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第2話「思いつきでアンデッド!」

 とりあえず僕は海鮮丼を食べ終わった。

 とても美味だった。


 良質な脂をもった白身魚の刺身とあわせて、ご飯を食べたときの感動。

 正直いって感銘を受けた。

 もちろん赤身も美味しい。


 あまりに美味かったので、僕はほぼ無言でがっつき数分で平らげてしまう。

 もちろん犬食いまではしていない。


「ごちそうさま。リエル、とても美味しかったよ」


「はぁい、ありがとテオスくん。そういってもらえると、私もつくった甲斐があったよ!」


「こっちこそありがとね、リエル」


「いえいえどういたしまして! テオスくんには研究費の工面とか、いろいろお世話になってるし……」


 ほんのりと顔を赤くして、リエルはソファに座ってもじもじしていた。


 そんな様を見ながらヘヘトはゆっくり海鮮丼を味わっていた。

 あんなにぶっ飛んだ性格をしているのに、食べ方がとてもキレイなのが意外だ。

 彼女は僕の視線に気づくと、目を細めて茶化してくる。


「なんだかあなた達。私がいない間にずいぶん睦まじくなったのかしら?」


 なんて言ってヘヘトはニヤついている。

 色恋話が好きなのか、いつもの弄りか。

 まあたぶん後者なんだろう。


「そう? 僕とリエルはいつもどおりなんだけど」


「ふっふっふ……そのうちあなた達、結婚したりしてね?」


 その言葉が耳に触れたのか、リエルは急にさらに顔を赤くした。


「けけけ、結婚!? そ、そんなぁまだ早いって……ね? テオスくん」


 いやぁ、そいつは僕に聞かれても困るなぁ。


 けどリエルはかわいいし料理も出来る。

 だからきっと僕よりもふさわしい相手がいるんじゃないかと思う。


「けど……そうだね、リエル。僕はきみを一人になんかはさせないから、それは安心して?」


「へ、っ? う、うん。もうっ、そういうところほんとに卑怯だよテオスくん……」


 リエルは頬を手でおおいながら、困ったようにさらに足をパタパタさせていた。

 僕の言葉を聞いたヘヘトは「おおっ男前~」なんて言ってくる。

 ヘヘトはもう少し自重すべきだと思う。


「まぁでも……リエル。油断はしないことね? 私もテオスのことはいい男だと思ってるから」


 リエルはその言葉を受けて「ま、まけないもん!」と慌てて言う。


 いきなりの褒める発言。

 いい男だって?

 あのヘヘトが?


「いやぁ、ヘヘト、褒められるのは嬉しいけどさ」


「なによ、不満?」


「いやヘヘトにはなんか婚姻とか必要ないんじゃないかと」


「私だって白馬の王子様的な憧れはあるのよ? 女だし」


 ヘヘトが結婚相手の候補として、僕を見ているらしい。

 初めて知った。

 婚約したとしてどうするつもりなんだろう。


「まぁ、そうね。私を靡かせたいならそれなりの努力はすることよ?」


「誰も靡かせたいなんて言ってないんだよなぁ」


 僕はかるくツッコミを入れる。

 ヘヘトも美少女だとは思うし、発色のよい金髪と凛とした顔つきは男を魅了してるだろう。

 ただ行動と性格がときどきぶっ飛んでいるのだ。


 そこを直せばモテると思う。


 そこで、少しばかり沈黙していたリエルはやっと口を動かした。


「と、とにかく! 婚約とかそういうアレなこととか……考えるだけで胸がバクバクしちゃうよ」


 なにを黙考していたんだろう?

 けど急に大胆になったり恥ずかしがったりするのも、リエルの愛すべき特徴だ。


 だから僕はいつもの彼女を見ている。

 見ることが出来ている。

 こういうのもささやかだけど、安心するし喜ばしいことなのだ。


 きれいな所作でヘヘトも海鮮丼を食べ終えていた。

 魔王とか古竜とかを素手でぶん殴る子なのに、やけに食べ方が美しい。

 そのマナーのよさは僕だって見習うべきだろう。


「ごちそうさま。美味しかったわ」


「ヘヘトちゃんもキレイに食べてくれてありがとうね? 街の市場で偶然、魚を見かけたから」


「へぇ……美味しいもんもけっこう売ってるもんなのね? 久しぶりに人間向けのものを食べた感じだわ」


「えっ……? ヘヘトちゃん、普段なにを食べてたの?」


「テキトーに自分で狩った獲物の肉」


 いやザックリし過ぎてるだろう!

 えっきみそのキレイな食べ方で、適当に狩った獲物の肉を喰らってるの!?

 色々とさっきからギャップがすごい。


「フフ、こうやって狩った肉を調理してそのまま食べる料理を、私のめぐってきた世界ではジビエ料理というのよ? 優雅でしょう」


「いやヘヘト……さっきからリエルが絶句しちゃってるし優雅さのかけらも見当たらないんだけど」


「んぇ? だって動物を狩って喰らうのは生き物として当然でしょう、ねぇ?」


 そりゃあもう女子力の片鱗すらないんじゃないか?

 リエルは苦笑いしてしまっていた。

 そりゃそうだ。


 僕達はふだん、加工された肉という状態を受け取っているのだ。

 ほふることに抵抗があって当たり前なのだ。


「う、う~ん。ヘヘトちゃんはとてもたくましいんだね!」


「そうかしら? けどその言葉、あまり女の子には良い褒め言葉じゃないわねぇ」


 いやリエルは充分に技巧を凝らして美辞を送ったと思う。

 偉い。


 そんなところで、ヘヘトは別の話を切り出す。


「そうそう。そういえばここ最近、アンデッドが街にうろついてるって話は知ってる?」


 僕らは知らないと応える。

 アンデッド、さしずめ死霊術師ネクロマンサーとかの仕業じゃないかと思う。

 それとも、その土地になんらかの呪力か魔力がこごってしまったか。


 とりあえずアンデッドの噂、そんな話は聞かない。


「じつはそれ、私がつい先日テキトーに甦らせちゃったヤツよ!」


 ヘヘトがドヤ顔で言う。

 なるほどそりゃ僕らが知らないわけだ……っていやいやホントになにやっちゃってんの!?


「いやぁ、死霊術師の教本がちょっと面白くてね……私もやってみたいな、って思っちゃったわけよ!」


 思っちゃったわけよ、じゃないよ!

 ホントに思いつきだけで死者をわざわざ甦らすな!


「えぇ……ねえヘヘト。そんなヤツを野放しにしてていいの?」


「問題ないわよ。理性あるアンデッドだもの。テオスの修行相手にちょうどいいかなって」


「いやーそんなに闘いには飢えてないんで、その方は静かに眠らせてあげて」


「えー。あのアンデッド、元々は有名な拳闘士だったから、闘わせれば面白いなとか思ってたんだけど」


 そんな有名人と僕を闘わせようとするな!

 うん、やっぱりヘヘトは精神構造がどっかおかしいのだろう。

 おもしろ半分でアンデッドをつくったりとか僕なら絶対しないのだ。


「……でも、アイツもう甦らせちゃったから闘い相手に飢えてるわよ」


「僕はそんなに飢えてないんだよ……」


「ふふ、なによ。怖いの?」


「いや怖いとかそういうんじゃなくて死者を弄ぶのはどういうもんかと」


「意外と、とうの彼はまた現役のように闘えるって喜んでたわよ」


 喜んでんのかい!

 自分の尊厳を弄ばれているのに、それに気づかないのだろうかと思う。

 ある意味気づかないってのは幸せなことなのだ。


 そこで僕らの様子を見ていたリエルは、なにかおかしかったのかくすくす笑う。


「ふふ……なんだかヘヘトちゃんとテオスくん、いつもどおりのいいコンビだね」


 これがいいコンビに見えるんだろうかと思う。

 けどリエルは、少なくともヘヘトよりはひじょうに常識的だし良識的だ。

 だから、傍からみた僕らはそんな風に映ってるんだろう。


「んぇ……? あ、あたりまえじゃない。私とテオスの仲よ?」


 なんてかすかにヘヘトは赤面しちゃっている。

 僕は彼女とは2年くらいの付き合いだ。

 リエルよりは長くない。


 それよりもだ。


「それで結局、その拳闘士さんをまた静かに眠らせることってできないの?」


「撃破する以外の方法ではムリだから。テオス、がんばってね」


 結局僕が倒すことになんのかい!


 他の人に、まさかヘヘトの思いつきに付き合わせるわけにはいかないだろう。

 僕はそんなこんなで、元拳闘士と闘う羽目になった。

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