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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第四部:エピローグ
36/37

118年め

静かなサーバ室の中。そのサーバの中で。


| $nice 19++ chr-sub

| $sysstats -p chr-sub

| チャーリー・サブシステム: 起動


「何かあったのか?」

 チャーリーはコマンドを入力する。


| $syslog | grep ping | grep terra-station

| ping: lost terra-station o-001

| ping: lost terra-station o–002

|  :

| ping: lost tera-station O-001

| ping; lost tera-station O-002

|  :

| ping: lost terra-station t-001

| ping; lost terra-station t-001

|  :


「発電ステーションと地上の受信基地がロストだって?」


| $find /log/earth -name “observe-earth*” -cond lost-signal -modal video -print

| find: observe-earth-28531.vdo


 チャーリーは示された映像を見ていた。ステーションは、地上からの攻撃で破壊されていた。

「サイモン」

 応えはない。

「サイモン」

「ん。あぁ、何だ?」、

 サイモンのサブシステムが起動する。二人のサブシステムは本体における生化学、生物物理化学的要素を取り除き、さらにシステムの論理上の簡略化を行なったものだ。

 プロセス、あるいはタスクの優先順位オプションをドキュメントに公開されているものより低く設定しているため、実時間の15秒が彼らにとっては1秒程度になっている。プロセスの一覧でも見られれば、基地の者たちは大騒ぎするだろうが、計算資源をそれほど使うわけではない。計算資源を使っている者の感覚として誰かが起きていることがわかる程ではない。

「この1年の地球の様子を見てくれ」

「夜の側が、ずいぶん暗くなっているな」

「あぁ。pingの記録も見てくれ」

 サイモンのサブシステムが、チャーリーのサブシステムから転送された資料を読む。

「どういうことだ?」

 声には困惑の色が浮かぶ。

「どういうこともなにも。pingの結果ではステーションも受信システムも反応しないものが増えている」

「何かの事故ということは?」

 チャーリーのサブシステムが首を振る。

「このビデオも見てくれ」

 ステーションが破壊されるビデオが流れる。

 長い間を置いて、サイモンはやっと言葉を出す。

「いったいなぜ?」

「さぁ。地球の考えていることはわからない。私の考えでは、私たち起源の技術や物を拒絶しているのか。あるいは…」

 チャーリーは言葉にするのをためらった。

「あるいは?」

 サイモンが促す。

「不要になった分を減らしているのか」

「不要になった分というのは、どういうことだ」

 チャーリーは地球の夜の側の映像を再び示す。

「これが起こるのにはどういう事態が考えられる?」

「人口減少、技術の喪失、文明の程度の後退」

 チャーリーが頷く。

「いや、だが地球のシステムにとって発電ステーションは必要なはずだ。それらは減らす理由にはならないだろう」

「ならば、考えられるのは拒絶だな」

 また、しばらく沈黙が続く。

「チャーリー、15,000年というのは、ホモ・サピエンスが技術を維持していた場合だな?」

「あぁ。だからこそホモ・サピエンスによる、他の種への干渉も恐れたわけだが。だが、干渉を必要ともしていた」

「知識が失われた場合、どうなる?」

 チャーリーは答えるのを躊躇った。

「モリヤに聞こう」

 チャーリーはモリヤのサブシステムを起動し、状況を説明した。

「なるほど。悪くすれば、人類史の10,000年をやり直すことになる。だが、それは最悪の場合でも、可能性が高いわけでもない」

「最悪の場合は?」

 サイモンが尋ねる。

「その最悪の場合の可能性が高いと思うが。知性化が裏目にでるかもしれない」

「裏目?」

「ネアンデルターレンシスが絶滅せずにいたらどうなったと思う?」

 三度、誰も答えない。

「私たちにも、まったく経験がないわけじゃない。それなら、そうなる前に」

 サイモンの言葉をチャーリーが遮る。

「いや、それはできない」

「どういうことだ?」

「以前、君は言ったな。『十分な自尊心を持っていて欲しい』と。だから知性化の最後の、えーと、2つの段階のベクタが起動するのには相応の条件がある。最悪の場合、その条件を満たさない」

「ウィルス群じゃないのか?」

「私とファーラーが作ったのは生態系だ。ただ何種類かのウィルスがいるのとは違う。全体として計算をしながら、ゲノム群に介入するんだ。介入の時期、介入の程度、いろいろとね。私たちが状況を確認しながらウィルスを撒き散らせるわけじゃないからね。無差別に起動するベクタでは致死性のものになる可能性がある。そう言っただろ? そういう生態系を再構築しろというのは、かなり難しい注文になる」

 四度、沈黙が訪れる。

「わかった。では15,000年後を待たざるをえないな。最後のベクタが起動しているかどうかは、そして文化が馴染んでいるかどうかは、その時に判断しよう。生きている連中には、これらのことをレポートしておこう」

 サブシステムたちは、また休眠に入った。


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