第3話「オリハルコンを簡単に砕く人と拳闘」
さて、僕は元拳闘士の男性と闘わされる羽目になる。
ヘヘトが先導して僕らを霊園へと案内してくれた。
「ここらへんにいるはずよ……あ、あの男ね!」
なんて言ってヘヘトが向こうの墓石を指差す。
そこには均整のとれた筋肉をもつ半裸の男が立っていた。
まるで対戦相手を待ちわびるように。
「わ……テオスくん、すごい筋肉の人がいるね~」
「うん……あの人が元拳闘士らしいねー」
リエルはすごい筋肉と言う。
たしかに筋量は多い。
ヘヘトはそのマッチョな男に足早に駆けていき何かを話す。
そして僕の方を指差していたから、たぶん僕のことを説明していたんだろう。
まあそれはいいんだけどさ。
余計な情報吹き込んでないよな!?
僕もその男に近付いていく。
そして軽く会釈をした。
男の目には、知性の光が宿っていた。
体もしっかり肌色だし、とてもアンデッドにはとても見えない。
それはヘヘトの死霊術が、高い精度で肉体を再構成しているからだろう。
そんなところ徹底しなくていいのに!
その男は僕を理性的な眼差しで見つめると、語りだした。
「はじめまして。テオス。俺はリラックという元拳闘士だ」
なんだかいつもリラックスしてそうな名前ですね。
そんな失言が出そうになったけれどこらえる。
たぶんその名前で大いにいじられていたこともあるだろう。
「はじめまして。僕はテオスといいます……」
「あぁ。ヘヘトから聞いているよ。俺と闘いたくて闘いたくてたまらない、と」
そんなこと一言も言ってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
なんちゅうデマを吹き込んでんのヘヘト!?
「俺に挑むとは、若いながらも肝が据わっている。気に入った」
一方的に気に入られた。
いやぁここまで話が進んじゃってるとなんも言えないです。
リラックさんは続けてこんなことを言う。
「俺は生前、狂気のハードパンチャーと呼ばれていてな。よくオリハルコンの巨大な塊を一撃で粉砕したものだよ」
オリハルコンってそんな風に粉砕できるもんなの!?
世界でも最高クラスの硬度を誇る物質、それを粉々にするなんて人間辞めてると思う。
「オリハルコンを、ですか……それはすごい」
「フ……なに。お前もそのくらいのことはできる。ゆえに俺へ挑むのだろう?」
いや、ちょっとその拳は受けきれる自信がないです。
僕は動揺してしまった。
相手の攻撃力は反則クラスなのはわかった。
少なくとも僕の知ってる人間じゃない!
「ま、まあどうでしょうね……? ううんオリハルコンを拳で、ですかぁ」
僕は膨大な数のモンスターを取り込んで絶大な力を得ている。
それでも、未知数の実力をもつ相手とはなるだけ闘いたくないのだ。
しかしリエルとヘヘトは僕へ期待の視線を送っている。
なので退くわけにもいかなくなった。
「お前が実力者であることは見てわかるさ。まず、落ち着きが違う」
「まあ、たしかにそこまで焦ってるわけでも……ないですけどね」
「全盛期の俺を前にした対戦相手は、いつも身震いをしていたものだった」
うん、そりゃそうでしょうね……。
リラックさんの放つオーラはたしかに凄まじいものがある。
しかし幾多もの戦闘をこなしてきた僕は、身震いすらしない。
なぜだろう。
相手は凄まじく強いはずなのに、僕の警戒心はこれといって特に反応しない。
これは闘いに慣れすぎたということなんだろうか?
「とりあえず……やりますか。どこからでも来ていいですよ」
僕はそんなことまで言ってしまう。
なぜだろう。
僕はこの人と闘っても全力を出さずして勝ててしまうような気がする。
そりゃあリラックさんの力はものすごい。
けど闘いというのは圧倒的な力だけでは補えないこともあるのだ。
「では、ゆくぞ!」
リラックさんは弾丸のような速度で発走。
初速からして猛スピードでつっこんでくる飛翔体のようだ。
これに反応できる者は少ないだろう。
リラックさんはゴオオオッという強烈な音波を放ちながら向かってくる。
空気がそんな音を出してしまうほどに速いということだ。
しかし僕は冷静に視認できる、できてしまう。
僕に放たれたのはオリハルコンすら容易に破砕する右ストレート。
あれ……なんか遅い?
僕は手のひらでパシッと簡単にそれを受け止めてしまう。
「……ッ!?」
リラックさんは驚いたような顔になったが、継ぎ目なく加撃してくる。
こんどは跳躍しての跳び膝蹴りだ。
僕はそれをいとも簡単に前腕でガードしてしまう。
あれ……意外と楽勝かもしれない。
僕は接地していないリラックさんへ、返礼としてかるい右ストレート。
リラックさんもまた前腕で防ごうと腕を構える。
しかしそのときだった。
僕の拳はリラックさんの前腕を複雑骨折させる。
そしてそのまま拳がリラックさんの腹筋に深く突き刺さる。
「ぐぁ、っ……」
リラックさんはうめきながら数メートル吹っ飛ばされた。
え……そんなに強くないジャブ程度のつもりなのに!
リラックさんはそのまま、霊園に仰向けに倒れてしまった。
かくして、力量差がハッキリとする。
あまりにも何事もなく、僕が快勝してしまった。
「……さすがといったところね。テオス」
勝敗が決したところに、ヘヘトが歩み寄ってくる。
「さすが……なのかな? なんか倒しちゃったけど」
「ちなみにリラックの言っていたことはウソじゃないわ」
「じゃあ僕は、オリハルコンを粉々に砕く拳を、かるく手で受け止めたって事?」
「そうなるわねぇ。けど、テオスにはまだまだ強くなってもらうわ?」
「えぇ……いや僕は最強とか目指してるわけじゃないし、いいよ」
僕はそこまで強さに執着があるわけではないんだけど。
おっとそれよりもリラックさんの状態だ。
吹っ飛んでいったけれど意識はあるだろうか?
「っと。リラックさん大丈夫ですかー?」
「あ、あぁ……」
リラックさんは内臓にまでダメージがいったのだろう。
吐血していた。
いやもうホントごめんなさい!
「初撃から……全力で拳を打ち込んだ。しかしお前は、それをいとも簡単に防いだ……完敗、だ」
リラックさんはそんなことを言う。
あれで全力であったのか、疑問はおこるがそうだったんだろう。
その証拠に、彼は負けたが晴れやかな顔つきをしていた。
「だから……俺を侵食すると良い……どのみち死した身だ……しかし、お前のような強者の力の、一端と成れるのならば……悔いはない」
「リラックさん……どこから、そのことを?」
「フ……ヘヘトが言っていたさ。お前には隠された闇の能力があること……それをあえて使わなかったのだろう? 本来ならば、俺は侵食されて負けていたんだろう」
たしかに、そうなのかもしれない。
しかし拳闘を誇りとしている彼に、闇の力なんて搦め手を使うのは失礼だろう。
結局僕は地力で勝ってしまったが、彼もたしかに強かったのだ。
「リラックさん、いいんですか……?」
「あぁ……強者の糧となれるなら、拳闘士、冥利に尽きるという、ものじゃないか……」
「……わかりました」
僕は闇の蔦を展開する。
その闇はリラックさんを覆いつくして、ついには喰らってしまう。
あまりにもあっけなく。
あまりにも無情に。
リラックさんは満たされたような顔で最期を迎えた。
彼の意思は継げないけれど、僕はその強さを受け継ぐ。
僕はまた、自分の力が上昇したことを感じる。
この力はやはり『呪われし力』だ。
相手をなにもなかったかのように侵食し、その力を我が物とする。
僕は時々、この正体不明の力が怖くなる。
そこで、ヘヘトは僕の傍に来ては微笑む。
「……さて、テオス。どうだったかしら? 闘いは」
「ヘヘト……はじめから僕に、彼を侵食させるつもりでこんなことを?」
「さ。それはどうかしらね。とにかく私から言えるのは……」
そこでヘヘトは僕の口へピトリと人差し指を当てて、言う。
「あなたには、もっと強くなってもらわないと。それだけ」
それだけといわれても、謎が多すぎる気がするんですけど!
相変わらずヘヘトの目論みはよくわかんない。
とりあえず僕らは、リエルの研究所に戻ることにした。




