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7話

 綴里の走る速さは人を引き摺ってるとは思えないほど早く、高縁は足を動かすので精一杯だった。汗がだらだらと垂れるのが分かるし、脇腹が痛みで抗議の声を上げている。


 一方の綴里は額に汗一つ掻いていない。比較対象がもやしっ子を自称する自分とはいえ、この細身にどれだけ力があるのか高縁は不思議でならなかった。そのうち、いたずらに抵抗したら却って危ないとすら思えてきたので、諦めて身を委ねる。


 だが、一分もしない内に高縁はその選択を後悔することになった。眼前に交差点が見えてきても、赤信号の横断歩道を前にしても綴里は走る速度を緩めようとはしなかったのだ。


「突っ切るわ」


 その一言の意味を理解した時、高縁の右足は歩道からアスファルトへ飛び出していた。流石に腰が引けて、たたらを踏みかけた高縁に、綴里は楽しそうに呟く。


「ふふっ、下手に躊躇したら死ぬわよ?」


 何がそんなに楽しいのか。というかアンタは怖くないのかと言いたいことは山ほどあった。が、思考を中断させるように右から凄まじいスキール音とクラクションが聞こえてきた。悲鳴を上げるトラックを横目に捉える。背筋を這い上がる寒気に急かされ、横断歩道を一気に駆け抜けた。一息つく間もなく、綴里に引っ張られるままに歩道を左に折れた。数秒後、背後からけたたましい警笛音、何かがひしゃげるような金属音や、打ち付けるような轟音が連続して響いてくる。単独とは思えないので、二、三台は確実にオシャカになっただろう。歩行者が見当たらなかったのがせめてもの救いだろうか。


 更にもう一回、横断歩道を渡り左に折れる。そうして寂れた工業団地の通りを二ブロック分走り抜けた後、綴里はようやく速度を緩めた。


「ドライブレコーダーが積まれていないことを祈りましょう」


 そして思い出したように呟く。高縁はしばらく肩で息をした後、汗まみれの顔を上げた。


「流石に笑い事じゃ済まされないぞ。これ」


 恐怖半分、怒り半分。そんな心境だった。人気の無い場所のせいか、自分の声は大きく聞こえる。巻き添えを食らった車の運転手たちもそうだが、下手したらぺしゃんこになったのは自分だったかも知れない。


「考えなしってわけじゃないんだろうけど、せめて何がしたいのか言ってくれよ」


 綴里は何も言わずにスタスタと歩いていく。聞いているのかいないのか。溜息を吐くしか無かった。何なら反対方向に歩きだしてフェードアウトするか。そう思い背を向けてみる。


「止めなさい」


 そんな言葉とともに襟首を掴まれた。高縁から潰れた悲鳴が漏れる。振り返ると綴里は呆れたような表情を浮かべていた。


「構ってほしいの?」

「……むしろ真逆だな。帰っていい?」

「私じゃなくて、付き纏ってる連中に聞いてほしいわ」


 むくれた表情で答える綴里。高縁はその言葉の意味が一瞬理解できなかった。付けられている?確認のアイコンタクトを送ってみる。こちらのどん臭さか相手そのものに苛立っているのか、眉間にシワを寄せたまま綴里はコクリと頷いた。相手が誰か。までは聞く必要はなかった。


 這い上がる悪寒と逃げ出したい欲求に耐えながら、ぐるりと周りを見渡してみる。川津工業団地の中心部で、がらんどうの工場が建ち並ぶ。土日ということもあるのだろう。歩行者どころか車の姿もなかった。この当たりに入り込むのはガラの悪い連中か廃墟マニアくらいで、日中に出くわすような相手ではないし、そういった連中に付きまとわれる覚えもなかった。


「脅かすなよ。人っ子一人いないぞ」


 何を言い出すんだこの電波。高縁は茶化すような口調を意識せざるを得なかった。怒らせるなり困らせるなりして、今起こっている事態をおふざけやジョークの範囲に落とし込んでしまいたかった。綴里はそうやって目を逸らすことを許すほど甘くはないことは判っていたとしても、そうせずには居られなかった。


「うかうか姿を見せる尾行者なんていないわ」


 予測していた通りの言葉が飛んできた。高縁は最期の抵抗を試みる。


「じゃあ、アンタはどうやって察したんだよ」

「最初は直感だったけど」


 綴里が歩いて来た道に視線を巡らす。相変わらず人の姿は見えない。無駄だと悟ったのか、再び歩き始めた。


「横断歩道を無理矢理渡った時、玉突き事故のタイミングがおかしかったとは思わない?」


 確かに数秒ほど奇妙な間があったが、ソレだけで断言出来るようなものなのだろうか。


「思い込みだって言いたいんでしょう?」


 コチラの心情を見透かしたように綴里が呟いた。高縁は「まあ」と「うん」のキメラのような声を漏らす。綴里は肯定と受け取ったのか「気にしてないわよ」と小さく笑う。一瞬だけ遠くを見た表情は恐らく演技なのだろうが、申し訳なく思えてきた。


「嘘つきなのはお互い様だものね」


 前言撤回。一言余計に言える余裕があるのか。と高縁は喉まで出かかったフォローの言葉を胃の中へ葬り去る。


「まだ証拠はないわ。ソレを確認するの」


 綴里は「そんなこともわからないの?」と言わんばかりの溜息。なんか腹が立ってきた。


「左折法って知ってる?」


 聞き慣れない単語に高縁は首を傾げた。


「連続して交差点を左折し続けることで尾行の有無を特定するの。確実を期すなら最低三回っていうのがセオリー」

「そんな簡単に特定できるものなのか?」

「意外と引っ掛かるものよ」


 経験があるのか。と言いたくなったが、止めた。悪い電波を受信してしまったのだろう。それに、高縁はより重要な事に気がついていた。結構長い距離を走り抜けてきたが、角を折れた回数は二回だけだということに。


「あと一回。アレで試してみましょうか」


 綴里は歩道橋を指差して、楽しげな表情で告げる。少し歩く速度を落として横並びになると、「言う通りに動いて」と囁いた。どうせ拒否権も無いのだろう。高縁は頷く。


 かつては盛んだったトラックの行き来を遮らないよう、整備されたらしい歩道橋。今では渡る人は愚か、点検すらろくにされていないのだろう。雨の黒ずみが染み込む階段をゆっくりと上がっていく。


「寂れてるわね…….」


 綴里はそう呟く。横目で欄干の向こう、工業団地を見下ろしているようだった。何処も休日というだけでは説明出来ないくらいに人の気配は感じられず、荒れ放題。という方が適当かもしれない。この道路から見える範囲に限らず、川津地区全体がそんな感じだ。黄ばんだ窓や汚れた落書きだらけの壁がいたる所に溢れている。


「昔は結構栄えてたらしいけどな」


 水城湖の豊富な水脈が、時計やILSの工場を呼び寄せていたらしい。しかし、高度経済成長期に作られた工場群は度重なる経済危機や産業空洞化、人口減少に伴う労働力不足で多くが操業を止めてしまっていた。結果、今では動いている工場より廃墟の面積のほうが多い始末だ。向こうのバンテックの工場群に精気を吸いとられたようにも見える。


「危ないから更地にしちまえば良いのに」

「そんな価値もないのよ」


 語気が強く、吐き捨てるような綴里の口調。歩道橋を渡る歩調が速まる。


「更地にするにもお金がかかるし、したらしたで税も重くなる。だったら朽ちるに任せればいい」


 高縁はその口調に、どこか憤りとも同情ともつかない感覚があることに気付いた。


「使いようのないボロ屋。他人にとってはどうでもいい筈なのに、自分で命を終わらせることが出来ない。そうして蛇の生殺しを強いられるの」


 まるで自分のことのように語っている。その言葉の重みは、高縁にある一つの可能性を考えつかせた。


「アンタ廃墟マニアだろ。大久野島とか上岡小学校とかでご飯食えるタイプだ」

「……なんでそうなるの?意味がわからないんだけど」


 綴里からゴミを見るような視線が跳ばされてくる。初めて合ったときの何とも言えない感覚を思い出しつつ、高縁は「隠すことはない」と諭す。


「俺だってアニメの作画の内容いかんによってはご飯食べれるし」

「……ごめんなさい。日本語の筈なのに理解出来ないんだけど?」

「いや例えば……」

「具体例挙げてって意味じゃなくて!」


 綴里は、「はぁぁぁ……」とこれ見よがしな溜め息を吐いてみせた。凄まじく軽蔑されているのは想像に難くない。だが、高縁には廃墟と自身を重ね合わせたりする理由など、聞ける勇気などなかった。


「貴方と一緒に居るとこ、後ろから見られるのが恥ずかしく思えてきたわ」


  突然の一言。高縁は意味するところが咄嗟に察知できなかった。一瞬の間を置いて、心臓が跳ね上がる。綴里は再び、気味の悪い微笑みを浮かべていた。試すような脅かすような、そんな微笑み。


「驚かすなよ……」

「嘘だと思うなら、後ろ向いてみれば?」


 高縁は少し息を吸い込んでから、勢いよく後ろを振り返った。そして心臓が止まりそうになった。


 歩道橋の向こうの端。今さっき通ってきた階段との結節点に人が立っていた。身長は自分とほぼ同じ、たぶん男。とアタリをつける。服装はサングラスを掛け、厚手な長袖のスポーツウェア。フードを掛けているので肝心の人相は判らない。不審な様子は見た限り見受けられなかった。


「ただのジョガーじゃないか」


 高縁は震えた声で呟く。しかし、綴里が弛緩した恐怖を張り直すかのごとく、囁く。


「わざわざこんな気味の悪いところを走るものかしら?それに、走っている最中に歩道橋なんて昇る?交差点があるわけじゃないのに」


  生暖かい空気の震えが、高縁には氷のつぶてのように染み込んでいいった。


「雨でも無いのに、フードを被ってるなんておかしいと思わない?」


 言われてみれば。高縁は件のジョガーをまじまじと見詰める。向こうはこちらの視線に気づいているはず、なのに微動だにしないのも、疑念に拍車をかける。まさか、いきなり距離を積めてきたりしないだろうか。


「ごめんなさい。道を間違えてしまったわ。戻りましょう」


 綴里はさも当然のように道を引き返し始めた。高縁も慌ててその後を追った。ジョガーに肉薄するような形になる。


 なるほど。こちらが尾行に気づいている事は馬鹿でも分かる。そうでなくても顔を見られた以上、付きまとい続けるのは格段に難しくなる。

 

  ただ、高縁は少し引っかかることがあった。あのジョガーが単なる尾行ではなく、凶器の類いを持っていたとしたらどうする?


「見てらんないな。俺が案内した方が早いよ」


  気付けば高縁は歩くペースを速めて、綴里の前に出ていた。こちらの動きに呼応するかように、ジョガーも距離を詰め始めた。


「一応言っておくけど」


 高縁は相手を見据えたたまま、口を開く。我ながらクサい行動だなと思ったが、躊躇は無かった。


「ヤバそうって思ったら逃げろよ」

「言われなくてもそうするつもりよ」


 高縁は苦笑するしかなかった。自意識過剰も甚だしい。むしろ「楽にしてあげる」等とのたまい追い討ちを掛けてきそうだ。一応、すごく昔に夏美姉から教わった護身術を思い出そうとしてみたが、教え方が超下手クソだったこと以外なにも覚えていなかった。自分の記憶力のなさが嫌になる。そんな下らないことを考えていても、一歩一歩お互いの距離は縮んでいく。。


 すれ違うまであと五歩。もし自分が刺されるなり殴られた時の様子を想像してみる。できればサクッと死ぬなり昏倒できないものだろうか。


 四歩。正直言うと足が震えてきた。だが、啖呵を切ってしまった手前、立ち止まったり歩幅を小さくしたら負けな気がしてくる。


 三歩。目を合わせたくないのと、警戒も兼ねて相手の手に注意を払う。後ろ手に組んでいた。何か隠し持っているのか。


 二歩。文字通り手を伸ばせば届きそうな距離。積みっぱなしのプラモや未視聴のアニメの録画に思いを馳せる。


 一歩。ほっといても心臓が破裂して死ぬんじゃないかと思うくらいバクバクしている。


 すれ違う。高縁はその時ぞわりと鳥肌が立つ感触を味わった。コイツは自分の顔を睨んでいる。サングラスで眼の動きは追えなかったが、それでも確信が持てるような鋭い感覚があった。殺気、とでも言うのだろうか。もっとも二人の顔面が近づいた一瞬、一秒にも満たない時間が、何倍にも長く感じられた。そしてそのとき、ジョガーの唇がゆっくりと動くのを、高縁は確実に見た。


 ミ・ハ・ッ・テ・イ・ル・ゾ。と。


 誰を?何のために?わかりきった答えでも、高縁は問い質したい衝動を必死に堪えた。ジョガーが離れていくと、寒気が恐怖を伴いながら這い上がってきた。高縁はそれを振り払うように手足を動かす。


「拍子抜けね。面白くないわ……ちょっと、大丈夫?」


 流し目で去っていくジョガーの姿を眺めつつ、綴里が聞いてくる。だがその声も、高縁には届かなかった。


 それからしばらくして、高縁は幹線道路のバス停のベンチに腰掛けていた。高縁はあの歩道橋からどのようにしてココまで来たのか、正直覚えていなかった。傾いた日差しが見えなければ、瞬間移動したのではないかと思いたくなった。一息つこうにも、行き交う車や歩行者の中にあの忌々しい姿がないかと考えると、とてもではないが気を緩める気にはなれなかった。


「直央巳君。少し落ち着いたほうが良いわ」


 首にヒンヤリとした感触。高縁はみっともない悲鳴を上げてしまった。見ると、綴里がペットボトル飲料を差し出している。直ぐ近くに自販機が並んでいる場所があったので、そこから買ってきたのだろうか。


「ああ。良いよ、別に……」

「あら、私の施しを拒むなんて、偉くなったものね」


 いや、「施し」て。乞食か何かか俺は。


「それに、初日バス代建て替えてもらったでしょ?そのお返し」


 そういえばそんなことも有った気がする。高縁は今の今まですっかり忘れていた。


「他人の善意を無下にするのと、謙遜は違う。覚えておきなさい」

「はは……。どーも」


 妙なところで誠実だなぁ。と高縁は思いつつ、ペットボトルを眺める。まさか毒でも入っていないだろうか。と警戒したのだが、そんな疑念は想定外の方向からの一撃で吹き飛んでしまった。


 ペットボトルには水滴をモチーフにしたキャラが刻印されていて、中身は果汁25%のりんごジュースと書いてあった。綴里の手にも全く同じものが握られているが、すでに中身が半分無くなっている。どうにも彼女の済ましたイメージには似合わず、高縁はまじまじとその姿を見つめていた。


 不審に思ったのか綴里が「どうしたの」と聞いた時、高縁は「子供舌だなぁ……て」と偽らざる本音を口にしてしまっていた。慌てて口をふさぐが、綴里の顔に陰が宿り、ペットを握る手に青筋が浮かんだとなってはもう遅い。


「いや、あはは!美味しそうだなぁ!いただきまーす…...の、で……許してください。お願いします」

「これが好きで悪い?オタク趣味よりもよっぽど健全だと思うけど」

「……好物なのか」


 傍目にもわかるとはいえ、本人の口から言われると驚く。馬鹿にされていると感じたのだろう。ペットボトルの水滴くんがグシャリと潰れた。


「直央巳君。あなたの前には二つの道が有るの」


 綴里は笑ってこそいるが、眉がピクピクと震えていて憤りの感情が滲み出ている。心なしか髪の毛が逆だっている様に見えた。正直さっきの尾行よりも鋭い気配を出している気がする。


「土下座」

「はい?」

「制裁」

「制裁?」

「どっちが良い?五秒あげる。時間切れなら私が決める。五……」


 指をボキボキと鳴らす綴里。選択の余地はなかった。高縁が「土下座」と言おうとした瞬間「ゼロ」という声が聞こえた。


「待って!?あと四秒!!」

「四捨五入すれば四は切り捨て。ゼロよ。制裁ね」

「一桁に端数は無いだろ!?」

「遺言はそれだけ?」

「ほんっと勘弁してください。お願いします……」


 生まれたての子鹿のように震えている高縁。綴里はそれを肴に残りのジュースを飲み干す。くうぅ。と一息。取り敢えず怒りは収まったらしく、綴里は仕切り直しと言った雰囲気で呟く。


「さて、直央巳君?」

「はい。何でございましょう」

「アイツに話しかけられたでしょ」


 緩みかけた空気が引き締まる。高縁は「ああ」と発したあと、ジュースで口を湿らせた。


「見張っているぞ。って」


 綴里は顎に手を当てて、考え込んだ。深い意味は無さそうだが、彼女から見ればそうではないらしい。


「なぁ、やっぱりバンテックの差し金か?」

「ええ、多分」

「だとしたら、これからどうするんだ」

「これ以上二人一緒にいるのはマズイわね。今日は別れたほうが良さそう」

「答えになってねーよ」


 高縁は語気を強める。本気で抵抗しなかったとはいえ、藪蛇もいいところだ。流石に文句の一つも言いたくなった。


「平気で尾行なんてやる連中だ。家族とかに危害が及ぶかもって考えられないのか?」

「他人の心配なんてしていられないわ」


 呆れて声も出ない。薄情とはこういう事を言うのだろう。


「綴里さん。アンタいい性格してるよ。」

「そう?ありがとう。でも……」


 綴里はそこで一言間を置いて、言った。


「貴方も私と同類だと思うんだけど?」


 高縁は腹が立った。綴里の支離滅裂な言動に対してではなかった。「何言っているんだよ」と呟く傍らで、その見透かすような視線への恐怖や虚勢が怒りのような形で発現してるのだと思った。一言でまとめるなら、図星を付かれた。そんな言葉が脳裏を過る。何もやましいことは無い筈なのに。


「ふふっ。幼馴染さんが危なくなっても逃げ出さないのかしら?」

「なんで汐美の話になるんだ」

「だって、隣に住んでいるんでしょう?……あらあら。すごい顔色。近くの病院まで運んであげましょうか?」


 芝居がかった口調。高縁は必死に首を振る。その有様が滑稽なのか、綴里は笑いを噛み殺していた。


 ああ。この女は。高縁は思い出す。こんな回りくどい言い方が大好きだったっけ。どうして知っているのか。聞いてもはぐらかされるのだろう。わかっているのは一つだけ。


 お前が100%味方だとは思っていない。だが忘れるな。バンテックが私に対しそうであるように、私もお前に対してアドバンテージが有るのだぞ。と。宣戦布告とも牽制ともつかない宣言。高縁は綴里を睨みつけることしか出来なかった。



「……警告のつもりか」

「それで終わればいいけどね」


 見計らったようにバスが滑り込んできた。バスに乗り込む振り向きざま、綴里は笑いながら言う。


「またお話しましょう」


 聞きたいことも言いたいことも山ほどあった。だが、整理と決心がついた頃にはドアが二人の間を隔てる。そして、バスは走り去っていった。

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