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3話

 六時間目とショートホームルームが終わっても、西水城高校二年C組の教室からは人は消えることは無かった。というよりは二年生全体がそんな感じで騒々としている。理由は勿論、四時限目に突如二年A組の教室に現れた転校生についてだった。


 結局別のクラスになったか。と高縁は机から顔を上げながら思う。四時限目、古文の最中にダウンして、うつらうつらを繰り返しているうちにこの時間だ。我ながらどうしてこうも眠れるのか。ほぼ白紙の古文のノートと教科書を仕舞っていると、さざ波のような話し声に混じって近づいてくる足音に気づいた。サボり癖の矯正も諦められ、クラスの中で、いや、学年の中で空気と化して久しい高縁に態々声を掛けに来る人物など一人しか居ない。


「ナオミン!また学校サボったなぁ!?」


 教室中に響き渡る大声。周囲のざわめきが一瞬止まり、また再開される。この反応も含めて、同じやり取りをかれこれ七、八年は続けている気がする。後ろ目で見慣れた姿を確かめて、高縁は振り返った。


「……「ナオミン」は止めろって。いつも言ってるだろ。汐美」

「止めて欲しいなら心を入れ替えるべきだよ。ナ・オ・ミ・ン」


 と、いやみったらしい口調と共に人差し指を左右に振っている少女がいた。彼女は名前を名塚汐美(なづかしおみ)という。高縁とは小学校から一緒で、もっと言えば生まれてこのかた住居も隣同士。性格こそインドアな根暗に柔道部の快活少女と正反対だが、気心の知れた幼馴染だ。ただ、高縁は「ナオミン」と呼ばれるのがものすごく気に食わない。なんか南洋の植物みたいにで間抜けに聞こえるし、それを指摘すると面白がって事あるごとにナオミンナオミンいうので鬱陶しくなりつつある。


「んで、何の話?」

「何の話って……決まってるでしょー?」


 もったいぶらすような言い方とは裏腹に、今直ぐにでも喋りたいようだ。短いポニーテールの房をくしゃくしゃと弄る癖が出ている。最も顔付きも数週間ぶりに獲物を見つけた肉食獣のそれで、高縁に思わず一歩後ずさった。概ね話題は想像が付くが、ここまで盛り上がれるものなのか。


「転校生のことだろ?A組に来たんだって?」

「なんだ、知ってたんだ」

「知ってたんだ。ってオイ」

「いやボッチだし。毎日船漕いでるから知らないかなって」


 幾らボッチでもそれくらいの情報収集能力はあるわ。高縁はそう呟こうとして、喉に引っかかるものを感じた。


「そう言えば、全然噂とかになってなかったな」

「でしょ?午後になっていきなり用務員さんが机持ってきたと思ったら。ビックリだよ」


 転校生と言うのは大抵、顔を合わせる前にはその存在がどこからか漏れ出すものだ。教員にも顔が広い汐美が当日になっても知らなかったとは。考えすぎかな。と高縁はそう思うことにする。


綴里(つづり)さんって言うんだね。綴るっていう字に里で良いんだよね?」


 なんで確認調何だよ。と思いつつも高縁は、へー。と呟く。綴里という性は珍しいが、県南の方に多かった気がする。


「で、その綴里さんがどうかしたのか?」


 高縁は努めてそっけない態度を取った。最初、下の名前は何ていうのさ?と聞こうとしてしまったのは一体どうしてだろうか。第一聞いてしまえば弄られること確定なので、自制心が利いたことに感謝する。一方、汐美はニヤケ面を崩さずに「やだなー…とぼけるかー…そうですかー…」と言うと後ろ手で腰をくねくねと動かし始めた。茶髪がゆらゆらと揺れる。なんか馬鹿にされている事は分かった。そしてその理由も高縁は薄々見当がつきつつある。


「一緒に登校してきた癖にー?」

「…いや、何のことだよ」


 心臓が大きく脈打った。何故知っている。


 事実と気取られた日には弄られること不可避なので、高縁は慌てて否定した。が、一瞬フリーズしてしまったその沈黙を、汐美がどんな意味で受け取ったのか。彼女のシマウマを追い詰めたライオンのような視線が雄弁に語っている。


「人違いだろ?」

「知らん振りしたって無駄無駄。目撃者いるんだからね」


 目撃者?と高縁は聞き返した。汐美が「おいでー」と手招きすると、教室の前扉が勢いよく開き、小柄な女子生徒がこちらへ歩いてきた。身長のせいかローツインのおさげが大きく見える。他クラスの生徒の名前を殆ど覚えていない高縁でも誰かはわかった。A組の宮坂由樹(みやさかゆき)だ。


「ゆきみん!綴里さんと一緒に歩いていたのはナオミンで間違いないよね?」

「うん。信じられないけど高縁君だった」


 この二人は仲が良いらしく大抵一緒にいるし、一緒にだと教室の騒音が100デシベルくらい上がる。というのが高縁達二年生の共通認識だった。特に宮坂は小さな体躯のどこにそんなエネルギーが有るのかと思うくらい元気なのだ。まじまじと高縁を観察している今の状態は物凄く珍しいといえる。


「さーて、コレで言い逃れは出来ないよ。タップリ吐いて貰いましょう」

「一体どんな悪どい手段を使ったのよ?」


 ニヤニヤが止まらないといった風情の汐美と、何をどう勘違いしたのか詰るような目を向ける宮坂。まるで誘拐犯を尋問する警官コンビだ。高縁はもう隠し通すのは無理だと判断して渋々経緯を話す。


「右も左も分からないって感じだったから職員室まで案内しただけだ」


 物凄く大雑把だが、嘘は言ってない。それ未遂で警官に見つかった誘拐犯の常套句じゃん。と汐美が呟く。


「なんでそっちの方向に持ってこうとすんだ」

「だっていくら初日でも、ナオミンに好き好んで話しかけるなんて」

「どう言う意味だコラ」

「根暗でボッチでオタクなナオミンが、あんなお淑やかなお嬢様と接点出来るわけ無い!」


 ふんす!と汐美は鼻息を荒くした。どこの誰が聞いていたのか「それな」と嘲笑混じりのヤジが飛んできた。言い切りやがったコイツ。声色からしてオフザケなのは分かるし、前半部分はまぁほぼ事実だけどだからってそこまで言うか。と高縁は思わず叫んでいた。


「言いすぎだろ!第一お淑やかって何だよ何がどうやったらあのサディストがそんな__」

「へ?サディスト?」


 自分の証言を額面通りに受け取るならば、この受け答えは明らかに不自然だった


 汐美が素っ頓狂な声を上げた後、宮坂と顔を見合わせた。高縁の証言を額面通りに受け取るならば、この受け答えは明らかに不自然だった。そして発言した張本人は地雷を踏んだどころか、その爆発で募穴までこしらえてしまったことに気付く。宮坂が「ちょいタイム」と言うと、汐美と二人で肩を寄せ合いひそひそと話し始めた。


 ちょっと聞きました奥様。ええ聞きましたわよ奥様。ちょっと予想外過ぎませんこと?ええ奥様どうやら私達はとてつもない深淵を覗いているみたいですわね。とわざとらしい会話が聞こえてくる。


「二人共聞こえてるぞ。言っとくけど想像しているようなことは絶対にないからな」


 高縁は二人だけでなく教室中から突き刺さる視線に耐えながら言った。自分からお前らの視界に入るようなことはしないからこっちに干渉しないで。というスタンスの高縁にとってはコレほど居心地の悪いことはない。しかも言葉のアヤが原因ときたものだ。魔女狩りの被害者もこんな心境だったのだろうか。


「本当だから信じてくれ。なんだったら本人呼び出して聞いて貰ってもいいから」

「綴里さんもう帰っちゃったよ」


 高縁はマジかと絶望しつつ、「帰った?」と聞きかえす。「うん。そそくさーっと」と汐美が返した。


「物腰は柔らかかったけどさ、話し掛けようとしたらのらりくらりとかわされちゃうんだよね」

「まぁしょうがないよ。男子連中が鼻の下伸ばしてるの丸わかりだったし」


 あの転校生そういうの躱すの得意そうだな。と高縁はなんとなく思う。猫をかぶっているのか知らないがお淑やかな振る舞いすらイメージできないのに、私どこどこの辺りから来たの。よろしくね仲良くしてね。とか話している姿はもっと想像できない。


「ほらほら、そんな事言うと高縁君が妬いちゃうよー」

「あ、そうだねそうだね。ごめんねナオミン」


 もはやストレステストと言っても差し支えない煽りのような文言に呆れ果て、高縁は「ごめん、もう帰っても良い?」と言うと、「逃んなナオミン」「綴里さんとどこで落ち合うのかなー」と畳み掛けてくる。高縁は流石に耐えかねて語気が荒くなった。


「いい加減にしろよ。ひっぱたくぞ」


 冗談とはいえあまり女子に大して言うべき言葉では無いが、そこは幼馴染のよしみというもの。汐美はふふん、と鼻で笑い飛ばすと、すっと腰を落とし格ゲーのようなファイティングポーズをとった。


「ナオミンより私の方が強いもんねー。向こうの壁まで投げてやる」


 汐美と宮坂は柔道をやっているおかげで体躯に見合わず運動神経はかなり良い。いっぽう高縁は先の通りインドアで根暗でオタク、ついでに言えばチビ。衝突すればどっちが勝つかは自明の理と言える。


「冗談だよ。ていうか」


 投げてやる。と聞いて、高縁は思い出す。


「今日柔道部あるんじゃないのか?」


 高縁の記憶が正しければ毎週月水金は柔道の部活がある日だった。その曜日は一緒に帰る事が殆ど無いし、汐美が家に帰ってくる時間も結構遅いからだ。スマホで時刻を確認すると部活の活動開始時刻はもう過ぎていた。


 高縁が「行かないとまずくないか?」と聞くと、二人は揃って顔を見合わせた後、バツの悪そうな表情を返してきた。


「今日から放課後の部活動は全面停止だよ。ナオミンは朝来てなかったから知らないだろうけど。全校集会があったの」


 全面停止?と高縁は聞き返す。不祥事やら何やらで一つ二つ。ならまだしも全面なんて聞いたことがない。ましてや今は七月。夏の大会やらコンクールやらへの追い込み時でも有るのに。逡巡に追い討ちを掛けるように、「昼に野球部が昼練してたでしょ?」と宮坂が呟いた。


 なるほど野球部にしたって全面停止など寝耳に水だろうし、だったら少しでも練習時間を稼ぎたいというのも頷ける話だった。高縁は昼間小馬鹿にした野球部のイガグリ頭達に、バカにしてスマンと心中で詫びる。


「でもどうしてだよ?またぞろ部長たちが揃ってタバコでも吸ったのか?」


 施設の改修なんて話は知っている限り聞いていなかった。県はバスを増やす金はあるのに校舎にはちっともお金をかけてくれないので、高縁にとって他に思い当たる原因は身内の失態くらいだった。


「知らないの?結構噂になってるけど」


 と宮坂が言った。すると汐美がすかさず被せる。


「ナオミンLINEとかやってないし知らないよ多分」

「生まれてこのかた、スマホの連絡先は片手で数えられる位だからな」

「ある意味凄いけど自慢することじゃないよ…」

「二人とも話が脱線してる」


 宮坂はオホン、と咳き払いを一つすると高縁の方を向き直り「聞いてて気持ちのいい話じゃないよ?」と耳打ちする。


「噛みつき病だよ」


 聞いたこともない単語。病気というからには感染症か何かだろうか。と高縁は思った。


「噂が出始めたのは先週くらいかな?突然顔色が悪くなったと思ったら、凶暴になって周りの人に襲いかかるんだって。SNSじゃ結構広まってるんだって」

「噛み付くのか?」

「うん、喉のあたりをガブッて」


 話を聞く限りゾンビか何かかにしか思えず、流石には信じられない。ましてや語り部の片方が汐美とあればなおさらだった。


「エラく具体的に出てくるけど、その、見たのか……?」


 高縁はそう聞いた。口調こそ控えめで恐る恐る、といったトーンにしているが、実際には半信半疑だ。


「ううん。見てないよ。私も話聞いただけ」


 誰から。と聞いてみると右隣を指差す。自分に矛先が向いたと気付いた汐美が口を開いた。


「私は同じクラスの神守(かもり)君から。神守君は役所の知り合いから聞いたって」

「やっぱり直接見たわけじゃないんだろ」


 ほれみろ。と高縁は思う。この手の噂話はそれっぽい出典こそ付いては来るものの実際に見た人間は一人も居ないのだ。既視感とともにそんな感想が頭に浮かぶ。どうせ件の全校集会とやらも不審者が出たから部活中止。という曖昧な表現をしたのが好き勝手に憶測を呼んでいるだけで、蓋を開けてみたらコート一枚で徘徊しているおっさんのコトを話していたつもりだったのに。というオチに違いないのだ。


「でも神守君は嘘つくような性格じゃないし…」

「いや、そうだけどさ……。その役所の人間がって話」


 余談だが神守君というのはA組の神守孝之(かもりたかゆき)のことだ。中学から一緒の筈だが、あまり話したことはない。というのも柔道部主将で頭も性格もいいし、少々老け顔だが渋い男で通る程度にはイケメンという、高縁からすれば同じ人類を名乗ることが憚られるような人間だから関わりようがない。とはいえ、少なくとも都市伝説を垂れ流すような人間ではないだろう。


「そもそも噛みつき病なんてのが本当だったら、もっと大騒ぎになってるはずだろ」


 新聞は取っていないので判らないが、テレビではそんな報道は一切やっていなかった。SNSに関してはアニメとかゲームとかの偏ったコミュニティしか見ないのでなんとも言えないが、内容を聞くにそこら辺にも伝搬する騒ぎになってもおかしくない。


「少なくともマスコミはそこまで騒いでないし。」

「圧力掛けてるって話だよ」


 誰がだよ。という呆れ混じりの一言が高縁から漏れた。それにこの流れ、さっき何処かの転校生とやった気がする。本当に圧力があったならこんなに噂が出回る訳無いだろうに。


「バンテックとかか?」

「あー、あそこ製薬会社だしね。なんか狂犬病菌とか漏れたのかな?」


 宮坂がそう呟く。それを切っ掛けにあーだこーだと汐美と二人で議論が始まった。それを見物しながら高縁は思う。


 案外、噂を流したのはあの転校生もとい綴里さんだったりしてな。噂がどれくらい拡がったのか確かめる為だったりして。チェーンメールだか口裂け女だかもそういう社会実験の一貫という説もあるし。


 バカバカしい。高縁は自分の考えを鼻で笑った。それこそ都市伝説とか陰謀論の考え方そのものじゃないか。


「でさー。ナオミンはどう思う?」

「あ、ゴメン。全然話聞いてなかった。何の話?」

「もー。なんで聞いてないのさ」


 汐美はぷっくりと頬を膨らませながら、「なんでハリウッドの安っぽい映画ってサメとヒトラーとゾンビが好きなんだろうねって話だよ」と口を尖らせた。いや、なんでそんな話になっているんだ。とんでもない議論の飛躍。パラダイムシフトを聞き逃したことを少し後悔した。


 と、その時。教室の扉が二回、軽快にノックされる。扉の向こうからちらりと一年生らしき二人の男子がこちらを伺っていた。


「すみません。宮坂先輩と名塚先輩居ますかー」


 柔道部の後輩らしい。揃って幼い顔立ちとアンバランスな体格の良さが印象的だったが、それは本格的に格闘技とかラグビーみたいなマッシブなスポーツをやっている、という裏返しでもある。


「はいはい宮坂はここですよーっと。田無君と沢村君だっけか?どしたの?」

「あ、えっと。神守先輩が今後の活動予定を議論したいと……」


 要件を伝えている一年坊主その一の声は何処かうわずっている。柔道部という女っ気薄そうな部活を選んだ一年坊主にとって、宮坂と汐美の二人は砂漠に沸いたオアシスのように見えてるに違いない。


「分かった。部室で大丈夫?」

「は、はい!」

「ん。じゃあ先行ってて。ありがとうね」


 失礼しました!と最終的に裏返った声を残して去っていく一年坊主を、高縁は若いなあ。と温かみと憐れみの混じった視線で見送る。視線がチラチラと汐美の方を見ていたので尚更だ。叶わない横恋慕ほど心の痛い話はない。


「と、言うわけでそろそろ行くね」


 汐美が高縁を見、手でゴメン。の仕草をする。


「おうおう、行って来い。白衣の王子様が待ってるぞ」

「どういう意味さソレ」

「柔道着って白いだろ。今度デート行くんだって?」


 汐美は何を言わんやとしていることに気付いたらしい。顔をほのかに赤らめながら「バカ」と高縁の額を小突く。別に秘密にすることもないだろうに。高縁は肩をすくめた。汐美が神守に惚れていることは、日頃の節々の言動で判っていたし、一緒に出かけることもまぁ知っていた。というか舞い上がった本人がゲロったはずだが覚えていないのだろうか。


「デートじゃないし第一ゆきみんも一緒だし!」


 と耳打ちするように呟く。両手に花とは羨ましい。正直あやかりたい。


「というか、ウチの柔道着白じゃなくて青だしそもそも「白馬」の王子様だし!」


 そうだっけ。高縁はと頬を掻く。ネットスラングは覚えられるのに、どうも諺はうろ覚えだった。


「二人とも何やってるのさ?汐美―、あんまり遅れるとー……」

「わかってるって!じゃあねナオミン。綴里さんによろしくねっ!!」


 置き土産だ。と言わんばかりの一言を残し、汐美は宮坂を引っ張るように教室から出ていこうとする。その背中を見、高縁はある疑問を抱いた。物凄くどうでもいい、取り立てて答えて貰う必要のない疑問の筈だったが、何故か高縁は「ちょっと待って」と二人を呼び止めていた。


「まだなにかあんの?」


 と一転して疎ましげな汐美を無視し、高縁は口を開いた。


「宮坂さんってコンビニでバイトしてた?」


 汐美を対象外にしたのは、彼女が経済的には姉に全面依存しているからだ。宮坂は一瞬キョトンとした後、「してるけど…インター前のファミマで」と答えた。


「それがどうかしたの?」

「そこって文春売ってたっけ」


 俺はなんてどうでもいいことを聞いているのだろう。高縁は心中で思った。取り扱ってるに決まっている。綴里さんに聴かされた毒が頭にまで回ってきたらしい。


「へ…売ってないけど?取り寄せなら出来るはずだけど……やっとく?」

「いや、いいよ…。なんでもない。じゃあ」


 文春売ってないんだ。うん。この辺のコンビニと本屋も全然売ってないんだって。長野から来たエリマネがびっくりしてた。へー。変なの。思い出したけど、そういえばあのエリマネ、店長と喧嘩しててさー……。


 二人が会話をしながら教室を出ていく。声が小さくなっていくのが物凄く心細く感じた。気づけば教室にはもう誰もいない。


 日差しの関係からか、教室はドス黒い影に覆われていく。どこかでカラスの鳴き声が聞こえた。高縁の頭の中を、表しようのない焦燥感が満たしていった。



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