プロローグ「よくわかんない!」
初投稿です。温かい目で見守っていただければ幸いです。
超大量のオーガに囲まれながら僕はちょいと考えた。
さて人間はなににロマンを感じるんだろう?
真なる最強を追い求めること?
世界の神秘や真理を解明すること?
どこかに眠る隠された財宝を見つけること?
恐らくそのどれもが、ロマンでありうるだろう。
いつの時代でも、人の求めるところなんだろう。
僕がロマンを感じるのは、この「世界の根源は何なのか」ということについてだ。
それが知りたい。
でも今はそんなこと考えてる場合じゃない。
考えるべきでないことを考えてしまうのは僕の悪いクセだ。
僕は今こう見えても追い込まれている感じなのだ。
広い平原のなかで真っ昼間から赤い肌をしたオーガに囲まれている。
オーガは鬼の姿をしたモンスターだ。
僕を取り囲んでいるそいつらの数はざっと3000はいる。多い!
異常発生なんじゃないのこれ?
と思うがそんな僕はあいにく単独だ。
どっかの冒険者のようにパーティを組んではいない。
数だけで言うならば僕は圧倒的不利だ。
グルオアアアアアとか叫んだオーガ達は威嚇をしているようだ。
でもそんな荒々しい声の合唱にも怯みはしない。
オーガの中には粗雑な形の剣をもってるヤツもいる。
危ないじゃないか。
「……っし! やるか!」
僕は自分のもっている『呪われし力』を今こそ解放すべきだと察する。
お見せしよう。隠されし闇の力を!
それは、僕の右頬にある十字の形をした黒い印から展開するものだ。
どういうわけか、僕の頬にはこの黒い刻印のようなものがあるのだ。
洗ってもインクのように落ちてはくれないから、これは僕と不可分なのだと思う。
僕は黒い剣をイメージした。
すると黒い刻印は幾多もの黒い線となり僕の首筋、肩、腕へ這う。
黒い闇が腕を這い、その面積を増していき腕を覆うようになる。
そしてひとつの禍々しい巨大な黒い剣を形成した。
物質的な闇、これが『呪われし力』のひとつの特徴。
こういうのはかっこよさが大事だからね! うん、大事。
そんなことをしているうちにオーガ達は一斉に襲い掛かってくる。
僕は形成した剣を一閃。
オーガ達の持つもろい剣をたちまち破断しその半身を斬り飛ばす。
数体のオーガ達は血しぶきを噴き上げながら倒れた。
この黒剣にとっては並みの剣身すら脆いらしい。
これなら楽勝だ。
僕はまごつくオーガ達の間を縫うように突進し次々とそいつらを斬り伏せる。
オーガ達はだいたい大振りな攻撃をしてくる。
なのでその隙を衝いて運動量でそれを上回れば攻略は簡単。
黒い剣の斬れ味はバツグンだ。
猛スピードで僕はズバズバドサッとオーガ達をぶった斬る。
闇の剣はよく斬れる。
すごい。
まるで魔剣を扱っているかのようだ。
まあでも、あながち間違いではないと思う。
だってこの闇の剣は、伝説の素材であるオリハルコンすらぶった斬ったんだから。
嘘じゃないほんとうに。
けれど、いくら優れた武具を持っていたからといってその武器を過信してはいけない。
教訓めいたことを考えながら僕はオーガを斬りまくる。僕の方が速い。
敏捷性なら少しは自信があるのだ。
この程度の相手ならば余裕だ。
数分も経たないうちに、僕の周囲には100体くらいのオーガ達が斬り飛ばされていた。
まさに死屍累々。
そんな凄絶な光景に、さしものオーガ達も怯む。
ふっふっふビビってんじゃないの~?
けど流石に、すべてのオーガを剣だけで倒していくのは時間がかかりすぎる。
そろそろ僕をかわいらしい声で「テオスくん」と呼んでくれる、ある女の子のところへ行きたいのだ。
ちょっと癒しが欲しい。
なので僕は『呪われし力』のもう一つの側面を解放しようと思う。
この力の全容は僕自身よくわかっていないけれど、超強力なことはたしかだ。
たとえば、こういう使い方もできる。
僕は黒い闇の蔦をイメージする。
すると黒い線が地面に複雑な紋様を描いた。
それらはオーガ達の足元をずるずると覆う。
物質的な闇の蔦を形成してオーガ達を覆いつくす。
これが決まり手。僕は言う。
「いただきます」
闇の蔦がオーガ達を覆いつくし、ついには侵食してしまう。
そう、この闇に触れたものは否応なく侵食されてしまうのだ。
僕はそんな色んな特徴をもった闇を形成することができた。
ペロリと約3000ものオーガを、闇は喰らってしまう。
そしてそのオーガ達の力の総和が、僕の諸力となるのだ。
これが僕のもつ『呪われし力』の一側面。
さて、終わり。
僕は自分がさらに強くなったことを感じる。
今まで侵食してきたモンスターの数を言えば1000万くらいにはなるだろう。
つまりそれだけの数のモンスターの力が、僕の中にはある。
僕はこんな『呪われし力』を持っていても、僕を慕ってくれる少女のもとへ急ぐ。
僕は広い草原から街へ戻る。
そして、街の自警団の人達からオーガを討伐した報酬をもらう。
僕を慕ってくれる女の子のもとへ向かう。
街外れにポツンと建っている白い研究所に彼女は住んでいる。
名をリエル・エリクシル。
宇宙の話、宇宙論と呼ばれるものに詳しい。
よく手入れされた花々の咲く庭に入って、僕は研究所の扉をノックする。
「リエルー、いるー?」
「っお! その声はテオスくん! いいよー入ってー」
そんな軽い感じでリエルは僕を迎えてくれる。
晴れわたる空のような水色の長髪が特徴的だ。
目はクリクリしていて、華奢で小さくてかわいらしい少女。
だけど胸がないことを気にしているらしい。
彼女はコーヒーを飲んでいた。
着ている白衣からは、いかにも研究者ですよーみたいな雰囲気が漂っている。
「とりあえず、ソファに座っていい?」
「おー、いいよいいよー? ここを訪ねてくる男の子、テオスくんくらいだよー」
「ありがと。ちょっと3000体くらいのオーガと戦ってきてね。その報酬、テーブルに置いとくよ。」
「ありがとー。3000かぁ、それはすごいね! でもテオスくんなら勝てるかもね!」
「そもそも無事に勝ったからここへ来れたんだけどね?」
僕はそんな、根本的なところを彼女へ指摘する。
「それもそうだね!」と彼女はニッコリ微笑んだ。
そして、ぽふりと僕の隣へ座る。
「それで、テオスくん、どうする? ご飯にする? お風呂にする? それとも宇宙論?」
親しげに彼女は言ってくれるがちょっと選択肢がおかしい。
うん、まぁ彼女とは3年くらいの付き合いだ。
だからだいたいどういう話題を出してくるかはわかっている。
リエルという女の子はとにかく、宇宙についての話や神秘的な話に目がないのだ。
宇宙論のいろいろな学理について話された時があった。
いろいろとスケールがデカすぎた。
「えー、と……じゃあ宇宙についてで。リエルは、宇宙の話はすごく詳しいんだよね?」
「普通のひとよりは詳しいと思うけれど、ね。最近は学会で論文を発表したりしたよー?」
あっこれはガチな研究者だ。
でも彼女が語ってくれる宇宙の話は退屈しない。
それに僕の求めている世界の根源について、なにか重要なカギを握っている気がする。
「そっか。最近の宇宙論……? 学会ではどんな話をしてるの?」
「うーん……宇宙のスケールは無限かどうか。とか、宇宙は無数に存在するのか、とかだねー」
お、なんだかいかにも世界の根源に迫りそうな話題じゃないか。
どういうところに話が落ち着いたのか、けっこう気になる。
「それで……どういう感じに話は落ち着いたの?」
「ふふっ、それはね……?」
リエルは人差し指を口元にあてて、焦らすように答えるのを伸ばした。
僕は心して、リエルが学会で出した結論を聞こうと思う。
もしかしたら、これが世界の根源を知るカギとなるのかもしれない。
もしかしたら、僕の求めていた答えに彼女は到達したのかもしれない。
僕は彼女の答えを期待して待つ。
「結論からいうとね……?」
「うん……」
「よくわかんなかった!」
わかんなかったんかい!
僕はとりあえずどっと疲れた気がしたのでシャワーを借りることにした。