3-1
イヤだイヤだといっても結局時は流れるわけで、オレと春井はこれから自分達がシェアする家の前にたっていた。
「シェアハウス用の家だからかな?大きいね」
「時は無情だ」
「誠二、諦めなよ」
そう言って春井は事前に貰っていた鍵を使い、家の中に入る。
「こんにちはー!わたしたち、今日からここにお世話になります。春井雨音と三鷹誠二です!」
「ドウモ、よろしくお願いします」
春井がオレの分の自己紹介もするのを聞きながらリビングであろう部屋に入り、簡単な挨拶をする。
そこにはおそらく本を読んでいたのだろう。手に本を持っている青年がいた。
青年は春井の自己紹介を聞いたあと、自分の自己紹介を始める。
「春井雨音さんと三鷹誠二さんですか。俺は椎名杠です。今日からよろしくお願いしますね」
「しいなこうさん、えっと漢字はどういう漢字ですか?」
「そうですね~、えっと、紙はどこに…。あ、あったあった」
そう言い、近くにあったメモ帳に自分の名前を漢字で書く。
「えっと、春井さん、三鷹さん。そんなかしこまらなくてもいいですよ。今日から一緒に住むんですから、ね」
「そうですね!それじゃあよろしくね。えっと…杠。でいいのかな?」
「はい。構いませんよ。こちらこそ、よろしくね、春井さん」
「雨音でいいよ」
「でも年上の人だし…」
「あー、いいよいいよ。コイツこういうの苦手だし、オレも嫌いだし、よろしくな椎名クン」
「じゃあ…よろしく。誠二くん、雨音ちゃん」
お互いにそれなりの理解を得たあと、
オレはふと、目の前にいる椎名に既視感を覚える。どこかで会ったような、しかし思い出せない。
「ねぇ椎名クン。間違ってたら悪いんだけと、オレ達、どこかで会ったことない?」
オレがきくと、椎名は少し考えるような仕草をして、こう答えた。
「少なくとも、俺には覚えはないなあ」
「うーん。そっか、じゃあオレの気のせいかな」
まだモヤモヤする心を無視して椎名への違和感を忘れようとする。
「そういえば杠、もう二人同居人がいるんだよね?」
「あ、うん。片方は彼氏とデートに、もう片方はバイトに」
「良かった!女の子もいるんだね」
沈黙に耐えられなくなった春井が質問をする。椎名の既視感で忘れていたが、そうだ。もう二人同居人がいたんだった。
「はやく会いたいな~。ねえ、いつ帰ってくるかわかる?」
「えっと、女子の方は少なくともあと三時間はかかるんじゃないかな?早くても五時に帰ってくるって言ってたから」
今は二時、まだまだだ。春井はそっか、じゃあ今のうちに荷物広げようかとオレに話しかけてくる。
オレはそれにああ、と答えてそれなりに重たい荷物を持って椎名に部屋がどこかきく。
「部屋ならそれぞれ名前が書いてあるプレートがあるから、そこ以外ならどこでもいいよ」
「プレート!ねえ誠二、わたしたちも作らなきゃね」
「へーへー。ほら春井、荷ほどきすんだろ、行くぞ」
「はーい」
春井はオレよりも荷物が多い。だからオレが春井の荷物を持って、春井がオレの荷物を持っている。重い荷物を持ってちんたらされるのはごめんだ。
オレ達が二階に上がろうとした途端、玄関の方からドアが開く音がした。
「ただいま!ねえ杠きいて!また振られたの!しかもデートの最中、お昼ご飯を食べてるときに!その上言うだけ言ってお店から出てってご飯代は私に払わせたのよ!?マジあり得なくない!?」
…はやく二階に行かないと巻き込まれるやつだ。
オレはそう、直感した。