怪文書のその先に 2
遅くなりました!
これからきっとこれくらい間空きますがご了承下さい
「着いたぞー」
車から出たお嬢さんは小さな腕をめいっぱい伸ばした。
「ここまで運転したの、私なんだけど」
「浜松さん、運転ありがとうございます」
「どういたしまして。アドルフ君は偉いわねー。それに比べて――」
と、ここで息をめいっぱい肺に入れ
「縁はお礼も言えないのねーーー!」
と、スタスタと先に行くお嬢さんに叫んだ
いつの間にかあんなに遠くに……
「って、待って下さい!」
どうしてそんなに急ぐんだ……
「縁。プリンは最後よ」
「!?」
浜松さんの言葉を聞くなりお嬢さんはムスーっと顔を膨らませた。
「プリン?ですか?」
「そうプリン。この近くに縁行きつけのお店があるのよ」
あそこの角を右ね。と付け加える。
ああ。なるほど……お嬢さんらしい。
「そう言って、何時も忘れられ、何時も買えないじゃぁないか!」
目に涙をため、フルフルと震えている。
なんだか、妹と重なるな……
「しょうがないですね。僕が覚えてます。だから、安心してください」
「本当か?」
小さい子の扱いはなれてる。
「はい、本当です。今かっても温まっちゃいますし、プリン」
「ふむ、確かにそうだな。アドルフや、ほれ。」
お嬢さんは小指を差し出す。
「……これは?」
「〘指切り〙だ。約束のまじないだな。」
「約束のまじない……」
俺も小指を差し出す。お嬢さんの小指が絡む。
「……何を笑っているんだ?」
「いえ、なんでもないです」
入場料は無料だったのでそのまま日光東照宮に来られた。
想像してたより遥かに広く、大きかった。お墓と聞かされてたからもっと質素かと思ってたけど全然質素じゃ無かった。金色ピカピカーではないけれど装飾一つとっても博物館や美術館で飾られててもおかしくないだろう。
有名な3匹の猿を見たあと、いよいよ例の陽明門に向かった。
「ここですか?陽明門」
「嗚呼、ここだぞ。」
あったあったとお嬢さんは逆柱の一つに手をかけた。
本当にあったんだ。
「千尋!」
振り返ると一人の男性がいた。年齢は三十代前半くらいだらうか。髭は伸ばしっぱなしで服はボロボロ。汚れも目立つ。
思わず眉を潜めてしまう。
「……。」
浜松さんも例外ではないようで、怪訝そうな顔をしている。浜松さんもこんな顔するのか。そんな中、お嬢さんはそんな顔一つせずただじっとその男性を見ていた。
「お嬢さん、あの人誰ですか?」
「千尋のストーカーだ。」
「ストーカー!?」
ストーカーにはいい思い出がない。
「ストーカーとは心外です!僕は千尋を影から守る"紳士"です!」
「紳士?」
「そう。紳士さ!」
そんなの紳士じゃねぇ。ただの押し付けじゃねーか。
心の底からフツフツと黒いものが湧いてくる。
ギュっと握った手が震える。
「……もしお前が千尋の横に並ぶ事を願うのなら、それは諦める事を勧めるぞ。」
お嬢さんだった。このときお嬢さんが口を開かなければ俺はストーカーに殴りかかっていたかもしれない。しかし、お嬢さんは俺に心の中で感謝する時間さえくれなかった。
「千尋には付き合っている男性がいる。こいつだ。」
と言って俺を指さしたからだ。
お嬢さん、一つ言わせてください。なんか雑じゃないですか?!
あと、仮に俺がOKでも浜松さんは乗ってくれないんじゃ――
「そう。彼と私お付き合いしているの。だから、あなた私に付きまとわないでちょうだい」
乗ってきたー!しかも俺の腕に腕組みしてきた。ノリノリだよ!あと別に変な事考えてないからな!本当だぞ!
っ兎にも角にも、そんな俺達を目にしたストーカーは大きなダメージをくらったらしい。
「どうしてそんな男と!?千尋のタイプと全然違うじゃないか!!千尋前に言ってたろ?知的でちょっと手がかかるけど質素で落ち着いてる人がタイプだって!!」
あー。なるほど。それで怪文書にその格好なのか……。
「何方から聞いたのか知らないけど、私、貴方みたいなストーカーが一番嫌いなタイプなの。もう関わらないで。サヨウナラ。」
そう言って浜松さんはその場をツカツカと去って行く。俺達もそれに続く。
ストーカーは……「なんでぇ、」と繰り替えしながら地面とキスしていた。
「これで七十ニ人目だな。いい加減身を固めたらどうだ?」
「イヤよ。まだ独身貴族したいもの」
「そんな事を言ってるから、ストーカー量産機になるんだぞ。」
「まぁー!ヒドーイ」
「その度助けてやってるのは何処のどいつだと思ってるんだ?」
「縁です!」
こんな会話を聞いてつくづく思う。
何処の国でも女性はおそろ……大変なのだな、と
やっと一段落付きました。良かった