I believe K
私には自分の色がない。
それは、良く言うと誰の色にも染まる事が出来る反面、個性というものが見えない。
百人いる中の、私はたった一人。
きっとそうやって埋もれて過ごしていく。ただそう思っていた。
そんな中で、私はあなたに出会った。
あなたとの出会いは最初は堅物そうな人だと思っていたのを覚えている。
あなたもまた、私にとって百人いる中の一人にしか過ぎないのだから。
流されて過ごしてきた私は、あなたとゆっくり距離を縮めてきた。
私は私の色が無い。だから、簡単に彼の色に染まれるだろうーーそう思っていた。
百人いる中の一人であるあなたは、私にナイフのような言葉を突きつけてきた。
それは、私が自己防衛として張ってきた心の壁。
あなたは、その壁を壊そうと、いつもまっすぐな言葉を向けてくる。
私はいつも強がってばかり。周囲に優しさを振りまいて、誰からも嫌われたく無い。
でも本心は人が怖い、人を見られない。ーーそんな弱い自分に毎日うんざりしていた。
小学校の頃から虐めを受け続け、転校しても虐めを受け、修学旅行では友人に裏切られ、中学に入っても心無い陰口に心を閉ざし、高校では自分を殺して現実世界の人間から自分を離した。
専門学校に入り、私は親の敷いたレールに乗り対人恐怖症と人間嫌いを治す為に荒治療を行った。
そして、私は過度のストレスで右耳の音を失った。
精神的な突発性難聴。
聞こえる時はさざ波のような音が少しだけ頭に響く。
耳は聞こえますかと言われると、左耳が異常に聞こえるから全く苦労は無い。
あなたはいつも私に確認してくる。
私の両耳に暖かい手を当てて、暫くの間何も言わない。
瞳を閉じると、あなたの血の流れる音が聞こえてくる。
「聞こえるよ」
あなたの心臓の音。
あなたが生きている証。
あなたの私への想い。
彼は私を縛らない。
それでいて、私を自由に輝ける場所へ解き放ってくれる。
あなたと過ごしていると、私が自分で作り上げた心の壁にぶち当たる。
例えいくらあなたと身体を重ねても、心の距離は自分が詰めないと縮まらない。
淡く光るオレンジ色の照明を見つめながら、胸の間に顔を埋めている彼の頭を優しく撫でる。
何にも変えられない、私の大切な人……。
「……信じてもいいの?」
「俺を信じろとは言わない。信じるかどうかは、お前次第だ」
私は自分の色がない。
だから、もういっその事誰も信じないで、心も真っ黒になろうと思っていた。
あなたは私にとって心の絵の具。
私の心に色をつけてくれる。
あなたの言葉ひとつひとつが、私に沢山の色を与えてくれた。
生きる事。
元気になる事。
笑う事。
人を信じる事。
そしてーー
素直になる事。
少し顔をあげたあなたの唇をそっと塞ぎ、今度は私が彼の広い胸に顔を埋める。
裏切られ続けた人生の中で、私の心の壁を破壊してくれたあなた。
あなたは弱い自分を強がって見せて、私の逃げ道を塞いで、一緒に迷路から出られるように力強く手を引いてくれる。
あなたの言葉は自分自身にも投げていること、知ってるつもり。
私に力強く語りかける言葉は、すべてがずしんと心に響く。
私がいつも逃げて目を背けた事を、あなたは一緒に向き合ってくれる。
都合のいいことも、都合の悪いことも全部ーー
あなたは私に散々傷つけられたのに、どうして私を優しく包み込んでくれるのだろう。
私は、傷つけたあなたの心を修復する術を知らない。いつも泣いてばかり。人の言葉をまっすぐに受け止めて勝手に傷ついて、それをあなたに八つ当たりしてお互いの心を傷つけた。
それなのに、あなたは私の精一杯の去勢を、何事も無かったかのようにするりと入ってくる。
心の絵の具で彩りをつけて、私を少しずつあなたの色に染めてくれる。
ーーいや、染めてくれるのではない。
あなたはきっと、私にキッカケを与えてくれているのだ。
染めるも、染まるも、私の心のあり方次第。
私はくぐもった声で呟く。
あなたが好き。
返事の代わりに、あなたは私の髪をいつも優しく梳いてくれる。
黒いセミロングの髪が彼の指に絡まる様子を私はぼんやりと見つめる。
でも、本当は私の心を「好き」という言葉よりも、もっと伝えたい言葉がある。
その言葉を、軽々しく言ってはいけない事くらい分かっているつもりだ。
今まで何度も何度もその甘い言葉に騙されてきたのだから。
だからこの言葉は軽々しく言ってはいけない。
歌の中でも恥ずかしくて、なかなか言えない私の本音。
……多分、もう言わないから。
一度だけ、言わせて欲しい。
ーー愛してる。