#4
更新が遅くなりすみません。
「もうすぐ中学ですからね、今の勉強を維持しておられれば大丈夫です、ね、日織さん」
そう、谷屋は声をかけた。
「あ…はい」
頷いた日織。
「そちらの…あの、えーっと…名前が」
そう言って、谷屋は秦也を見た。
「秦也です」
舞が助け舟を出した。
「そう、もう一人のご主人さんも。日織さんはちゃんと出来ておられますから、ご安心ください」
―― だが。
「―― …!」
突然だった。舞と弘志が急に、立ち上がって。その瞬間、世界が無声になったような気がした。谷屋に向かって殴りかかろうと立ち上がった秦也を、強烈な音を立てて、弘志が掴んだのだ。
ドン!
「放せ…弘!…てめぇ」
壁に向かって秦也を叩きつけた弘志。暴れようとしているのか、がむしゃらに谷屋に近づこうとする秦也を、弘志が止めに入ったのだ。
「秦也…!」
何度も壁に押さえつける弘志を見て、舞はひとり、茫然としている谷屋に、言った。
「すみません、お気になさらないでください。お時間でしょう、急がれては…」
そう促すと、谷屋は「あぁ…」とだけ呟くと、畳のテーブルから立ちあがった。
「それでは、失礼します…ありがとうございました」
とてもお礼を言うような空気ではなかったが、そう言い残すと、谷屋は帰って行った。
「本当に分からないんですか?」
翌日、日織は職員室で谷屋に尋ねた。
「うん、先生にも分からない。何で秦也さんが怒ったのか…」
「何でだろう…」
「日織さんが悩むことじゃないよ、何かの勘違いだってこともあるしね」
そう谷屋は微笑んだ。
―― そう思った。
だけど。
数日後の土曜日。珍しく朝早くに目が覚めて、日織は2階から降りた。階段を下りて廊下を行き、キッチンを覗いた。
「…んー」
舞が鼻歌を歌いながら朝食を作っていた。
瞬き、日織は、玄関口の小さな庭を見た。そこにはいつも、秦也がいる。
「おはよう、秦兄」
秦也は貌を上げた。
「あ、おはよ、早いな今日は」
いつもの秦也だ。
声の調子でそう感じて、日織は一緒の目線までしゃがみ込んだ。マリーゴールドの花の植木鉢。
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