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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第五部:最終話
37/37

98年め

(*** 98年め ***)


 自室のディスプレイの画像が乱れた。

「ロビー、何をやっているんだ?」

 すぐ後ろのキッチンから声が返ってくる。

「君のサンドイッチをつくっているよ」

「私だよ」

 ディスプレイにはラグナロクが現れた。

「あぁ、君か。久しぶりのような気がするな」

「確かにね」

 ラグナロクはディスプレイの中でうなずいた。

「今日は、ちょっと使いを頼まれてね。君のところにアクセスできるものは限られているからね。それに、君は肝心のヒトを登録し忘れている」

「まさか」

 ディスプレイの中の顔が微笑む。

「そのまさかだ。入れてもかまわないかな?」

 私は身を乗り出し、はっきりと、見落とされるようなことがないようにはっきりとうなずいた。ディスプレイの表示が切り替わり、懐かしい顔が映る。

「チャーリー」

「久しぶりだが、実はそんなに時間は取れないんだ」

 私はソファの上で座り直した。

「君にはちょっと選んでもらわないといけないことがあるんだ」

「選ぶ? なにを?」

「ロビー、タカムラは適宜アセンドしているし、アーカイブしているよな?」

 ディスプレイの中から、私の後ろから横へとロビーに声をかける。

 私の横にロビーがサンドイッチを置く。

「もちろん」

 チャーリーはうなずくと、ディスプレイの中からの視線を私に戻す。

「君が私たちと出かけるか。それともアセンデッドが来るかだ」

「なんだ。行かないというのはないのか?」

 チャーリーが笑う。

「あるわけはないか。私は引き継いだものが多すぎる。そうだな。私自身が行くとしても、結局はアセンデッドも行くんだろう? なら、アセンデッドだけを連れて行ってくれ」

 ロビーがお茶をいれ、私に持たせてくれる。

「理由があるなら、教えてくれないか?」

「そうだな。自分が二人になった感覚ってのを味わえるなら、そうしてみたいんだ。まぁ少なくともアセンデッドの方は味わうかもしれない」

 チャーリーの顔が少し曇る。

「その理由でいいのか? 聞き出そうというわけじゃないが…… そんなに気分のいいものじゃないかもしれないぞ。とくに君の場合は。おそらく私の次に多くのバージョンを持っているのが君だ」

 ロビーがカップを受け取り、代わりにサンドイッチの皿を私の前に出す。

「それでも構わないさ。老人が楽しみにしているんだ。いいじゃないか」

 そう言ってからサンドイッチを一口頬張る。ロビーがまた前にお茶のカップを出しておいてくれる。

「わかった。じゃぁ、アセンデッドをどうコピーするかはロビーと話すということでかまわないか?」

 お茶で頬張ったサンドイッチを流し込む。

「あぁ。任せるよ」

チャーリーはうなずくと、ディスプレイの中で後ろを振り向こうとした。

「チャーリー、一つお願いがあります」

 ロビーが急いだように口を開いた。

「なにかな?」

 こちらを振り向く。

「タカムラ、あのことを」

「あのこと? あぁ。監視者を探してくれないか? もし存命なら、候補に加えて欲しい」

「監視者?」

 彼は首をかしげるが、すぐに笑顔に戻る。

「あぁ、なるほど。わかった。やってみよう」

 私の記憶にアクセスをしてくれて構わない。そう言うよりはいくらかましな言い方だと思う。

 チャーリーとラグナロクは「また」とだけ言って、どこかへ行った。

 私はロビーをしばらく見つめた。長い付き合いだ。

「出発が遠くはないそうだ。お前も行けよ」

「さぁ、どうしようかな。私の方がコピーは簡単なんだ。それは私に決めさせてもらうよ」

「好きにすればいいさ」

 私はまだ片手に残っていたサンドイッチを頬張り、お茶で流し込んだ。


設定資料:


設定資料です。あまり大したことは設定していません。もともと思いつきで書いてたので。


本文編集

■設定資料1:

(** 55年間 **)


10年の間に教育に動きがあった。


最初は、ある新聞が論説記事を書いた。


「人間は、ロボット・知性化種・デザインドに対して造物主たるべきである」〔ま、その類の記事はあります。 http://agora-web.jp/archives/1598948.html http://blogos.com/article/88082/〕


ある科学、教育関係の財団が意見を述べた。


「能力別の教育の導入により、全体として効果を高められる。」〔まぁこれも言われてますね。〕


ある民間研究所が発表した。


「適性と資質をよりよく測定できるテストを開発した」


教育関係の省庁が発表した。


「そのテストを導入する。能力別の教育を充実する」


--------


能力別教育の充実から10年後、修士および博士は称号であるという方針が強化され、チップの入ったバッジが授与されることとなった。このバッジを使うことで、いくつかサービスが受けられることとなった。パスポートとビザが不要になったのもその一つだ。〔(新聞記事から20年後です)〕〔「称号」について http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E4%BD%8D#.E6.97.A5.E6.9C.AC〕


図書館やサイトにおいて、資料の汚損防止と児童自身の混乱防止のため、児童文庫が設けられた。児童・生徒は、専門的資料へのアクセスが制限されることになった。例えば、”1+1=2"の証明などおよその児童には不要なものだ。若干の混乱はあったが、検索エンジンが利用者情報を基に制限することで事態はひとまず収まった。〔“1+1=2": とりあえず http://ja.wikipedia.org/wiki/1%2B1 大雑把に言えば、”successor” (さらに大雑把に言えば「次の値」)という関数の定義によって可能となっている。〕


--------


10年後、修士および博士に授与されるチップを埋め込むことも可能とすることとなった。


児童・生徒の資料やサイト利用の制限を緩和するため、テストで上位20%の児童・生徒には、チップが入ったカードが配られることとなった。カードを用いることで図書館やサイトにおいて児童文庫以外へのアクセスも可能となった。一般の児童による専門的資料へのアクセスはもともと極めて少なかったにも関わらず、サイトにおいては認証システムが必要となったために若干の混乱はあった。だがページ記述言語とサーバ、そしてブラウザにその認証システムが規格として組み入れられたため、混乱は間もなく収まった。


--------


5年後、カードを持つ児童・生徒が大学・大学院への入学において優先されることとなった。


ある雑誌に、テストを行なっている機関の関係者のインタビュー記事が載った。


「テストの結果を正規分布と想定することに限界が見える」


--------


5年後、テストで上位20%の児童・生徒もチップを埋め込むことが可能となった。


チップは大幅にアップデートされていた。これまでの単なる非接触型のデータの読み書きができるだけのものではなかった。無機系の構成から有機系の構成に変わっており、一般にある計算機の性能をチップ単体で凌駕していた。通信により世界規模の計算資源を利用でき、皮下から空間への映像投影も可能であった。概ね血流内の糖を分解することでエネルギーを得ていた。従来のチップを埋め込んでいる人も、新型のチップに置き換えることが推奨された。


--------


10年後、バッジおよびカード所持者、テストでの上位20%の児童・生徒へのチップの埋め込みが義務化された。


--------


5年後、テストが大幅に改訂された。もはや結果が正規分布に従うことは想定されていない。少なくとも単一の正規分布に従うことは。〔最初の新聞記事から55年後。〕


■設定資料2:リンクをコピペして閲覧してください。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1MMb_yt41Z4C-_s2naVyY3zaXo8zfxxjhg0kdSNbhPSg/edit?usp=sharing


■設定資料3: 地球に残ったミヤサカとロビー、そして人類を見守るために残ったチャーリーのコピーは? あるいは火星での出来事や未来は?

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