エピローグ「根源とは」
僕は瞑目する。
まずは僕の魂を視なくてはいけない。
神秘学的にいうならば、これは幻視にも近い体験らしい。
僕の意識は深い深い闇の中を突き進んでいく。
無限とも思える深い闇。
無窮の闇を突き進んでいくと、そこに黒い魂があった。
僕には判る。
これが僕の魂だ。
僕の魂は黒いのだ。
その魂と、僕の意識は交じり合う。
陰陽が和してひとつの太極を為すように。
二元的な原理がひとつの世界を創るように。
そうして、僕の意識と魂の渾一体は飛翔する。
大いなる宇宙を超えて、時空を超えて、その遥か遥か先へと。
そこで、一条の光が差し込んでくる。
そこには、どんな色でも表現できないような光源があった。
神秘的な光に満ちている。
これが根源だったのか。
僕は確信する。
「僕」はその根源の光に少し触れる。
あらゆる声が聞こえる。
それは衆生、生きとし生けるもののあらゆる声。
そしてその光の中に、ひときわ輝く光明を僕は視る。
僕は、その傍まで近付いていって、それに触れた。
その刹那……僕の「世界」が変わる。
今まで味わったことのない幸福感が、僕を支配した。
これほどまでに満ち足りた気分になったことはない。
これほどまでに愛に満ちた気分になったことはない。
そうか。
僕は知る。
『根源』とは、すべてのものに開かれている幸せであり、無限の愛の源泉なんだ。
僕はそれを知る。
しかし根源を手に入れたいとは思わなかった。
知れただけでいいんだ。
それが僕の目的であり幸福だったから。
もしかしたら、僕の闇の力は根源すらも呑み込めるのだろう。
けれど、僕はそれを望まない。
知るだけでいい。
僕は、それを知れて満足だ。
根源へ、別れを告げる。
その途端、僕の魂は下降していく。
そうして、僕は目を醒ます。
僕はどうやらソファに眠っていたらしい。
心配そうに、リエルは僕の顔を覗き込んでくる。
「て、テオスくん? 大丈夫だった? 急に眠り込んじゃったけど」
「うん、ちょっと根源に触れてきた」
「ええっ。すごく気になる!」
ヘヘトは含み笑いをしながら僕へ言う。
「おかえりなさい。無事、根源に接触しても戻ってこれたのね」
「うん。なんとか」
「ふふっ、貴重な体験をしたんだから、私にも聞かせてちょうだいね?」
「うん、もちろんだよ」
僕はそう応える。
さて、僕は根源たるものを知ってしまった。
それは言語的な理解では説明のつかない超常的な体験だったが、なんとか言葉にしようと思う。
僕はまた新たな目的を持たねばならない。
今度は仕組まれたようなものじゃない。
僕自身が、魂の底からしたいと思うような目的だ。
人間は目的という原動力に衝き動かされるものなのだ。
次の目的は、まだ決まっていない。
この黒い魂と共に、僕は生きていく。
まだまだ先は長いだろうし、時はきっと僕らを苦しめるだろう。
それでも、僕は僕の道を行こうと思う。
僕の長い旅はまだはじまったばかりだ。
この長い長い道を、僕らはともに歩んでいこうと思う。
だからこれからもよろしく、リエル、ヘヘト。
僕はそんなことを思いながら『根源』を語ることにした。
無事、完結しました。さいごまでお読みくださりありがとうございます。短い話ではありましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




