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人生災難それが普通  作者: 推敲
2/5

2-1

「誠に有り難う御座いました」


堅苦しい口調の女が形ばかりのお礼を述べる。

結局、高校生は法に触れていることはしていないということで片がつき、説教で済んだようだった。

しかし、問題は母親の方だ。虐待といってもいろいろある。あの高校生の状態をみると少なくとも心理的虐待は確実だ。もしかしたらあの露出の多い服の下に傷があるかもしれない。

最も、自分にはもう関係の無いことだが。


「人間にも、いろいろいるんだな」

「そりゃそうでしょうよ。言っておくけど、あの娘の母親はイレギュラー、ついでに言えば私達もイレギュラーよ」

「…なにも聞こえないなあ」


先ほどの大学生と店員が話している。口振りからして顔見知りだったのだろう。

しかし、イレギュラーとはどういうことだろうか。

オレの考えを読み取ったのか、それともただ単に二人のことを見つめすぎていたのかもしれない。大学生から声をかけられる。


「そ、そういえば、あなたはどうしてこんな時間帯に本屋に来ていたんですか?」

「この時間帯は人が少ないですからね、ゆっくり出来るんですよ」

「立ち読みでもしているんですか?」

「いえ、どんな本を買おうかとか本の題名やあらずじをみてどのような内容かを考えたりしているだけですよ」


どうせ大体の本屋は子供向けの本と雑誌ぐらいしか読めない。子供向けの本は勿論のこと、雑誌に興味のないオレには縁のない話だ。


店員が仕事に戻った後もしばらく談笑していると携帯電話から電話が掛かってくる。


「出なくていいんですか?」

「はい、どうせ今どこにいるんだときかれるだけですから」

「もしかして、本当はここに来ちゃ行けなかったんじゃ…」

「良いんですよ。どこにいてもかけてきますから」

「でも、出た方がいいですよ」


食い下がる大学生、水岡閑(みずおかしずか)に言われ、また断れば同じような会話になることを察したオレは折れた。諦めてスマホの画面の応答をタップする。


「やっと出た!今どこにいるの!?家に行けばいないし!締め切りは明後日なんだよ!?」

「わかってるよ、そのくらい。ところで春井、机の上に置いてあるのはなんだと思う」

「つくえ?」


オレが机の上をみるように促すと、おそらく春井は机をみて、机の上にある原稿用紙を手に取るだろう。


「あったろ、お前のお望みのもの」

「誠二!終わったら終わったって言ってよ!そしたら取りに行くのに」

「嫌だよ。お前来るとうるさいし、その上なかなか出ていかないし」

「もしかして、わたしに会いたくないからどっかに行ったの?」

「まぁ、そうとも言えるな。別に用事も有ったからお前が来なくてもどっかに行ってたな」

「…」


返ってくるのは無言のみ。メンタルは強い春井なら問題ないことはわかっている。しかし、いつもより長い沈黙に違和感を抱く。


「春井?どうした?」

「誠二は、そんなにわたしが嫌い?」

「は?何でそうなんだよ」

「だって、いつもわたしのことバカにするし、そうやってわたしのこと遠ざけるし、わたしのなにがいけないの」

「え、あ、イヤー、いけないというか、なんというか…」

「はっきり言ってよ!わたしだって理由もわからないまんま嫌われるは嫌だよ!」

「わかった!わかったから少し黙ってくれ!」

「ほら!そうやって逃げようとする!」

「ちがっ、ちょっと整理したいだけで…。電話は切らないから、な?」


マジで頼む。さっきから水岡の視線が痛い。


「…わかった」


春井がそう答えたあと、オレはすぐに脳を働かせる。

オレは春井をいじめていたつもりはないし、嫌いだというわけでもない。

ただ春井の持病が持病だからそうするしかないだけなのだ。でなければわざわざバカにしたり、遠ざけたりしない。

いや、流石に家に居座られるのは嫌だから帰れとはよく思うし、口にすることもあるのだが。

しかし残念なことに、春井は自分の病気に気づいていない。そしてオレも春井の上司からも言わないように頼まれ、それを了承している手前、言うわけにはいかない。だからこそ、どう説明しようか悩んでいるのだ。


「…やっぱり、理由は無いんだ。わたしが嫌いなだけなんだ」


しばらく黙っていたせいで春井が先程の自分の言葉と矛盾したことをいい始める。お前さっき自分で嫌いな理由言えって言ったろ。急に理由無いとか言うなや。

しかしここでうじうじ言われるのも厄介だ。まとまっていない思考を捨て、全て己の口に任せる。


「ちがうんだ春井。お前は遅い時間までオレの家にいるだろ?結婚してねぇ女が一人で男の家にいるのは危険なんだ。だからオレはいつもお前を帰らせようとしているんだ」

「どうして危険なの?」

「どうしてって…ほら、いやなこととかされるかもしれないだろ?」

「確かに誠二はわたしに勉強させるけど、男の子が皆そうじゃ無いでしょ」

「お前もいつかわかるから、とにかくはやく帰るように」

「じゃあいつもわたしをバカにするのは?」

「え?あー、お前の反応が面白くて、つい」

「わたしの反応は面白くない!」

「そういうところが面白いんだよ」

「うるさい!…でも、誠二には嫌われてないんだね?」

「あぁ、嫌ってないさ」

「よかった。ねぇ誠二、はやく戻って来てね。誠二に伝えなきゃいけない事と渡さなきゃいけないものもあるから」

「伝えることなら今伝えるのはダメか?渡すもんも机におくなりしておいてくれよ」

「だめ、誠二のサインが必要だから」

「サイン?あー、うん。わかったよすぐ帰る」

「うん。ゆっくりでもいいよ」


はやく帰ってこい言うわりにはゆっくりでいいと言う、やっぱりアイツは矛盾している。

電話を切り、水岡に、では、オレはもういきますね。といって去ろうとしたときだった。

水岡に肩を掴まれ、こう言われた。


「もう少し、お話ししましょうか。三鷹さん」

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