してるわよ?」


 ヘヘトはそんなことを言って微笑む。

 そりゃあ僕にとって気になることを秘密にされているのだ。

 気になって気持ちが逸るのはしかたないだろう。


「けど、そうね。もし私が……私がどんなものだとしても、あなたは私を侵食したりはしない?」


「当然じゃないか。だってヘヘトも僕の大事な仲間なわけだし」


「そう……仲間。そうだったわね」


 なんだかヘヘトは変なことをたまに言う。

 それは浮世離れしてるような、どこか儚い語調で。

 僕はそのことも気になっている。

 けどきっとこれも秘密と返されてしまうのだろう。


 彼女が秘密にしていることは多い。

 僕はそれをなんとか解明したい。


 少し経つと、リエルがビーフシチューを運んでくる。


「お待たせ~2人とも! ビーフシチュー作ってきたよー?」


 運ばれてきたシチューはいかにも美味しそうだ。


「いただきます」


 僕らはそういってシチューを食べはじめる。

 牛肉は上質な甘さがあって美味しい。

 これはかなりいいお肉を使ってるね!?


 きっとリエルは3人で食べる時のために買っておいたんだろう。

 問題はメッチャ吹き込んでくる風ですぐシチューが冷えることだ。

 これはだいたいヘヘトのせい。


「どう? テオスくん、ヘヘトちゃん、おいしいかな……?」


「もちろん美味しいよ。リエル、やっぱり料理上手だよね」


「ええ、美味しいわ。まさに絶品とはこのことねぇ……私が料理すると地獄のような味になるから」


 地獄のような味ってなんだよ怖いわ!

 僕は思わず聞く。


「あー、ヘヘト? いつもどんな料理してんのさ?」


「ちょっとスパイスをきかせた料理してるのよ」


「ちょっとって……ヘヘトのちょっとは色々と信用ならないからなぁ」


「友人に食わせたら地獄のような味だ! って転げまわってたわ」


 ヘヘトの手料理には気をつけなきゃいけないんだなと思う。

 僕らはビーフシチューを食べ終える。

 リエルが食器を片付け、ヘヘトは酒を欲しがっている。


「あー。やっぱ私、あれだわ酒を買ってくるわ」


「なに、深酒? そういうの良くないと思うよヘヘト」


「酒は薬みたいなもんなのよー」


 酒は薬というのは科学的根拠に基づくと大嘘らしいけど。

 まぁヘヘトはそういうところ気にしないんだろう。


「そう? それで今からお酒を買いに行くの?」


 そこで、ヘヘトはちょっと黙考する。

 そして金髪をさらりと靡かせて得意げにこう応えた。


「う~ん。テオスについてきてもらおうかなって思ったけど……まぁ一人で行くわ」


「そう? 気をつけてね。っていってもヘヘト強いから心配はなさそうだけど」


「ありがと。じゃ、行ってくるわ」


 リエルが食器を片付けている間、ヘヘトは酒を買いに行く。

 ヘヘトははじめから強いお酒をグイグイいく人だ。

 なので僕は、もし彼女が酔ったなんてしたときは近寄らない。


 そして夜が来る。

 ヘヘトは遠くまで酒を買いに行ったのかまだ戻ってこない。

 僕は研究所の割れた窓ガラスの外で見張りをしている。


 夜の空気は澄んでいた。

 空には星がきらめいている。


 そんな中、背後からかすかな足音が聞こえた。

 僕はその足音の正体を知るべくバッと振り返った。

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