6話
「あら、一日ぶりね。ダンゴムシ君」
綴里ありすがそこに立っていた。ストップバーから身を乗り出して、高縁につぶやく。
どうしてここにいるのか。皆目見当がつかず呆然としている高縁に、チンピラ警備員ふたりが「知り合いか?」と言った視線を向けてくる。返答に窮している高縁をよそに、綴里は「そうなんです」と呟いた。
「お友達が入院してるんです。お医者さんの話だと危ないって…..。けど、ご家族以外入れてくれなくてそれで」
「わざわざ裏口から入ろうとしたってわけか?」
有りもしない事実を勘ぐりする警備員に、綴里は「はい……」と頷いた。目には涙まで溜めている。高縁は自分の眼か頭がおかしくなったのかと思った。話している内容が支離滅裂なのもそうだが、あのサディステックな人間と同じ個体とは思えない。
急展開に頭が追いつかず、何の話だよと言いかけた高縁の左足に激痛が走る。綴里がグリグリと足を踏んで、こちらを物凄く怖い顔で睨んでいた。「黙っていろ」ということか。
この間コンマ数秒。警備員の方へぱっと振り向いた顔は、嘆き悲しむ淑女の顔に戻っている。汐美が彼女をお淑やかだ。といった理由が解った気がした。猫を被るのが物凄く上手いのだ。それでもってその演技で綴里はどうにかして病院の敷地内に侵入を試みていて、高縁を即席のダシにしているらしい。
「時間外ですし、許される話では無いことはわかってるんです。でも……」
上目遣いで警備員を見つめる綴里。そうこうしている内に手で顔を覆って嗚咽し始めた。肩を震わせるいたいけな少女に、警備員二人はオロオロとしながら、「わかったわかった」とだけ言って高縁に振り向いた。
「おいボーズ。一応聞いておくが本当なのか?」
言質さえ取れば入れてやる。と言った感じの警備員の視線と、指の間からこちらをじっと見つめる綴里に気圧されて、高縁は思わず「ええ」と言ってしまった。ヤバイ。肝が冷える感触を味わいながら慌てて二の句を継いでゆく。
「あ、いや……!ちがうんです!!」
高縁はバーをくぐり抜けて、綴里の右手を掴む。驚いた顔は見ないようにしながら、高縁はデタラメにある事無い事を思いつく限り話していった。
「彼女ちょっと頭がおかしくて…、ほらストックホルム症候群っていうんですか?なんかいる筈の無いアレを妄想しちゃうらしくって…むしろ彼女は患者の方なんです。……でも今日は診療日じゃなくて……えっと、その、担当医と今後の方針について話し合うだけだから来なくていいって言ってたんですけど….とにかく、えっとえっと……、ご迷惑をおかけしましたっ!!ほら、綴里さん!帰ろう!」
ポカンとしている警備員二人にそれだけ言い残して、高縁は綴里の腕を強引に引っ張る形で歩き出す。意外なことに抵抗は無かった。そのかわり、道のりに暫く行き、角を曲がったところで盛大に背中を蹴られた。
「何で私の名前知ってるのよ?気持ち悪いんだけど?」
いっそ清々しいほどの変わりっぷりに、高縁は噴き出してしまう。
「幼馴染から聞いた。クラスに名塚ってヤツいただろ?ソイツが話してた」
ああ、あの人ね。と綴里は合点がいったようだった。意外といった表情は、もう何回もされているので慣れている。
「クソ虫に構うなんてお人好しなのね」
「またそれかよ。俺は高縁直央巳って名前があるんだが。名字は高い縁って書く。下はまぁ適当でいいや」
「別に聞いてないし……まぁいいわ。時にあなた、空気読めないって言われたこと無い?クソ虫君」
無視かい。と高縁は思う。だが憤りもすぐに収まった。この手の人間には何言っても覚えてもらえないものだ。
「他人の不法侵入手伝うのを空気読むとは言わねーよ」
「不法侵入?門から入るのが?」
通行人の視線が突き刺さるのも構わず、高縁も負けじと言葉で応戦する。
「正面から入らないのは後ろめたい理由があるからだ」
綴里は不機嫌そうな表情で沈黙を貫いている。
「なんであそこにいたんだ?」
頭の方は判りかねるが、見たところ体調も悪くなさそうだ。病院を訪れるような理由は見当たらない。なので、昨日の言動から綴里が病院に来た理由を推察してみる。
「陰謀論の箔付けか何かでもしに来たのか?」
そう言ってみると、眉間にシワを寄せたまま、「じゃああなたはどうなの?」と言い返してくる。人をダシに使っておいて理由を聞かれたら黙秘。高縁は少しイラッときた。
「正面玄関が塞がってたからだよ」
「私も同じ理由よ」
そう言うと綴里はスタスタと先を歩いていく。高縁はむぅ。と短く唸った。何か上手い感じにはぐらかされてしまった。
「それに、私はあなたがどうして病院にいたか聞いたつもりだったんだけど? 少なくとも、風邪は引きそうにないし」
それを言われると高縁は言葉に詰まってしまう。自分から話題を振った以上、同じ質問を聞かれて返せないのでは募穴も良いところだ。
正直に話すべきかとも思ったが、高縁は躊躇した。バイトの内容が内容だけに守秘義務もあるし、あなたの体の中に入れられてるそれは本当に医療目的なのかしら?と妙な勘繰りをかけて来るのが容易に想像出来る。
迷った挙句、「バイト」とだけ答えた。「本当に?」と綴里が前を歩きながら聞き返す。高縁は何故そこに食いつくのか理解できなかった。まさか、これだけでこっちの特殊な事情を察せるとは思えない。
「そ、便所掃除で時給810円」
「……そういう事にしといてあげるわ」
どこか含みのある言い方だった。そういう事ってどういう事だよ。と言いかけた高縁に、綴里はふんと鼻息を鳴らしてから言った。
「お互い様ってことね」
隠し事をしているのはお前もじゃないか。とでも言いたいのか。
高縁は思い出す。つい昨日、綴里がこっちの心中を的確に言い当ててきたことを。少なくとも口から出た内容に嘘があることは察しているのだろう。
次にどんな言葉が飛んでくるか判ったものではない。高縁は気が気でなかった。だから、綴里が「ところで」と発したとき、ビクリと肩を震わせてしまった。
「今のすごい間抜けだったわ。もう一回やってくれない?」
いつの間にかこちらを向いて、スマホ片手にクスクスと笑う綴里。高縁はそっぽを向いて「何の話だ」と精一杯の保身を試みる。綴里は「まあいいわ」とうそぶいた後、踵を返し、また歩き始める。
「入り口の騒ぎ、凄かったらしいわね」
高縁は既視感を感じながら「ああ」と呟く。昨日と同じ流れ。そういって彼女は如何にも本当のことのようにデタラメの都市伝説を話して、高縁を不安にさせたのだ。だが、今回は違った。
ついさっきの出来事は白昼夢では無かったということが判った。そして、それが一体何だったのか、高縁は知りたかった。綴里が話そうとしていることに、なにかヒントがあるかも知れない。
「らしいってことは直接見てはいないんだな」
「ええ。私が来たときはもうシートが被せられてた」
他人から聞いたのかインターネットの噂か。だが難癖をつける気は起きなかった。高縁は次の言葉を待つ。
「周りの人が話していたのだけれど、凄く顔色の悪い患者が突如苦しみだして、倒れたらしいわ」
「病院に辿り着いて死ぬとはねぇ。救われない話だな」
ここで終わればただの後味の悪い悲劇だが、そこで終わり。という話ではないだろう。それを証明するように綴里は続ける。
「その人、隣の席にいた人に噛み付いたらしいって」
噛み付いた。高縁はその一言を聞いて、今まで聞いてきた諸々の話が、どこかで繋がったような気がした。それを察したのか、こちらを向いた綴里の口角が心持ち上がる。
「何か心当たりがあるみたいね」
「いや、別に……」
「噛みつき病」
思い浮かんだことを正確に言い当てられたことに驚く一方、納得している自分もいることに気づく。綴里がバンテックに抱いている不信感と、この噂は確実に関係がある。それに噛みつき病などというオカルトじみた内容なら、綴里の性格からして耳に入れていても無理は無いだろう。
「じゃあ、なんだ」
高縁は少し考え込んでから口を開いた。流石に突飛すぎる考えが浮かぶ。
「例えば、バンテックが持っているウィルスか何かが漏れだしてる。とか言いたいのか?」
「根拠は?」
「根拠って……そう考えるしかないだろ」
綴里はつかつか足音を立てながら「でも」と続ける。
「患者、というか噛みつき病は外から来たのよ?おかしいとは思わない?」
「内部では揉み消しているだけ。通院あるい入院歴のある可能性がある。市内にデカイ病院はここともう一つだけだから自然と集中する。確定じゃないが否定も出来ない」
って、何で俺が説明しているんだ。立場が逆じゃないか。と高縁は首を捻った。その一方で綴里は「結構」とだけ言う。
「結構ってなんだよ。大体事実って認めた訳じゃないだろ」
「そうね。客観的証拠もない。写真の一枚くらい、誰か撮っててもおかしく無いのに」
写真。という言葉が引っ掛かった。高縁はスマホを取りだす。起動するのはツイッター。
「歩きスマホはマナー違反よ?よほどの事がない限りやらない方が良いわ」
茶化すような口調。怒っているというよりは、敷いたレールにようやく載ってくれた。という事だろうか。綴里がどこに誘おうとしているのかは、高縁にも予想がついた。
高縁は「バンテック総合病院」と検索してみる。宣伝アカウントのbotツイートがタイムラインを流れるばかりで、それ以外のツイートは3日前が最後。「噛みつき病」は昨日見た状態のまま。
事故、トラブル、死亡、倒れた。そんなネガティブなワードは全く見つけ出せない。
「いくら田舎とはいえ、それなりに出入りのある場所よ?ツイートの一つや二つあっても良いとは思わない?」
「ツイッターつったって世の中を移す鏡じゃない。話題にならない事の一つや二つあるだろ」
「そ、営利目的のSNSだもの」
綴里は高縁に後ろ手を伸ばしてきた。スマホが握られている。見ろ。ということだと解釈した。画面にはツイートがピックアップされている。写真が添付されていて、サムネイルからバンテック総合病院のロビーだと判った。そのうちの一枚には例の「冷凍マグロのような袋」が運び出される瞬間が写っていた。
「なんだよ。あるじゃないか」
高縁はそう呟いた。脅かしやがってと毒づいてみるが、あの光景が現実だった。ということを自覚させられて、心臓が早鐘を打ち始める。
「あなたので探してみなさい」
指になんとか力を入れながら、検索欄にアカウント名を入れてみる。
「あれ……?」
高縁は首を傾げた。アカウントはあった。ツイートを覗こうとすると「このアカウントは永久凍結されています」というポップアップが浮かび、クリックするとトップページに戻されてしまった。
「どうだった?」
綴里が問う。わかってるくせに。と心中で思いながら高縁は答えた。
「凍結されてた。バンテックの仕業だとでも?」
その一言は直感だった。「多分そうでしょうね」と振り向く綴里の顔はどこか満足げで、高縁は綴里が出した試験をパスしてしまったことを悟る。
「まさか。利用者のツイートを消去しまくってたら商売が成り立たない」
「運営企業にお金を出しているのはユーザーじゃなくて、広告を出している会社よ?」
「……じゃあアンタは一体どうやって集めたんだ」
「botよ。ツイート収集用のね。インターネットに転がってるのを拝借したわ。多分先方も同じようなことをやってるんでしょうけど」
さも当然のように言ってのけた綴里は、スマホをタップする。すると、同じようなスクリーンショットがいくつも表れるのが見えた。ツイート内容やタグを見るに、いずれも噛みつき病に関する物だった。しかし高縁のタイムラインに並ぶものとは決定的に違うところがある。
写真があった。最初は訳が判らなかったが、枚数を重ねていくうちに高縁は気付く。時間はここ二ヶ月程度。場所は様々だが、背景は見覚えがある場所ばかり。水城市内。高縁の住んでいるマンションが後ろに写っているものもあった。
「なんだよ、これ……」
けれど、それよりも遥かにショッキングな内容が高縁の目に入る。 血だ。道路、壁、ベンチなど様々な場所にベッタリと張り付いている。そして、それらと一緒に救急隊員らしき人間が、見覚えのある黒い袋を運び出そうとしている。作業着には自治体名の代わりに、「バンテック」の文字。そんな写真が何枚も何枚も綴里のスマホに納められていた。
「随分趣味が悪いな」
脳が追い付かず、出て来た言葉はそれだけだった。誰の血なのかは考えたくなかった。
「肝心なのはこれからよ?」
綴里は眉一つ動かさずスマホを操作する。今度は人の写真だった。数枚のそれはアングルこそ別だが、同じ人、血だらけの人が写っている。手振れやぼやけが酷くて解らないが、両腕をだらんとしていて、虚ろと言う表現がぴったりだ。まるで__、
「ゾンビみたいだな……。死んでるのか?」
「生きてるんじゃないかしら。立ってるし」
だとしても、怪我やただの病気ではこうはならないだろう。昨日聞き流した噛みつき病の噂を、高縁は必死に思い出してみようとするが、ダメだった。激しい後悔に襲われる。
「一応聞いておくけどさ」
高縁は恐る恐る繰り出す。機嫌を損ねる事への躊躇と言うよりは、そうだと言ってくれ。という思いのほうが強かったが。
「コラージュ画像とかじゃないよな?」
「ええ。これがアップロードされたのは一昨日。流石に少しは拡散されたみたい。高校の部活が中止になったの、何時だったかしら?」
唯一の希望も潰され、高縁は口を閉ざすしか無かった。偶然とまとめるにはタイミングが良すぎるし、昨日とは違いある程度証拠と呼んでよいものが出揃っている。陰謀論や都市伝説とはそういうものだ。と割り切ることもできるかも知れないが、そうする気にはなれなかった。
「なぁ」
高縁はふと呟く。
「なんで俺にそんな事を話すんだ?」
疑問だった。バンテックが本当にそんな事をしていたとして、綴里は何をどうしようというのだろうか。強請って金を分獲る。というわけでもあるまい。
「別に。なんとなく、よ」
「なんとなく?」
「そう。都市伝説の類が好きなんだけど、そういうのって誰かに話して初めて面白くなる。って思わない?」
確かに。この手の小噺は知っていることを自慢したり、話して反応を伺うものだというのは理解出来る。口裂け女は噂の広まる現象を解明するため。という説もあったか。
「私の想定した通りの反応をしてくれるから。話してて面白いわ」
「おもちゃとか道具に抱く感覚だな、それ。見下してらっしゃる?」
「ほら、こんな風に」
そういって綴里は可笑しそうに笑った。おそらく本気で思っているのだろうと思うと、釣られて笑う気にもなれなかった。
また暫く歩くと、視界の端にバンテック総合病院の正面入口が見えた。裏口から敷地沿いに歩き続けてきたので、ここに行き着くというわけだ。そこにはいつもの喧騒があった。人が行きかい、バスがロータリーに行列を作っている。ガラス張りから見渡せる病院の中も平常運転そのもの。それこそ先程見た光景が夢にすら思えてくる。
夢じゃないんだよな。高縁は俯いた。ガラス一枚隔てた場所に、ついさっきまで死体らしきものが転がっていて、得体の知れない何かが進行していた。その事実が恐ろしかった。
そして、モニカもそこに居た。高縁にとっては下手な知り合いより長いだった彼女も、それに関わっているのだろうか。憂鬱な感情が心を満たしていく。
「よし、ここでお別れだな。事情は聞かないけど、頼むから病院の中で暴れたりしないでくれよ」
高縁は思う。こいつだってそうなのだろう。綴里は病院に用があると言っていた。ここから入れれば自分にはもう用は無い筈。それに、帰宅するためには今発車待ちしているバスに載らねばならなかった。
「あら、ご心配無く。今日は帰るつもりよ。大体目的は達成出来たしね。それより……」
綴里の顔から表情が消える。縄張りに踏み入られた獣のような雰囲気だった。
「事情ってどういう意味よ」
「そのままの意味だよ」
高縁は答えた。付き合うことは無いと頭では判っているが、もう遅い。
「最初にそっちの事情を聞いたら、はぐらかそうとしただろ?その割には噛みつき病の話は自分から振ってきた。おかしいよな?」
確認の意味を込めて高縁は一度言葉を切った。綴里は顔色一つ変えずにこちらを見つめている。
「噛みつき病について調べているのは本当だろうな。でも、それはバンテックに関する「本当の目的」に近づくための一手段か、表向きの理由だ。」
「なんでそうなるのかしら? アニメとか、陰謀論の見すぎじゃない?」
「都市伝説が好きってキャラにしては聞き捨てならないな。それ」
綴里の能面に、かすかに動揺が浮かんだ。高縁は畳み掛ける。
「噛みつき病の話はもう都市伝説の域を超えてると言ってもいい。証拠も見せてもらった。でもそれなら、然るべき公的機関やマスコミ、最悪でも都市伝説系のコミュニティーなんかに一報入れるべきだ。それをしないのは何故だ?」
「それは……」
「冗談でも、バンテックの中から出てきた俺に言うべきじゃない。バイトの話だって信じちゃいないんだろ?」
一息に言い切って、高縁は綴里の顔色を伺う。そして、心臓が止まりそうになった。
綴里は笑っていた。値踏みするように目を細め、歪んだ口端から泡のように笑い声を漏らしていた。さっきの笑顔と表情筋の動きは同じ筈なのに、気圧される。こっちが素なのだろう。高縁にはなんとなく判った。綴里の笑い声が治まるまでの間、高縁の心臓は悪い意味で高鳴りっぱなしだった。
「ふふっ…。やっぱり面白いわね。あなた。あー…名前なんだっけ?忘れちゃったわ」
「直央巳。高縁直央巳だ」
高縁は思ったことをバカ正直に言ってしまったことを後悔した。もっとも、恐怖と緊張でそれどころでは無かったし、誤魔化したところで直ぐバレただろうが。
「とにかく、今日はもう帰るから。また今度な」
足早にバス停に急ぐ。この場から、綴里から一刻も早く距離を置きた。そうして、バスのタラップに片足を乗せた時、それまで黙って着いてきた綴里は、思い出したように呟いた。
「直央巳君」
「なんだよ。安心しろ。誰にも言ったりしないから」
万が一バンテックに喧嘩を売る羽目になったら文字通り命が危ない。噛みつき病とバンテックの噂について、気になるかならないかといえば圧倒的に前者。だが、高縁はこれが最善の選択だと自分に言い聞かせる。綴里にはそれなりのバックグラウンドもあるのだろうが、だとすれば尚更に軽々しく首を突っ込むようなことはしたくない。
こんな感じの事をオブラートに包んで伝えよう。そう決心した直後、高縁は横に凄まじい勢いで引っ張られた。完全に不意打ちだった。バスのタラップから足を踏み外してた高縁は、そのまま数メートル引き摺られてからようやく足が地面を蹴れるようになる。
「何すんだよっ!」
と怒鳴った高縁に、綴里は怪力に見合わぬ涼しい顔のまま呟く。
「気が変わったの。もう少し付き合って貰うわ」