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泣き虫ヴァンパイアと狼女な彼女  作者: トキノトキオ
■第一章 アライバル
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(3)落陽 ~没落貴族~

「なに!なんだと!じゃあどうしろと?ああ……ああ……うん……いや、それは!…………」


 ツーツー ツーツー


「あああああーーー!坊っちゃん!どどど、どうしましょう?」


 ある朝のダイニングでジュリアーノが大きな声を上げた。

 大きく開かれた南向きの窓に陽射しがこぼれ、風がカーテンを揺らす。

 レースをあしらった真っ白いテーブルクロスが広げられた長いテーブルの上には、陶器の皿や、金や銀の食器が並んでいた。皿の上にはサフランライスにボイルドエッグ、シタビラメのムニエルにシーザーサラダ、そして特製スープがほんのりと湯気をあげていた。イヴァンがその朝食を食べていると、ジュリアーノに電話がかかってきたのだ。


「どうしたんだい?ジュリアーノ。今日の朝食もバッチリだよ」

「そんなコトは当たり前です!朝4時に起きて朝市で買い付けしてきた旬の食材をミラノ時代に身につけた三つ星レストラン級のこのワタクシが調理したんですからね!あ、卵は塩で食べてくださいよ!岩塩で!ソースとかつけたら台無しですからね!」

「あ、ああ……毎日ありがとう。で?何かあったのかい?」

「そうでした、そうでした。坊っちゃんが余計なこと言うから話がそれたじゃないですか!あ、ムニエルはレモン絞ってくださいよ!ほら、こぼさない!」

「…………で?」

「………あ!いやいやいやいや、おおおおお金が、お金が、お金がアリマセン!こ、こここれ、ここに昨日までは0が7つか8つ並んでいたのに!で、本国に問い合わせたら、もう本国はアテにするな、お前らは日本で勝手に生きろと言われたのですよ!」


 ジュリアーノは取り乱したまま、オンラインバンクの残高照会が映ったスマホ画面を振り回していた。が、振り回しているのでイヴァンにはよく見えない。


「お金?それが無いとどーなるの?」

「ぼ、坊っちゃん……そんなコトも知らなかったのですか?お金がないと…………まず服が買えません!靴が買えません!バックも腕時計も、指輪も、何も買えなくなるのです!」


 なぜかブランドスーツの上にエプロンを着た姿のままだったジュリアーノは、スーツや腕時計、指輪をつきだしながら叫んだ。


「なんだ、そんなモノ要らないじゃないか」


 イヴァンがかまわずスープに口をつけようとするとジュリアーノの目つきが変わった。


「そんなモノ?そんなモノとは何ですか!!!まもなくヴァルドーニィーの新作が発表されるといいますのに!ワタクシに時代遅れの服を着ろとでも?我々のような滅びゆく種族は古びた服で十分だと?……そういうことですか!」

「い、いや、そ、そーは言ってないケドさ。服は古くても生きてはゆけるだろ?ってコトさ」

「まー、そうですよ。そーですとも。まあ、ワタクシは、ですけれどもね」

「どーいうこと?」


 ジュリアーノは自分を落ち着かせるためなのか、外したエプロンを丁寧にたたみはじめた。


「坊っちゃん。血、飲めないのですよね?生き血」

「あ、ああ、それはほらトマトジュースでなんとかなるって話でしょ」

「ですね。リコピンでしたか?とりあえずはですけど。で、そのトマトジュースを買うには?」

「……あ」

「そう。お金がいるのですよ。まったく!世の中、金!金!金!この世界は金の亡者しかいないのか!ってくらいですよ」

「そ、そうか……ジュリアーノが言ってもまったく説得力がないけど、トマトジュースがないと……困るなあ」

「ですね。坊っちゃんは、ですけどね。生き血であればそこら中にうようよありますものを……」


 今度はイヴァンの眼の色が変わった。


「吸ったのか!ジュリアーノ!オマエ、人間の血を吸ったのか!」

「なにキレてるんですか。だいたい坊っちゃんは最低一人の処女の血を吸わなければならないというのに、そんなコトでどーするのです!」

「そ、そのことだけど……なんとかならないのかなあ」

「ならないですね。ほとんど死滅した本国の一族を復活させるためには、成人した純血種のヴァンパイアのチカラが必要なのです。つまり、坊っちゃんが早く成人しないと、お母様もお父様も、いいえヴァンパイア一族すべてが死に絶えるのですよ」

「あ、ああ。それは……分かっている……つもりだ。それでも……」


 イヴァンには父と母の記憶も無い。しかし、その名前がでると胸の苦しみが止まらないのだ。


「吸ってなどいないですよ」

「え?」

「汚らわしいメス共の首など、このジュリアーノ、どーして噛みつけるというのですか!」


 実のところ、潔癖症のジュリアーノにしても人間の血液を生で吸うことは出来ず、輸血用の血液を吸っていた。だから病にもかからなかったのだろう。そうして結局、人間の生き血を吸わない、吸えない二人だけが日本に残った。


「それでも……」

「それでも?」

「お金がなければ輸血用の血液も手に入らない。ワタクシは醜くシワだらけに干からびて死ぬのは御免ですからね。そーなったら、不本意ながら吸うしかないでしょうよ」

「そうか……そうなのだな。生きるためにはお金がいる……のか……どうしたらいい?どうしたらお金は手に入る?」

「盗むか……働くか……でしょうな」

「盗みはできない。一族の血統にドロを塗るようなコトはできない。とすれば……」

「働くしかないでしょうなあ……できますかな?お坊っちゃんに」

「ジュリアーノも働くんだよ!」

「…………ですよね」



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